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出資法の上限金利の引き下げ等を求める意見書

2003年(平成15年)7月4日
兵庫県弁護士会 会長 麻田 光広

意見の趣旨

 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条第2項の上限金利を、利息については、利息制限法第2条の利息の最高限度まで、債務不履行について予定される賠償額については、同法第4条の制限金利まで、それぞれ引き下げ、刑事上及び民事上の金利規制を統一すべきである。

意見の理由

1 はじめに

 大手商工ローン業者従業員による脅迫的な取立が社会問題となったことを契機として、1999年12月の臨時国会において、出資法5条の上限金利が、年利29.20%に引き下げられた。
 その際の付帯決議において、施行後3年を経過した時点(本年6月1日以降)で、資金需給の状況その他の経済・金融状勢、貸金業者の業務の実態等を勘案して検討を加え、必要な見直しを行なうとされている。
 当会では、以下に述べる状況をふまえ、上記意見の趣旨のとおり、出資法5条の上限金利を少なくとも利息制限法の制限金利まで引き下げ、刑事上及び民事上の金利規制を統一するべきであると考える。

2 現在の多重債務者をめぐる状況

 (1) 長引く不況下、多重債務者は増え続け、平成14年の自己破産申立件数は22万件を超え、過去最高となっている。また、破産予備軍は150万人から200万人に及ぶともいわれる。
 破産に至る理由に目を向けても、浪費やギャンブルが理由となるのではなく、生活苦や低所得、失業など、不況ゆえにやむをえず破産に至ったものが大部分を占めている。
 また多重債務者による犯罪も多発しており社会不安が増している。

 (2) 他方、消費者金融業者(以下、サラ金業者という。)は大手業者を中心に大幅に貸付残高を伸ばし、業界全体で与信残高は19兆円、大手5社(武富士、アコム、プロミス、アイフル、三洋信販)でも約7兆円に達し、空前の利益を挙げている。これらの企業は、年利25〜29.2%という、利息制限法の上限金利(15〜20%)を大きく上回る高金利で貸し出しを行っていることは、周知のとおりである。

3 あるべき金利規制

(1) 出資法金利の不合理性
 [1] そもそも金融の目的は、資金が足りない者に資金を融通し、その経済的な安定(あるいは復活)を図るものであるはずのところ、現行のサラ金業者の貸付金利は、この目的を果たしていない。つまり、サラ金に手を出した者は、経済的な安定に向かうどころか、不合理な高金利のために、遅かれ早かれ経済的に破綻してしまうのである。
 以下、具体的に検討する。
 [2] サラ金業者は、生活の中で不足した金員を消費者に提供するものであるところ、その貸付金額総額を仮に100万円と設定する。通常サラ金業者の債務者一人あたりの与信額が50万円であることを考えれば、2社分の貸付総額として捉えることができる。
 そして、サラ金を計画的に利用できるための完済期間、つまり、新規借り入れをしつつも順当に返済を行い、多重債務に陥らないようにできる期間として、1年間を想定する(なお、民事再生法の小規模個人再生における再生計画案は通常3年であるが、これは多重債務に陥った者の終局的処理ー金輪際借財をしないことが前提になっているーに向けた年限であるため、ここでは採用しない。)。
 そこで、次の表のとおり、100万円の融資を受けた者が、一年間で完済するために月額いくら支払う必要があるかを、年利ごとに分けてみた。

年利 10% 15% 18% 20% 25% 29.2%
月返済額 ¥87,921 ¥90,265 ¥91,689 ¥92,644 ¥95,056 ¥97,108

 他方、債務返済の引き当てとなるのは、家計における黒字(実収入から実支出を引いたもの)となる。この黒字は、総務省統計局の平成14年度家計調査によると、全国勤労者世帯平均で、123,284円となる。もちろん、家計において急の出費がありうるため、この黒字額すべてを債務返済に充てられるものではない。そこで、このうち3分の2を債務返済に充てられるものとする(これは、民事再生法の給与所得者再生において、可処分所得の3分の2を月額返済額としているのを参考にした)。
 とすると、平均的な全国勤労者世帯で、債務返済に充てられる額は、82,189円となる(123,284×2/3)。すなわち、平均的な全国勤労者世帯において、100万円を1年間で完済するには、年利10%であっても要返済額が返済可能額を超えてしまっているのである。いわんや、サラ金を利用するのは、低所得層=平均的な全国勤労者世帯よりも収入が低い層である。
 このように、現行のサラ金業者の貸付金利では、金利が不合理に高く、借り入れをした者が遅かれ早かれ支払い困難に陥る構造になっているのである。

