【救済の手引・補訂版】(荻野一郎担当部分)
四  各種取引類型の概要と問題点 
4 外国為替証拠金取引(外国為替保証金取引、通貨証拠金取引)
 外国為替証拠金取引の対象は通貨であり、この意味で先物取引とは異なるが、証拠金取引であるところは共通であり、また、先物取引会社が多数参入しているので、便宜上、ここで触れることにする。
 なお、ここに記載されいるのはあくまで一般論である。外国為替証拠金取引については何らの規制がないため、その内容は業者によって千差万別であるから、自分が担当した事件の取引内容がどのようになっているのかはその契約書などから十分に確認する必要がある。
(一)定義
 外国為替証拠金取引は、少額の証拠金(保証金)を支払い、一○倍から数一○倍の円と外貨(ドルやユーロなど)の売買による為替差益と金利差益(スワップ金利)を狙う投機的取引である。俗に「外貨の信用取引」などとも言われてりる。
 平成一○年四月に「外国為替及び外国貿易法」(外為法)が改正され、為替取引が自由化されたことをきっかけとして、証券会社、先物取引会社などが、取引を開始したものである。平成一五年九月現在で少なくとも一○○社以上が行っていると見られるが、監督官庁がなく、何らの許認可も必要ではないために極めて零細な業者も取引を行うことが可能であり、正確な実数を把握することは不可能である。
 
(二)仕組
(1)相対による証拠金取引
 取引所はなく、全て相対取引である。業者の中で顧客と直接相対取引をする業者(プリンシパル)と、他社と顧客との相対取引を仲介すると称する業者(IB(イントロデューシーングブローカー))とがある。
 取引における約定値段は一般には取引相場はロイター社などが配信しているインターバンク市場(銀行間市場)の相場を指標としていることが多い(注一)。
 想定元本に対して、少額の証拠金(保証金)を支払って、取り引きすることから、先物取引と同じように、僅かな相場の値動きで、多額の損益が発生するハイリスク・ハイリターンの取引である。
 例えば、円・ドルの証拠金取引で一枚当たりの想定元本が一○万ドルの場合、は一ドル当たり一円の相場変動があった場合には一円×一○万倍で一○万円の損益が発生する。想定元本一○万ドルに対して五千ドル相当(二○分の一)の証拠金を支払っている場合でも、数週間で証拠金全額がなくなることも十分にある。 想定元本に対して支払う証拠金の割合が低ければ低いほど、リスク・リターンが高いことになる。 
(2)スワップ金利
 建玉(なお、外国為替証拠金取引では、建玉を「ポジション」と称することが多い)に応じて、スワップ金利(通貨間の金利差により発生)と称する金員の加減算が日々発生する。例えば、平成一五年九月現在は、ドルの金利の方が円の金利より高いので「ドル買い」の場合はスワップ金利を顧客が取得し、「ドル売り」の場合は顧客がスワップ金利を払うことになる。
(3)限月・取引可能時間
 限月(決済の期限)は業者によりあるところとないところがある。
 また、為替相場は世界中で二四時間行われているため、理論上は、二四時間取引が行えることになるが、実際には、取引可能時間も業者によって異なっている。
(4)ストップロス
 為替相場には、商品先物取引などと異なり、値幅制限がない。このため、外国為替証拠金取引は、極めて、危険性の高い取引となる。
 そこで、外国為替証拠金取引を扱う業者によっては商品の設計上、一定額以上の損失を防ぐために、損失額が一定以上になった場合に自動的に清算される自動ストップロス制度を設けているところもある。
 逆に言うと、このような設定のない外国為替証拠金取引は、極めて危険性の高い取引ということになる。
(5)維持証拠金・追加証拠金
 前述のように、外国為替証拠金取引には取引所がなく、商品先物取引のように委託追証拠金のような一般的制度はない。そこで業者によっては、建玉(ポジション)を維持するのに必要な一定額の証拠金(維持証拠金)を定め、純資産(預け入れ証拠金−値洗い損 業者によっては有効証拠金などとも言う)がこれを割り込むと追加証拠金(マージンコール)を要求するところもある。
 商品先物取引においても委託追証拠金の計算は重要であるが、外国為替証拠金取引においても取引開始時に、維持証拠金・追加証拠金制度の有無、計算方法、支払期限、支払わない場合に取引はどのように扱われるのかなど十分に説明を受けることが重要である(注二)。 
 
