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消費者保護委員会

生命保険契約の転換

弁護士 土井文美

私は1カ月前、加入している生命保険の営業職員から、「今入っている保険には医療特約がついておらず、万が一の時の保険金も少ないから不十分だ。」と言われ新しい保険への転換を勧められました。
彼女の説明では、新しい保険に転換すれば保険料は同じなのに医療特約がつき、しかも万が一のことがあった場合に支払われる保険金も高くなるというのです。
それを聞いた私は、同じ保険料なのにそれだけのメリットがつくのなら契約しない手はないと思い彼女の言う通り新しい契約に転換しました。
しかし、あとになって調べてみると、転換前の保険は更新の必要がないのにも関わらず、転換後の保険は10年後、15年後に更新手続きが必要で、その都度月々の保険料が大幅にアップすることや、転換前の保険は終身保障部分があったのに、転換後は掛け捨て型になる事が分かりました。
しかしこれらのデメリットについて彼女は全く説明してくれていませんでした。

 

 たしかに医療特約はついているし当面の保険料は同じなので営業職員が嘘を言ったというわけではありませんが、もし彼女がデメリットについても説明をしてくれていたら私は契約を転換などしなかったはずです。
このことを理由に私は契約を取り消すことができるでしょうか?

 消費者契約法4条2項の「不利益事実の不告知」によって、場合によっては取り消すことが可能です。
ただし消費者契約法では事業者に一般的な情報提供義務を課しているわけではないので、情報の不提供があったからといって全ての場合に取消を認めているわけではありません。
特に、本件のように、事業者が積極的に不実を告げた(「不実告知」という)わけではなく、ある情報を「言わなかった」という「不告知」の場合には、次に説明するように取消が認められる場合が制限されています。

 それではどのような場合に取り消す事ができるのですか?

 まず前提として、事業者があなたに対し、当該転換契約の「重要事項」または「当該重要事項の関連事項」について、あなたの利益となる事実を告げていることが必要です。
ここで「重要事項」というのは、当該契約についての「質、用途その他の内容」や、「対価その他の取引条件」のうち、消費者が通常契約を締結するか否かの判断に影響を及ぼすべきものを指します(4条4項)。 
こう言われると難しいようですが、本件であなたに告げられたような、保険の特約、保険料、保険金等についての説明は、まさに当該契約の質、あるいは対価その他の取引条件に相当し重要事項に該当すると考えて
大丈夫です。 
第二に、事業者があなたに対し当該契約の「利益事実を告知」していながら、他方でこれに関する「不利益な事実は述べなかった」事が必要です。
この「不利益な事実」というのは、前述の利益事実を告げられたことによって、そのようなことはないであろうと通常誤解するような事実でなければなりません。
もっとも、この要件をあまり厳密に考えると救済される範囲が非常に狭くなってしまうという問題があります。
消費者保護という観点からは今後そのような限定的な解釈がなされず運用されることが求められますが、本件に限っていえば、この要件を満たしていることに問題はないでしょう。 
しかし、実はこれだけの要件がそろってもまだ取消権の発生には足りません。 
第三に、事業者があなたに対し、わざと、不利益事実を告げなかったことが必要です。 
したがって、ごく例外的なことですが、事業者でさえもそのような不利益があるとは知らなかったという場合には、これを事業者側が立証すれば取り消すことはできません。 
しかし、このような重要な事について事業者が知らなかったということは通常ありえないでしょう。
不実告知による取消(4条1項1号)は故意は不要ですので、あなたの場合も、もし営業職員の言葉の中に不実も含まれているのであれば、不実告知により取り消す方がむしろ有利になる場合もあります。

 私を勧誘したのは保険会社の営業職員で、契約の相手である保険会社ではありません。
それでも消費者契約法は適用されますか?

