くらしの法律相談

2001年 神戸新聞掲載『くらしの法律相談』

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「家屋明け渡し請求−内縁の妻にも拒否権がある」神戸新聞 2001年6月6日掲載

執筆者:田中 賢一弁護士

30年間連れ添った内縁の夫が先日亡くなりました。内縁の夫とは、ずっと借家住まいをしていましたが、先日大家さんから「あなたは相続人ではないので、借家から出ていってほしい」と要求されました。

弁護士:大家さんと賃貸借契約を締結したのは内縁の夫のBさんだったのですか?

相談者:契約書を確かめたところ、そうなっていました。

弁護士:Bさんの肉親には、どなたがいらっしゃいますか?

相談者:夫には子供が一人もいませんでしたし、夫の両親も既に亡くなっています。もちろん本妻もいません。夫の唯一の肉親は夫の弟のCさんだけです。そもそも私は、夫の財産を相続できるのですか?

弁護士:残念ながら法律上、内縁の妻には相続権が認められていません。配偶者は常に相続人として扱われるのですが、相続関係は画一的に処理しないと権利関係が複雑になるので、入籍した者のみが「配偶者」として扱われ、相続権が認められるのです。 本件の場合、Bさんの肉親はCさんだけですから、Bさんの財産はすべてCさんが相続することになります。

相談者:では、この家に住む権利もCさんが相続することになるのですか?

弁護士:家に住む権利、すなわち賃借権も財産的な価値がありますから、相続の対象となります。従って、Cさんが賃借権を相続するのが原則です。

相談者:じゃあ、私は大家さんの言う通り、この家を出て行かなくてはならないのですか。あんまりです。

弁護士:私もそう思います。Bさんが生きていれば、あなたは借家住まいを続けることができたのですから。この点、最高裁判所も、内縁の妻は、相続人が相続した賃借権を援用して、賃貸人からの家屋明け渡し請求を拒めると判断していますので、結論的には、あなたは借家を出ていかなくてもよいと考えられます。

相談者:ちょっと安心しました。でも、相続人であるCさんから明渡しを求められたらどうなるのでしょうか?

弁護士:Cさんはあなたが住んでいた借家に住む必要はないのですから、Cさんがあなたに借家の明け渡しを請求するのは権利の乱用として認められないと考えられます。最高裁判所の判例にも同様の判断を下した事例があります。
ただ、賃借人はあくまでCさんですので、家賃の支払いをあなたとCさんのどちらがするのかなどについて、Cさんや大家さんとよく話し合いをしておくことは大切だと思います。