●040729大阪地裁h15ワ1792,14ワ11504、商品先物取引
●裁判長 塚本伊平 裁判官 金子隆雄、杉本敏彦
●新規委託者保護義務違反、一任売買

●要旨

◎ 被告会社外務員は,原告に対して配慮すべき新規委託者の保護を怠り,その上,原告が先物取引についての知識が未熟であることに乗じて実質的に一任売買を行っていたというべきであり,これは,原告の先物取引に対する知識・経験の不十分さに配慮せずに,むしろその点を利用して原告を先物取引の世界へと引き込み損害を与えたものということができ,全体として不法行為を構成するものと認められる。そして,被告会社は,被告会社外務員が業務の執行として行った上記不法行為につき民法715条に基づき使用者責任を負う。◎ 本件における被告会社外務員の行った本件取引が実質的に一任売買という形で行われていたという悪質性の高さに鑑み,公平の観点に照らして,過失相殺を行わないのが相当であるとして、取引による損害約7150万円と弁護士費用715万円を認容したが、慰藉料は認めなかった。

(新規委託者保護義務違反)◎ 被告会社においては,受託業務管理規則において先物取引の経験のない委託者に対しては,取引開始3か月以内については,投下資金を500万円以内とし,500万円を超える者については,委託者に資金的余裕があり,取引の仕組み,危険性の理解が十分と判断した場合にこれを超える受託を可とすると定められていた。◎ この規定は,被告会社における内部基準を定めたものであるが,その趣旨は,商品先物取引が証拠金取引であって価格の僅かな変動によって多額の損益が生じうる取引形態であり,極めて投機性が高いし,しかも,損益を決定することとなる相場の変動の要素が複雑な要因によって変動するため,その予測が極めて困難であり,その上,実際の取引手法として,多数の売建玉と買建玉を同時にあるいは時間差で組み合わせるなど,複雑な手法が用いられるために,初心者には,損失・利益の発生状況それ自体が理解困難なものであり,そのため,商品先物取引について十分な知識及び経験を有しない新規委託者は,その不慣れさのゆえに損失を拡大してしまうことが起こりうることから,そのような事態より新規委託者を保護し,先物取引について習熟するまでの期間に保護育成を図るという点にあり、委託者に対する取引員の一般的な注意義務の一内容を構成するものというべきである。したがって,取引員たる被告会社の外務員の行為が,この趣旨に著しく違反する等の特段の事情がある場合には,違法性が認められ,委託者との関係において不法行為を構成するものと解される。◎ 取引開始当初の新規委託者保護義務に反する勧誘から本件取引は開始され,そこで生じた損失を取り戻すため,原告は,被告会社外務員に勧誘されるがままに取引を継続していったと認められることから,被告会社外務員の行った新規委託者保護義務に違反した勧誘と本件取引によって原告に生じた損害との間に因果関係が認められる。

(一任売買)◎ 原告の被告会社における取引は原告に無断で行われた場合もあり,また,承諾を取った場合でもそれは事後的に取られたにすぎず,しかも,結果報告は残高照合通知書が原告へと送られた後になされており,原告は,残高照合回答書には被告会社の外務員にいわれるままに回答していたにすぎなかった。◎ 被告会社の外務員は,原告が先物取引につき知識が未熟であることに乗じて原告に事前に知らせることもなく先物取引を行ったものと認められ,本件取引開始時以降,原告から実質的に一任を受けて先物取引を行っていたものと認めるのが相当である。

右クリックで判決PDFの表示か保存を選択 (4.32MB)


検索結果一覧へ戻る
検索システムTOPへ戻る

アクロバットリーダーダウンロードはこちら
PDFファイルをご覧いただくには、
Adobe Acrobat Reader
もしくはAdobe Readerが必要になります。
お持ちでない方は、アイコンをクリックして
ダウンロードしてください。



※要旨は、検索の便宜のためのもので、内容に責任は持ちません。
著作権は兵庫県弁護士会にありますが、引用やコピーは自由です。