くらしの法律相談

2002年 神戸新聞掲載『くらしの法律相談』

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「雇用主が夜逃げ−財産散逸する前に先取特権」神戸新聞 2002年5月21日掲載

執筆者:萩田 満弁護士

アルバイト先である電気店の経営者が夜逃げしました。バイト代の代わりに店の商品をもらうことはできませんか。

弁護士:バイト代(法律的には「賃金」)が未払いの場合、従業員は雇用主の総財産の中から優先的に支払いを受けることができます。これを先取特権(さきどりとっけん)といいます(民法306条、308条)。総財産には店の商品も含まれるでしょう。

相談者:バイト代を確保できそうで安心しました。どういう手続きをすればいいのですか。

弁護士:裁判所に申し立てて店の商品を差し押さえ、競売します。その競売代金をバイト代に充てることができます。

相談者:いろいろ理由をつけられ、半年以上バイト代をもらっていないのですが。

弁護士:あなたのように勤め先が個人経営店の場合、最後の6ヶ月分の賃金しか先取特権が認められません。

相談者:生活がかかっているのにひどいですね。

弁護士:残念ですが・・・。ただ、いまのままでは労働者保護が十分ではないと、政府も新しい制度の研究を始めています(「労働債権の保護に関する研究会報告」など)。

相談者:ところで、今すぐお金が必要なのですが、どれくらい時間がかかりますか。

弁護士:申し立てをしてから裁判所が差し押さえ命令を出すまでに数日かかります。未払いのバイト代の額が分かる資料などを用意しておくとスムーズに進みます。

相談者:給与明細書などを用意しておけばいいのですね。

弁護士:そうです。それから、債権者がお店の商品を違法に持ち出してしまうこともあるので、他の店員と協力して気をつけてください。場合によっては、裁判所に申し立てて商品を勝手に持ち出されないようにすること(仮差し押さえ)もできます。

相談者:そこまでするとお金もかかるし面倒ですね。他の方法はありませんか。

弁護士:お店が事実上倒産状態になった場合、労働福祉事業団の「未払賃金の立替払制度」を利用することが考えられます(賃金の支払の確保等に関する法律7条)。事業主に代わって未払い賃金を従業員に立て替え払いしてくれるものです。制度を利用するにはいろいろな要件や、立て替え額の上限もあります。

相談者:念のため、その制度の利用も考えてみます。

弁護士:そうですね。先取特権にせよ立替払制度にせよ、複雑なところがあるので、専門の弁護士などから詳しい説明を受けた方がよいと思います。