 保険会社の営業職員や保険営業職員など、事業者から契約の媒介の委託を受けた者が不当な勧誘をした場合にも消費者契約法が適用されます(5条1項)。この場合、前述のような要件がそろっているかどうかは基本的には営業職員の行為について判断がされます。

 第4条2項により取消請求したところ、会社側は「営業職員はデメリットを説明しなかったかもしれないが、事前にそれらのデメリットも含む詳細な契約内容を記載した説明書や約款を渡している、それを読まなかったのだからあなたの努力義務違反であり取消は認められない。」と言われました。

 たしかに消費者契約法3条2項には消費者の努力義務が記載されています。
しかし、これは単なる努力規定であり、これを根拠にして消費者の取消権が否定されたり過失相殺の対象になったりするようなものではありません。
保険契約では大抵の場合、契約の内容について詳細に説明された分厚い約款や資料が渡されるもので、それを全て読めば、どこかには本件であなたが教えられなかったデメリットも記載されている可能性があります。 
しかしだからといって、消費者にはそれらを隅々まで読んだ上で契約する義務は必ずしも発生しませんし、読むだけで理解しろといわれても無理な場合も多いのです。 
もっとも、あなたが実際それらを読んでおり、契約のデメリットも知っていたというのであれば、相手方の不告知と契約締結に因果関係がないので取消権は発生しませんが、もし、事業者側が単に説明資料を渡したという「だけ」で、「告知した」とか、あなたがそれを知っていたはずだという主張をしたとしても、思料の内容や状況にもよりますが、それは必ずしも通用しません。

 実は私が転換手続きをする前に、保険会社から電話があり、「契約の転換について説明していないことがあったので、その点について説明を聞いてから契約を検討してください。」と言われました。
しかし、忙しかった私はその説明を断りました。
すると保険会社は、私の取消の主張に対して私が説明を断ったのが悪いのだから
取り消せないと主張しています。

 消費者契約法4条2項ただし書きによれば、事業者側が不利益事実の説明をしようとしたのに消費者がこれを拒んだ場合には取り消すことができなくなります。
したがって、本件のように敢えてあなたが説明を拒んだのであれば取り消せない場合があります。
もっとも、このような主張は、相手方が右事実を主張、立証しなければ認められません。 
また、時間のあるときにもう一度電話してくれなどと言ったのに連絡をくれなかったなどの場合であれば説明を拒んだことにはならないと考えられます。

 

キャッチセールス

弁護士 大搗幸男

Qさんは、恋人にプレゼントするため1万円程度のピアスを買うことにして、宝飾店に行きました。
Qさんは、ショーケースの前に座って恋人のためのピアスをあれこれ品選びをしていたが、その最中に、店員がダイヤのネックレスを首にかけて鏡を見せたりして、「よくお似合いです。
これは100万円するものですが、ぜひあなたに買っていただきたいので特別に40万円にしておきます」「プレゼントするにもピアスなんかよりダイヤのネックレスの方が恋人には喜ばれますよ」等と言って、クレジット契約書に住所と名前を記載するように迫ってきました。
Qさんは「ピアスを見に来ただけなので、ネックレスはいらない」と言って一旦ことわりましたが、別の若いきれいな店員も出て来て、Qさんにしつこく勧誘してきました。
Qさんは帰ろうとして出口に向かいましたが、店員達が「試しにつけてみてください」などと言って、なかなか帰してくれずQさんは早く帰りたい気持ちもあり、断り切れずクレジット契約書にサインだけして商品は持ち帰ってきました。
後日クレジット会社からの電話には、よくわからないまま「ハイハイ」と答えました。 
Qさんは今はフリーターなので、ネックレスの代金など支払える収入もありません。
一週間後に商品を返しに行きましたが、店は応じてくれませんでした。 
Qさんはこの契約を取り消すことができますか。

 

 この契約には訪問販売法の適用はないのでしょうか?

 ピアス購入という目的で店に行ったという事実がなければ、キャッチセールスになりますが、本件ではQさんは、自ら店に出かけていますので、現行の訪問販売法の対象とすることは困難です。

 訪問販売法の適用があれば本件でも商品を返しに行った時点でクーリングオフとなると思うのですが。

 そうですね、しかし本件では訪問販売法の適用は困難だと思います。 しかし、よく考えてみれば、本件のようなケースは、消費者にとって予想外の勧誘であり不意打ちという点ではキャッチセールスと何ら変わる事はなく、クーリングオフの適用が認められることが望ましいとは思います。

 ともかく、現行法の訪問販売法による救済は困難だということですね。

 そうです。

 消費者契約法というのが今年4月から施行されるそうですが、この法律では救済されないのでしょうか?

