トピックス

意見表明

≪会の決議と会長声明一覧へ戻る

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行なった者の医療及び観察等に関する法律(仮称)案に関する会長声明

2002年(平成14年)3月29日
兵庫県弁護士会 会長 大塚 明

 政府は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(仮称)案」を今国会に上程しようとしている。

 この法案は、殺人、放火、強姦、強制わいせつ、強盗、傷害にあたる行為(以下「対象行為」という。)を行った心神喪失又は心神耗弱であると認められた者で、不起訴処分とされた者或いは無罪の裁判又は有罪の裁判が確定した者について、検察官は、「継続的な医療を行わなくても対象行為の再犯を行うおそれが明らかにないと認められるときを除き」裁判所に対して審判開始の申立をしなければならず、そして、その審判手続で、「再犯を行うおそれがあると」認められた場合には、入院又は通院させて医療を受けさせるというものである。これは、刑事手続を終えた精神障害者に対し、さらに、「再犯のおそれ」という治安維持の観点から、拘禁の可否等の処遇を決定することを認めようとするものと言わざるを得ない。

 そもそも、人身の自由は何人に対しても保障されるべき基本的人権の一つであり、その制限に対しては特に慎重でなければならない。もとより犯罪から社会の安全が守られなければならないことは言うまでもないが、だからと言って、その法益の保護ために人身に自由に対する制限が直ちに許されるわけではない。しかし、政府案は、「再犯のおそれ」という極めて不明確な要件によって、精神障害者を社会から隔離することを目指そうとするものであり、人権侵害の可能性が大きいことは否定し得ない。

 また、処遇の決定は、裁判官1名と精神科医1名の合議体で判断されるというが、医学的に「再犯の可能性」を判断することは不可能と言うべきであり、それ故に社会防衛的観点を重視しがちな裁判官の判断が優位に立つ可能性が高い。このことを考えれば、今回の政府案は、過去に日弁連が反対し廃案となった「改正刑法草案」の保安処分と同様の問題をはらんでいる。

 日弁連は、「改正刑法草案」が問題となった1970年代以降、時として起こる精神障害者による不幸な事件の発生を効果的に防ぐためには、日本の貧困な精神医療の改善こそが必要であることを繰り返し主張してきた。精神障害者が、医療機関で人として遇され、そして、地域社会の一員として生活できる状況が作り出されるよう医療的福祉的なサポートを行うシステムの構築こそが政府に強く求められるのである。しかし、政府は、真に必要とされるこうした施策には着手しようとせず、あえて極めて問題のある内容の法案を上程しようとしている。その態度は、問題の根本的解決を先送りするものであり、極めて政治的な思惑に基づくものと言わざるをえない。

 以上のとおり、当会は、精神障害者に対する重大な人権侵害の可能性がある政府案に強く反対し、真の問題解決のための、国会における、医療、福祉、社会政策、そして司法を含めた多角的観点からの議論の展開を求めるものである。