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住基ネット第2次稼働の問題点と当会の提言

2003年(平成15年)8月21日
兵庫県弁護士会 会長 麻田 光広

第1, 提言の趣旨

 来る8月25日に住基ネットの第2次稼働が開始されるにあたって、当会は、国民の自己情報コントロール権を保障するために、以下のとおり提言する。

1 住基ネットシステムは速やかに廃止されるべきである。

2 兵庫県及び兵庫県下の各市町は、独自の判断により住基ネットシステムから速やかに離脱すべきである。 また、国はそのような各地方自治体の意思を尊重すべきである。

3 住基ネットシステムが廃止されるまでの間は、国民個々のプライバシー侵害を最小限に抑止するため、下記のとおり同システムを厳格に運用すべきである。
[1] 住基法上、納税者番号制など他の行政機関データベースへの利用禁止を明記するなど、住基ネット情報を他の電算化された個人情報と結合しないことを明確にすること。
[2] 併せて各行政機関は、運用上も、それぞれが蓄積している個人情報ベースを、霞ヶ関WAN(霞ヶ関省庁間ネットワーク)、総合行政ネットワークLGWAN(地方自治体相互のネットワーク)等を住民票コードをマスターキーとして結合することにより相互利用しないこと。
[3] ICカードの保有を事実上も国民に強制しないこと。そのためには、転出転入手続の簡素化が住基カード保有者のみに認められる、というような便宜措置を拡大しないこと。
[4] 民間利用の禁止の厳格・徹底化。
[5] 住基ネット情報の利用事務の拡大を禁止すること。
[6] 行政機関個人情報保護法上、各行政機関の長は、「相当の理由」を厳格・限定的に解釈すべきであり、OECD8原則にしたがい、個人情報を本人の同意なく安易に他目的・他機関に流用することのないよう、厳しく運用すべきである。
[7] 登録内容の開示・是正請求制度を実効的に再整備すべきである。
[8] [6][7]の目的を達するため、(@)個人情報の登録・変更・廃棄、目的外使用及び他機関への提供の際には、原則として各行政機関に本人への通知を義務づけるべきである。あるいは少なくとも、(A)国民が直接、地方自治情報センターに対して自己情報開示を請求できるようにし、(B)住基ネットの第一義的担い手とされる市町村が、直接地方自治情報センターに必要事項の報告を求めることができるよう、市町村に同センターに対する報告請求権が認められるべきである。

4 行政機関個人情報保護法を、国民の自己情報コントロール権を実効的に保障し、OECD8原則に則った、真に「個人情報保護」の名に値する内容のものに改正すべきである。具体的には、少なくとも公正な「第三者機関」の設置、個人情報の目的外使用ないし他機関提供の場合の本人通知制度の確立をはかるべきである。

第2,問題点の指摘と提言の理由

1,はじめに

 住民基本台帳に登載される本人確認情報を、コンピュータ・ネットワークシステムを用いて全国の行政機関で共有しようとする住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)は、既に2002年(平成14年)8月5日より第1次稼働が開始されたが、さらに今般、本年8月25日の第2次稼働が目前に迫っており、これにより流通する個人情報が住民票コード、氏名、性別、住所、生年月日等6情報から戸籍の表示、転出入記録、国民健康保険等加入状況等の情報を加えて飛躍的に拡大されることとなる。

 しかし、住基ネットは国民のプライバシーに深くかかわる個人情報を、国家の手によって一元的・集中的に管理する道を開くものであり、本年5月30日に公布された行政機関個人情報保護法の不十分さとあいまって、各行政機関毎に独自に作成され保有されていた膨大な各種個人情報データベースに住民票コードが記録されることによって、国民の個人情報は極めて容易に検索、名寄せできることとなることは不可避であり、憲法13条により保護された国民のプライバシー権、とりわけ自己情報コントロール権を侵害するおそれが非常に大きい。また、大量の個人情報流出等、情報管理の安全性(セキュリティ)面からの危惧もぬぐえない。一方、これにより国民が受ける利便性等の利益は微々たるものに過ぎず、地方自治体も概ね消極姿勢であることから、住基ネットが専ら国・行政機関(省庁)側が国民を管理する上での便宜のために導入されたシステムであることは否定しがたい。