 いい質問です。消費者契約法では4条3項で「消費者が、・・・困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。」という条項があります。

 そうすると、本件ではQさんがクレジット契約書に署名した時に「困惑」していたら取り消せるということですか?

 そうです。

 では、消費者契約法にいう「困惑」とはどのような状況のことをいうのですか?

 そこが難しいのです。消費者契約法では「困惑」の具体例として2つの例を挙げています。
不退去と退去妨害の場合です。
条文では、不退去の場合を「当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。」と規定し、退去妨害の場合を「当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。」と規定しています。

 そうすると、本件では退去妨害の方になるのですね。

 そうです。

 では退去妨害にいう「当該消費者が退去する旨の意思を示した」とは具体的にはどのような場合を言うのですか?

 消費者が「もう帰ります」などと勧誘を受けている場所から退去する旨の意思を明示的に表示した場合が含まれることは当然ですが、それだけでなく社会通念上退去の意思を表示したと見られる場合も含まれるとすべきです。
具体的には「時間がないので」などと告知した場合や、身振り手振りなど口頭以外の手段により意思を表示した場合も含まれます。
ですから、本件ではQさんが帰ろうとして出口に向かったことが、退去する旨の意思を表示したといえるでしょう。

 つぎに、「当該消費者を退去させないこと」とは具体的にはどのような場合を言うのですか。

 「当該消費者を退去させないこと」とは、「退去を妨害すること」を意味し、物理的に消費者を退去できない若しくは退去することが困難な状況にすることも含まれます。
本件のように消費者が断っているのにしつこく試着を勧める行為や、数人の店員で消費者を取り囲む行為なども含みます。 
そもそも、消費者契約法でいう「困惑」(4条3項)とは、「困って」とか「とまどって」などといったどうしてよいかわからないという精神状態を指し、不安感を抱くことや畏怖(おそれおののく)なども含むかなり広い概念と考えるべきです。

 そうすると、本件の事例では、消費者契約法では取り消すことができるのですか。

 はい。本件の事例ではQさんは消費者契約法4条3項2号の退去妨害によりクレジット契約を取り消すことができます。
契約を取り消した場合は、商品のクレジット代金を支払う必要はありません。
但し、受け取った商品であるネックレスは店に返す必要があることは当然です。

 ありがとうございました。安心しました。

 

学金等の不返還条項の有効性

弁護士 水谷恭子

入学希望大学のすべり止めに某私立大学を受験して合格し、入学金・授業料・教育施設利用料等の入学納付金を納付しました。
その後希望の大学に合格したため、某私立大学に対して入学を辞退する旨伝えたところ大学はこれを了承しましたが、大学の入試要項には「一度納付した諸納付金はその理由のいかんにかかわらず返還しない」旨の特約の記載がありました。
入学納付金は返還してもらえないのでしょうか。

 

 大学の入試要項に「返還しない」との特約の記載がなければ入学納付金は返還してもらえるのですか?

 入試に合格して、所定の期間内に入学手続きをして、入学納付金(狭義の入学金、授業料、教育施設利用料等)を納めると、入学契約が成立します。
この入学契約は、大学に入学を辞退する旨伝えて大学がこれを了承したことにより合意解除されています。
合意解除されると学生と大学間には契約関係がなかったことになるので、特約がなければ大学は受け取った入学納付金を保有する根拠がなくなり、不当利得として学生に返還しなければならなくなります。 
そこで「理由のいかんを問わず返還しない」旨の特約条項の効力が問題となります。

 授業料・施設利用料について、返還請求はできないのでしょうか。

 民法では公平の理念に基づいて契約解除に基づく原状回復義務の規定が設けられていますが、民法の原状回復義務は任意規定であるとされています。
任意規定とは当事者間の特約で排除できる規定のことです。 
ところで、消費者契約法10条は、民法等の任意規定の適用による場合に比べて、消費者の権利を制限する特約で、その程度が民法の信義誠実の原則に反して消費者の利益を一方的に害する条項は無効であると規定しています。 
授業料・施設利用料の不返還特約は民法の任意規定である原状回復義務を排除する特約であり消費者の権利を制限する特約です。 
また、合意解約によって授業も受けず、施設も全く利用しないのに授業料や施設利用料を返さないというのはあまりに不合理であること、事実上学生には「すべり止め」のため不返還特約に異を唱えて授業料等を納めないという自由はないことから、授業料・施設利用料の不返還特約は信義誠実の原則に反して消費者の利益を一方的に害する条項といえると解され、消費者契約法10条により無効であると考えられます。
この特約が無効となる結果民法の原状回復の規定に則して大学は授業料・施設利用料を返還すべきことになります。