(三)問題点
(1)賭博に該当する可能性
 外国為替証拠金取引は、実際に通貨交換を伴わない点で、取引の法的な有効性には疑問がある。すなわち、通貨交換を伴わず、信用取引により差金決済を行う取引は、結局において、単に為替相場を指標とする賭博に過ぎない可能性があり、その旨判示する裁判例も出ている(注三)。
(2)構造的問題性
 外国為替証拠金取引は相対取引であるが、業者と直接相対取引する場合にはそもそもなぜ、その取引に顧客が一方的に手数料を支払わなければならないのかという疑問が払拭できない。また、取次であるとする業者についても、純粋に取次業だけなのか、商品取引員のように顧客に取引をアドバイスするような業務も同時に行っている場合には、取次業としての中立性に反することになるのではないかという疑問もある。
(3)スワップ金利発生についての疑問
 スワップ金利は想定元本について計算されるが、そもそもスワップ金利が発生する根拠にも疑問がある。すなわち、想定元本は飽くまで仮定のものであり、実際に想定元本に見合う現金の移動がないにもかかわらず、想定元本全額に対してスワップ金利を計算することは、経済的裏付けのない金員のやりとりをすることになるからである(注四)
(4)両建の有害性
 外国為替証拠金取引の商品設計としては、顧客の取得する(業者が支払う)スワップ金利と業者の取得する(顧客が支払う)スワップ金利では、後者の方が常に高率に設定されている。したがって、売りと買いの両方のポジションを持つ両建をした場合には、商品先物取引の両建の場合とは異なり、損益が固定されず、日々、スワップ金利の差額分が差し引かれ、損害が拡大することになる。
 業者によっては商品の設計上、両建はできないことになっているものもある。
(5)詐欺行為の誘発性
 公の取引所が存在せず、しかも法的・行政規制・監督官庁がないことから、自由に業者が外国為替証拠金取引を行うことができるため、詐欺行為を誘発しやすい(注四)(注五)。
 
(注一)価格は買いと売りで異なる。例えば「一ドルは一一八円一○銭ー一一八円五○銭」と表示された場合には業者が一ドル一一八円一○銭でドルを買い(顧客が売り)、一一八円五○銭でドルを売り(顧客が買い)という意味であり、買値と売値の差をスプレッドという。スプレッドの幅が大きいほど業者は有利である。
 
(注二)札幌地方裁判所平成一五年五月九日判決は、業者に委託者保護に欠ける行為を規制することを通じて健全な市場形成を図るために、証券取引や商品取引において求められている注意義務と同様の注意義務が、社会的に相当な方法で勧誘をすべき注意義務として課せられていると解すべきであるとし、その内容の一つとして、取引内容及び危険性の十分な説明を摘示した。そして、取引内容の説明事項の一つに「証拠金の追加が必要となる場合やその計算方法」を挙げている。
 
(注三)本来、差金の授受を約するデリバティブ取引については決済取引は賭博罪に当たる可能性が強く、このような疑義を避けるため、平成一○年の金融システム改革に伴う銀行法等の改正により銀行等の行う業務として法律上明記されることになり、これにより差金授受を約するデリバティブ取引について法令行為として違法性が阻却されると解されている。
 ところが、外国為替証拠金取引については法に何らの規定がなく、賭博に当たる可能性が極めて高い。
 札幌地方裁判所平成一五年五月一六日、札幌地方裁判所平成一五年六月二七日判決は、いずれも実際の外国為替取引(通貨交換)が伴わない外国為替証拠金取引は賭博にあたるとした。 
 
(注四)平成一五年九月五日日本経済新聞西部夕刊は外国為替証拠金取引の仲介業者が顧客から多額の資金をだまし取った疑いがあるとして、福岡県警生活経済課が、詐欺容疑で業者の事務所を家宅捜索、同課が把握しているだけで、被害者は福岡都市圏を中心に百数十人、被害額は三億円にのぼると報じている。
 
 
(注五)外国為替証拠金取引は、米国でも大きな被害をもたらしており、CFTC(米国商品先物取引委員会)は、平成一三年頃から消費者向けに警告を発し、規制を行っている(http://www.cftc.gov/enf/enfforex.htm)。