 [3] また、わが国の資金運用益に目を向けても、サラ金の不合理な高金利が浮き彫りになる。すなわち、現在のわが国は、公定歩合が年0.1%、銀行の普通預金金利が年0.02%という超低金利時代にあり、資金の運用益がきわめて低い社会になっている。
 これに対して、サラ金は業者の貸出金利は年25〜29.2%であり、普通預金金利の1250倍から1460倍という超高金利になっている。
 よって、サラ金から資金調達した者が、これを運用してサラ金への返済を果たすということは客観的に不可能なのである。
 さらに、金利が度を越えて高い故に、過剰与信が行われる。すなわち、サラ金においては調達金利が極めて低い一方(大手では年利2%前後)、上記のような貸出金利(年25%〜29.2%)では貸せば貸すほど儲かり、貸し倒れリスクを十分に見込めるため、安易な審査で不必要な貸し出しを行うのである。過剰与信によって債務者は、不合理な高金利をさらに背負わされ、経済的破綻への道を加速させる。このような過剰与信を発生させているのは、不合理な高金利に他ならないことは明白である。

(2) 金利引下げの必要性
 このように、現行のサラ金金利は、既に金融としての合理性を失っている。そして、現行のサラ金金利は、出資法の上限金利を基準にしたものである以上、これを引き下げる必要性は明らかである。
 このような高金利で営業を行なうサラ金に手を出したものは、遅かれ早かれ自転車操業に陥り、経済的破綻に向けて、債務返済だけに頭を悩ませる人生を送ることー債務奴隷となることーを余儀なくされる。
 いずれ経済的破綻にいたることを考えれば、債務返済だけに頭を悩ませる期間は、何ら生産性がないことに人生のエネルギーを浪費していることになる。生産性のないことに人生のエネルギーを使う人間が増加することは、社会全体の活力を低下させることになる。
 よって、社会全体の活性化という視点からも、出資法違反の上限金利引下げが求められるのである。

(3) あるべき金利規制
 そこで、さしあたり利息制限法の上限金利まで、出資法の上限金利を引き下げるべきである。上記表のとおり、利息制限法の上限金利(15%〜20%)ですら、決して金融としての合理性を有しているとはいえないが、(将来的には利息制限法規定の上限金利の引き下げが議論されるべきである。)民事上刑事上の金利規制を統一するべきであるという視点から、とりあえずは利息制限法の上限金利まで、出資法の上限金利を引き下げるべきである。利息制限法違反という客観的な法令違反状態の放置を許容するのは、法治国家にあるまじき状態だからである。
 なお、現行の利息制限法は、戦後初期の高金利時代である昭和29年に制定されて以来、その制限利率がそのまま維持されている。
 しかるに、利息制限法制定当時である昭和28年の国内銀行証書貸付平均金利が12.045%であるのに対し、昭和61年〜平成6年の、9年間の国内銀行貸出約定平均金利の平均値が5.539%になり(なお、同7年以降は、銀行救済のための特殊政策的金利設定であることから比較対象としては除いた)、前者と比べ約54%まで減っているのである。このように、利息制限法の上限利率ですら、客観的に高すぎるのである。

(4) みなし弁済規定の撤廃
 貸金業規制法は、一定の要件を満たす場合に、利息制限法の制限利率を超える利息・遅延損害金の支払いを有効な利息・損害金の支払いとみなしている(43条1項・3項)。
 しかし、上記のように民事上・刑事上の規制金利が統一されれば、本規定は無意味なものとなるため、これを撤廃するべきである。