 入学金については、返還請求はできないのでしょうか。

 入学金の性質は、合意解約によって大学が受けるであろう損害賠償を定めた損害賠償額の予定・(違約金)と考えられます。
損害賠償の予定については、消費者契約法9条で、解除に伴う損害賠償の予定・違約金を定める条項による合算額が同一の事業者が締結する同種契約について生ずる平均的損害の額を超えるときはその超えた部分につき無効とする旨定められています。 
入学辞退によって大学が受ける損害をどのように計算するかについては難しい問題もありますが、入学金の額が入学辞退により大学が通常受ける損害の額を超えていれば、その差額について返還請求することができると考えられます。 
また、入学金の額が高額であり、入学に付随する手続き費用等の額を大幅に超えるような場合は、入学金の定め自体が消費者の利益を一方的に害するものとして消費者契約法10条により無効となる可能性もあります。 
これまでは大学が入学納付金を返還しないことについて社会的に認容されていた面があり、判例も入学納付金の返還請求を認めてきませんでしたが、入学納付金不返還を定める条項の有効性についても、消費者と事業者との間の情報量・交渉力の格差を是正し消費者の利益を図るという消費者契約法の目的にそった判断がなされるべきでしょう。

 

レンタルビデオの延滞料請求

弁護士  吉田哲也

Qさんは、ある日、レンタルビデオ店で、2泊3日280円で、映画のビデオ1本を借りました。
Qさんは、その日のうちに、そのビデオを見終わり、明日返そうと思ってビデオを棚にしまっておいたのですが、ついうっかり返すのを忘れてしまいました。そして、それから1年あまりたって、突然、レンタルビデオ店から、「1日300円の延滞料で394日分、11万8200円を支払ってくれ。」と言われました。
レンタル会員になるときに交付された約款には、1日の延滞料が300円であるとはっきり書いてあったので、レンタルビデオ屋はとりつくしまもなく、Qさんは途方にくれてしまいました。

 

 レンタルビデオ店の請求どおり、11万8200円を支払わなければならないのでしょうか?

 基本的には、Qさんはレンタルビデオ店のその請求を拒むことができると考えられます。このような請求は、一般に暴利行為といえます。 
事例の約款のように、延滞料を無限に加算するような条項は、消費者契約法10条にいう「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し・・・消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」にあたると考えられます。
そして、このような条項は「無効」(消費者契約法10条)ですから、無効な条項に基づく請求も理由がないものとなります。このような理由から、Qさんは、レンタルビデオ店の請求を拒否することができるのです。

 全く支払わなくて済むのですか?

 そういうわけにはいきません。 
レンタルビデオ店は、そのビデオを約束どおり返してもらっていれば、それをレンタルすることで利益を得ていたと考えられます。
Qさんがビデオを返し忘れたことで、レンタルビデオ店は、このような利益を得られなかったわけですから、本当であれば得られたであろう利益を賠償せよ、と主張してくるでしょう。
これを全く拒否してしまうことはできません。 
ただ、そのビデオを借りていく客が毎日いるとは限らないので、ビデオがどの程度人気があり、どの程度の回転率か、といった事情を加味して、Qさんが支払うべき額も決まるのではないでしょうか。

 

ディスポーサーの訪問販売

弁護士 小林廣夫

K子さんは、分譲マンションで一人暮らしをしています。
ある晩見知らぬ男性が突然K子さんの部屋のインターホンを鳴らし、「お宅の配水管を点検させてほしい」と言ってきました。
K子さんは男性の口ぶりから、てっきりマンションの管理業者の関係者だと思い込み、ドアを開けたところ、その男性は「生ゴミの収集回数が減るので、法律上流しにディスポーサーを付けなければならなくなりました」「お宅以外はすでにマンションの全戸が取り付け済みです」と言ってきました。 
K子さんは友人と外食の約束をしていたので「これから出かける」と言って帰ってもらおうとしましたが、帰ろうとしないので、男性の説明が事実なら取り付けざるを得ないと考え、ディスポーサの売買契約を締結してしまいました。
後日確かめてみると、マンションでディスポーサーを取り付けた人は一人もおらず、法律上の取り付け義務もないこと、その男性はマンションの管理業者と全く関係のない販売業者の従業員であることが判明しました。

 

消費者契約法では、不実告知により誤認をして契約を締結した場合は契約を取消せると聞いていますが、K子さんのケースはこの不実の告知に当たりますか?

