くらしの法律相談

2002年 神戸新聞掲載『くらしの法律相談』

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「遺産分割−一方的な変更はできない」神戸新聞 2002年7月16日掲載

執筆者:酒井 尚土弁護士

父親の遺産を分割する際に、今後兄夫婦が母親と一緒に暮らすという約束で、兄に有利に遺産分割をしました。しかし兄夫婦はその約束を守りません。もう一度、遺産分割をし直すことはできませんか。

弁護士:遺産分割をやり直すためには、以前の合意を解除しなければなりません。遺産分割で定められた義務を果たさない人がいる場合、義務の履行を求めることはできますが、遺産分割を一方的に解除することは認められていません。

相談者:そのような法律があるのですか。

弁護士:法律で直接定めている規定はありませんが、最高裁判所の判例でそのように判断されています。

相談者:なぜですか。

弁護士:民法第545条1項には、解除されると最初からその行為はなかったことになると定められています。民法第909条にも遺産分割の合意をすると、死亡によって相続が始まったときにさかのぼって遺産分割の効果が発生すると定められています。

相談者:それらの規定があると、どうなるのですか。

弁護士:つまり、一度決めた遺産分割協議によって、死亡時から遺産分割の効果が発生していたのに、一方的な解除を認めてしまうと、効果は発生していなかったことになり、再度遺産分割をする必要が生じます。しかも、それによってまた、死亡時にさかのぼって遺産分割の効果が発生してしまいます。

相談者:遺産分割や解除の効果が当初にさかのぼって発生すると、どうして解除できなくなるのですか。

弁護士:先ほど説明したように、一方的な解除を認めてしまうと法律関係がとても複雑になります。さらに、相続人やそれ以外の人も遺産分割の結果を信頼して行動できなくなる、などが主な理由です。遺産分割は協議が成立するとそれで終了し、一方的な解除によって再度やり直すことができないのです。

相談者:絶対に遺産分割をし直すことはできないのでしょうか。

弁護士:絶対ではありません。この件でいえば、お兄さんも含めて相続人全員が遺産分割を解除してやり直しに合意するのであれば、合意解除といって、最高裁判所の判例でも認められています。相続人全員が合意している以上、認めても特に不都合は生じませんし、法律上問題となる規定もないからです。