●180301 さいたま地裁 競馬情報詐欺
●さいたま地裁 平成29年(ワ)第107号 損害賠償請求事件
(平成30年3月1日判決言渡)
●裁判官 日暮直子(第4民事部)
●代理人 山口 他

●要旨

1 事案の概要
競馬情報詐欺による詐欺事案において、被害金の振込先口座の名義人(法人)の代表者(Y1)及び詐欺事業者が欺罔行為に使用した電話番号の回線提供事業者(Y3)の代表者(Y2)に対して損害賠償請求を行った事案。

2 本件の争点
(1)Y1が、自身が代表者を務める法人Bの通帳等を第三者Cに交付した行為が犯罪収益移転防止法28条2項所定の預貯金通帳等の提供行為に該当するか否か。
(2)Y1が、自身が代表者を務める法人B通帳等を第三者Cに交付した行為につき、任務懈怠責任(会社法593条1項、597条)を負うか否か。
(3)Y2は、電話回線を貸与する際、本人確認として、運転免許証を確認したことで本人確認義務を尽くした(任務懈怠(会社法355条、429条1項)はない)といえるか否か。

3 判決要旨
(1)争点(1)について
Y1は、CからB社(Y1が当時代表者を務めていた会社)の運営上必要であるとの説明を受け、Cに対し、同社名義の預金口座の入出金を同社のために管理させる目的で、同社名義の預金口座の通帳等を第三者に交付したと認められるから、Y1の行為は、犯罪収益移転防止法28条2項所定の預貯金通帳等の提供行為に該当しない。
(2)争点(2)について
Y1が通帳等をCに交付したのは、Y1が大手求人サイトに掲載されていたD社の求人に応募したところ、D社の従業員であると自称するCから仕事のために会社設立の必要があることや、会社名義で口座を開設し、それをCが管理する必要があるとの話を聞いたことによるものである。
しかし、CがY1に説明した仕事内容は不自然、不合理であって、Y1は、当該求人が特殊詐欺に関与する類いの違法な行為であることを認識すべきであったし、認識することが可能であった。
そして、Y1はインターネットバンキング等の取引内容を確認する手段を講じないままにB社の口座の通帳等をCに交付し、その結果、同口座が詐欺行為に利用されたのであるから、Y1にはその業務の執行を行うにつき善管注意義務の違反上がり、重大な過失がある。
(3)争点(3)について
特殊詐欺事案においては、レンタルされた電話回線が用いられることは公知の事実であり、Y2自身も、以前に警察署から、携帯電話等を強制的に解約する依頼を受けたことがあるのであるから、電話回線等のレンタル業者としては、本人確認を行うことについて高度の注意義務を負っていると解すべきである。
したがって、運転免許証の原本を単に目視により確認するだけでは不十分であり、総務省が公表している券面事項等表示ソフトウェアやインターネットのサイトを利用するなどして十分な本人確認義務を尽くするべきであって、これを怠ったY3には過失がある。
そして、Y2は、Y3の業務に関連し、警察から携帯電話等を強制解約する依頼を受けたこともあり、自社の電話回線が違法行為に用いられる可能性があったことを認識しながら、従業員に対し、本人確認義務を十分に尽くすため、上記ソフトを利用するよう具体的な指示をしたりしていないのであるから、その業務の執行につき重大な過失があったと認めるのが相当である。

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