 本ケースでは、K子さんに対し「法律上取り付けなければならなくなりました」「全戸が取り付け済みです」との客観的な事実と異なることが告げられ、それを信じたわけですから、消費者契約法4条1項1号の不実告知がなされたとして契約の取消を検討することが可能です。

 不実告知に当たればすべての契約取消が可能なのですか。K子さんのケースではどうでしょうか。

 消費者契約法ではすべての不実告知について取消を認めているのではなく、重要事項に不実告知がなされたことにより真実であると誤認した場合に限定しています(同法4条1項1号)。
そのうえで、「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容」であって、「消費者が契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすもの」を重要事項としました(同法4条4項)。 
本ケースではディスポーサーを取り付ける法律上の義務があるとの説明がなされていますので、ディスポーサーの法律上の属性につき事実と異なる説明が行われたことになります。
このような法律上の属性は「消費者が契約を締結するか否かにつき通常影響を及ぼすべき、消費契約の目的のその他の内容」に当たると解すべきであり、K子さんは売買契約を取り消すことが可能であると考えます。

 K子さんは、当初男性に帰ってもらおうとしました。それでも男性が帰らないので、やむを得ず契約をしたのですが、消費者契約法上そのことを理由として契約を取り消すことができますか?

 本ケースでは、K子さんが「これから出かける」と言って帰ってもらおうとしたにもかかわらず帰ろうとしないため、出かけるのに急いだK子さんがやむを得ず契約したという点で、消費者を困惑させる形で契約が締結されています。
消費者契約法では、「事業者に対し消費者が住居から退去すべき旨の意思表示を示したのに、退去しない等の行為により困惑させ、それにより契約させたときは、これを取り消すことができる」と規定しています(同法第4条3項1号)。 本ケースのように「これから出かける」と告知した場合は「退去すべき旨の意思を示した」とみなすことが十分可能ですから、困惑による契約の締結として売買契約を取り消すことができると考えます。

 

高齢者に対するSF商法

弁護士 都竹順一

65歳のA子さんが道を歩いていると、ティシュを配っている人に、「今、会場まで来ればお得な商品をタダで差し上げます」と呼び止められ、会場まで連れて行かれました。
中は熱気にあふれており、セ−ルスマンが、次々と商品を取り出し、これほしい人と呼びかけると、会場のあちこちから手が上がり、次々といろんな商品が配られていっています。
A子さんもつられてセ−ルスマンの呼びかけに手を挙げて答え始めました。そうこうしているうちに、セ−ルスマンは、羽根布団を取り出し、「本当は120万円のところを、今日だけ特別に60万円にする」と呼びかけました。
熱気にあおられたA子さんは、思わず手を挙げてしまい当てられてしまいました。
でもちょっと考えれば60万円の羽根布団など高すぎます。
そこで躊躇するとセ−ルスマンは、羽根布団は福祉用品だから、65歳のA子さんが役所に申し出れば、その分の代金は返してもらえる等と言います。
そして何となく契約しないと返してもらえないような雰囲気になってしまいました。
そこで言われるままに契約書にハンコを押し、羽根布団を購入してしまいました。
商品は後日届けるということです。

 

 A子さんは商品を受け取って代金を支払わなければならないでしょうか?

 商品がおよそ60万円もしない粗悪品で、その証明ができる場合は、代金を支払う必要はありません。 
A子さんは、羽根布団が通常はせいぜい数万円程度で買えるものなのに、高級品であるから60万円では安いと錯覚して契約をしています。
この場合は、A子さんは錯誤を理由に意思表示の無効を主張し、代金の支払を拒める余地があります(民法95条)。 
また、業者がおよそ60万円もしない商品なのにあえて「本当は120万円のところを今日だけ特別に60万円にする」と言っていることも考えられます。
このような事実が認められるならば、A子さんは詐欺を理由に意思表示の取消を主張することができ、契約は始めから無効として代金支払いを拒めます(民法96条)。

 商品が現実に120万円程度の価値がある場合はどうですか?

