くらしの法律相談

2007年 神戸新聞掲載『くらしの法律相談』

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「『公序良俗』に反した遺言−不倫相手へ判例では無効に」神戸新聞 2007年10月2日掲載

執筆者:森川 拓弁護士

Q:先日、夫が亡くなりました。昨日、夫が不倫していたという女性から、夫が作成した遺言を持っていると言われました。内容は、夫との不倫関係を続けることを条件に、自宅をその女性に遺贈するというものだそうです。自宅を女性にとられてしまうのでしょうか。

A:結論から言えば、自宅をとられることはないと思われます。遺言の内容が「公序良俗」に反することを理由に、遺言が無効であると主張できるためです。ここからそれを説明します。

民法では、公序良俗、すなわち「公の秩序又は善良の風俗」に反する事柄を目的とする法律行為(契約など)は無効とされています。公序良俗とは非常に抽象的な言葉ですが、「人間の健全な社会的共同生活を維持するために守られなければならない一般的規範」などと理解されています。

そして、一夫一婦制の日本において、不倫行為に基づく契約などは公序良俗に反するものとして、一般に無効になると理解されています。過去の裁判例においても、不倫関係の維持継続を目的とする遺贈は、無効であるとされています。

このケースも、ご主人の遺言は、不倫関係の継続を条件(目的)として、自宅を遺贈するとの内容ですから、公序良俗に反するものであるといえ、無効になるわけです。

もっとも、不倫相手に対する遺贈を有効とした裁判例もあるので、一応注意する必要はあります。それらの裁判例では、遺贈の目的が、不倫関係の維持継続ではなく、不倫相手の生活を守っていくためであることから、公序良俗に反するとはいえないとされたのです。例えば、本妻の住む自宅とは別に、不倫相手が生活していた別宅を遺贈するといったケースが考えられます。

ところで、今回の相談の場合は、遺言の無効を主張できる他、遺言の方式(作成方法)が法律上無効であると主張できる可能性もあります。法律上、遺言の方式は厳格に決められており、例えば、パソコンで作成した遺言も法律的な効力はないと一般に理解されています。このため、遺言が法律上有効なものかも、確認した方がよいと思われます。