(5) 補足説明
 出資法上限金利の引き下げに対しては、ヤミ金融が増加するという反対論があるが、この両者には因果関係がなく、このような見解に理由はない。
 ヤミ金融増加論には、(1)金利が下がると、消費者金融が貸し渋りを行い、その結果借り入れができなくなった者がヤミ金に手を出すという説と(2)金利が下がると収入の減った金融業者がヤミ金融になるという説があるが、いずれも妥当ではない。
 まず、(1)についてであるが、金利が40.004%から29.2%に引き下げられた後も、貸金業者全体の貸付額は伸びているという客観的状況に照らせば、理由にならないことは明らかである(2000年3月末で、業界全体で融資残高前年比11.8%増。2001年3月末で同16.7%増。2002年3月末で同14.5%増)。
 次に、(2)の議論であるが、現在増大しているヤミ金融の多くは、暴力団関係者であると報じられている。正規業者がヤミ金になったという事例は報告を聞かない。また、ヤミ金の存在は、出資法上限金利が引き下げられる以前に既に確認されている。
 金利引き下げがヤミ金融を増加させたという論は、出資法上の金利の引き下げとヤミ金が社会問題化した時期の、偶然の一致を根拠にしているのみで、なんら社会学的裏付けを有しないものである。むしろサラ金業界が金利引き下げを阻止あるいは引き上げを目指して引き合いに出した、ためにする議論である。
 ヤミ金融の跳梁跋扈は、端的に我が国の長期にわたる不況が原因である。不況で資金需要が増大していたところに、ヤミ金融が銀行振込を利用する手口を編み出し、日本全国の主婦層をターゲットに貸付をはじめただけである。家計が逼迫した家庭が増えているところに、ヤミ金融が、銀行振込を利用し、日本全国の主婦をターゲットとして貸付を始めたことから、ヤミ金融が爆発的に増えたにすぎない。またヤミ金がターゲットとする被害者は、過去に自己破産をした者や多重債務者であるが、これらの被害者のほとんどはサラ金に対する 高金利の支払に行き詰まった者であり、高金利こそがヤミ金被害を生みだしているのである。
なお、ヤミ金融の取り締まり強化は、今後とも強力に推し進めるべきことを付言する。

4 上限金利引下げにあわせて求められるもの

(1) 債務整理サービスの充実
 過去の上限金利引下げにより、サラ金の貸付額は客観的に下がっていないが、さらなる上限金利の引下げにより、サラ金の貸し出し審査が強化され、借り入れをすることができない者が増加する可能性を全く否定することはできない。こうした者の多くは既に多重債務に陥っており、何らかの法的手続なくしては、救済不可能な状態にあるものである。
 よって、適切な法的手続によって救済されるよう、債務整理サービスの充実を図るべきである。
具体的には、弁護士会へのアクセス強化、法律扶助協会の予算拡充が挙げられる。

(2) 消費者教育の充実
 一方、新たな多重債務者をつくらないよう、徹底した消費者教育をなすことも必要である。
 すなわち、すべて多重債務は、借金の開始からスタートしたものである。借金をしないことが、多重債務に陥ることを回避する、唯一かつ最良の方法である。
 具体的には、すべて国民は、自分の現在の経済力によって購入できる財が、自分の身の丈にあった財であることを認識し、借金をしてまで自分の身の丈以上の財を手に入れようとは考えないようにするべきである。よりよい生活をしたいのであれば、労働によって、身の丈を高めるべきであるという発想に至るべきである。

(3) サラ金CMの規制強化
 サラ金CMは、いたずらに身の丈を超えた消費を煽る内容になっており、若年層に「サラ金」の暗いイメージを払拭させ、借金の抵抗感をなくさせる役割を果たしている。また、これらのCMでは、視聴者は、サラ金が利息制限法に違反する金利で貸付を行っている違法企業であるとの認識を持つこともできない。
 これらCMは国民を多重債務の地獄へといざなうものであり、かようなCMは、国民の豊かな生活を守るため、規制するべきである。
 最近その氾濫が目に余ることから、平成14年12月20日、「放送と青少年に関する委員会」(民放連とNHKが共同で作った第三者機関)は、消費者金融CMは民放放送基準の「金融・不動産の広告」などの項目に抵触する恐れがあるとして、午後5時から9時までの放送自粛や、安易な借入を助長しない内容とすべきであるとの要望書を提出していることは評価でき、その誠実な実現に向けて努力されるべきである。

5 結論

 以上のとおり、個々の国民が不合理な高金利に苦しめられることを回避する一方、社会全体の活力を奪わないためにも、出資法の上限金利を現行利息制限法まで引き下げることが急務であると確信する。

以上