 本件の売買は、業者の店舗ではなく特設会場で行われ、布団は訪問販売法の指定商品に指定されていますから、A子さんは、契約書面を受け取った日から8日以内であれば、ク−リングオフをして、契約解除ができます。

 ク−リングオフの期間が過ぎていた場合、A子さんは業者に対して何も主張できないでしょうか?

 平成13年4月1日から施行される「消費者契約法」に基づいて次の主張が考えられます。 
1 不実告示 消費者契約法4条1項は、業者が「重要事項」について事実と異なることを告げて契約を締結した場合、消費者側は契約を取消すことができるとしています。
セ−ルスマンがA子さんに「福祉用品だから役所に言えば代金を支払ってもらえる」と言ったことは商品の品質等に関するものではなく、このことをもって直ちに「重要事項」の不実告示とはいえないでしょう。 
しかし、A子さんとしては、後日役所から商品代金を返してもらえると思って契約することになったのであり、商品の対価に関連した事実の告示と言えると思いますので、「重要事項」に該当する余地はあると考えられます。 
2 困惑 消費者契約法4条3項は、消費者が業務を行っている場所から退去する旨の意思表示をしたにもかかわらず、困惑して契約して退去もままならず契約してしまった場合も契約の取消ができるとしています。 
A子さんの場合、会場の熱気にあおられて契約しなければいけない気がして契約してしまったわけですが、これだけで契約の取消が認められるわけではなく、例えばセ−ルスマンに「一度家に帰って、家族と相談してからにします」など「退去する意思」を表示していた場合に限り、契約の取消が可能です。

 

ホテルの免責約款

弁護士 鈴木尉久

「宿泊客が、当ホテル内にお持込みになった物品又は現金並びに貴重品であってフロントにお預けにならなかったものについて、当ホテルの故意又は過失により滅失、毀損等の損害が生じたときは、当ホテルは、その損害を賠償します。
ただし、宿泊客からあらかじめ種類及び価額の明告のなかったものについては、15万円を限度として当ホテルはその損害を賠償します。」との宿泊約款が存在するホテルにおいて、宿泊客がフロントでチェックインするに際し、ベルボーイに不用になった衣類等の入ったダンボールを宅急便で送ることを依頼するとともに、宝石の入ったバッグを部屋まで運んでほしいと預けたところ、ベルボーイは、段ボール箱の宅急便発送手続をしている間に、バッグから目を離してしまい、その隙に何者かがバックを盗んでしまった。盗難にあった宿泊客は、ホテルに対し損害賠償を請求した。

 

 本件のような約款については、商法にも同じような規定が置かれているのですか?

 はい。商法595条は、「貨幣、有価証券その他の高価品については客がその種類及び価額を明告してこれを前条の場屋の主人に寄託するにあらざれば、その場屋の主人はその物品の滅失又は毀損によりて生じたる損害を賠償する責に任せず。」としています。

 本件では、消費者契約法の適用により、盗難にあった宿泊客が救済される余地があるのですか?

 まず、本件宿泊約款と商法595条とを比べると、商法595条のほうが厳しい責任を定めており、本件宿泊約款は、事業者の債務不履行責任を制限する規定とは言えませんので、消費者契約法8条1項2号の適用はありません。  
しかしながら、最高裁判所の裁判例(判例)によると、商法595条は契約不履行の場合の損害賠償責任(債務不履行責任)を制限した規定であって、事故があった場合の損害賠償責任(不法行為責任)については制限をしていないとされています。
この判例を前提とすれば、本件宿泊約款は、不法行為による損害賠償責任を一部免除した契約条項であると考えられます。
そうすると、消費者契約法8条1項4号の適用がありうることになります。

消費者契約法8条1項4号の適用がある場合には、どういった結論になるのですか?

盗難にった宿泊客が、ベルボーイの故意・重過失を立証すれば、ホテル側は、本件宿泊約款にもかかわらず、15万円を越えて実損害額の損害賠償をしなければならなくなります。

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