 当会としては、後に詳細に述べる理由から、かかる住基ネットの存続、拡大に反対せざるを得ない。この問題については、既に日本弁護士連合会が2002(平成14)年10月11日「自己情報コントロール権を情報主権として確立するための宣言」において個人の統一的管理システムの構築を認めず、住基ネットの稼動を停止することを提言しており、当会も2003(平成15)年4月25日「個人情報保護法案に対する会長声明」において行政機関個人情報保護法案が思想信条、病歴、犯罪歴等の他人に知られたくないセンシティブ情報の収集規制をしておらず、各行政機関の長が「相当な理由」があると判断すれば保有している個人情報の目的外利用及び他の行政機関への提供が認められる設計になっており、「相当の理由」の判断を第三者機関が行うことで公正さが担保される制度的保障もないこと等、行政機関が必要に応じて広汎に国民の情報を収集・管理・結合・行政内部で流通させることに法的根拠をあたえる内容になっており、住基ネットの住民票コ一ドをマスターキーとして識別管理されることによって国民が行政により恣意的にプライバシー侵害されかねない旨の表明したところである。

 今般、来る8月25日に住基ネットの第2次稼働が開始されるにあたって、当会は、住基ネット及び行政機関個人情報保護法の問題点を改めて指摘し、国民の自己情報コントロール権を保障するために、本提言をすることとした。

2,住民基本台帳ネットワークシステムの問題点とその廃止

(1)住基ネット第2次稼働に至る経緯
住民基本台帳ネットワーク・システム(住基ネット)は、従前、市町村単位に保有されていた住民票情報を、市町村→都道府県→財団法人地方自治情報センター(総務省外郭団体)にコンピューターネットワークを用いて送り、国の行政機関等が、個人の検索、確認に利用する仕組みである。
 そして、昨年(2002年)8月5日の第1次稼働時には、氏名・性別・生年月日・住所とその変更情報及び住民票コードが住基ネットに乗せられたのに対し、今般、2003年8月25日より開始された第2次稼働においては、さらに世帯主との続柄、住民となった年月日、住所を定めた届け出の年月日及び従前の住所、戸籍の表示、転出先及び転出の予定年月日、国民健康保険・介護保険・国民年金・児童手当の加入状況の情報もネットワークに乗せられることとなり、住民基本台帳に登載されている全ての個人情報が、全国の行政機関において共有されることとなった。併せて第2次稼働と同時に、各市町村において希望者に対し住基カード(表面に氏名や顔写真等の必要事項を印刷しICチップに住民票コード等の情報を収録したカード)の交付サービスも開始されることとなった。
 行政機関の本人確認情報利用事務の範囲も、当初、住民基本台帳法上は、年金受給資格、気象予報士登録や宅地建物取引業免許等各種の事業資格の受験や登録の事務など93事務が予定されていたところ、住基ネットの第1次稼働直後の2002年12月に成立した行政手続オンライン化整備法において、特定非営利活動法人の認証、不動産登記、一般旅券の発給、自動車登録等の171事務を加えた264事務に一気に拡大された。
 その間、2003年5月23日には個人情報保護法及び行政機関個人情報保護法等、個人情報保護関係5法が成立し、同月30日に公布、即日施行された。個人情報が国・行政機関レベルで共有化される住基ネットとの関係においては、国・行政機関が国民の個人情報を扱うときに発生する濫用・流出を防ぐために個人情報保護が図られる必要があるところ、その関係で重要な行政機関個人情報保護法は、各行政機関の長が「相当の理由」があると判断すれば本人の同意なく個人情報の目的外利用並びに他の機関への提供ができることとする(8条2項)など、むしろ行政機関相互の保有個人情報交換を合法化するものとなり、その意味で行政効率に偏したものと言わざるを得ない内容となった。

(2)住基ネット稼働の目的は何か。
このように政府は、行政効率に偏した立場から形だけともいえる個人情報保護保護法制を野党や国民各層からの反対を押し切って制定し、住基ネットの利用拡大に突き進んだと言わざるを得ないが、その目的は何であろうか。
 この点に関する政府の説明は、電子政府・電子自治体の実現をめざし「行政効率」を図るなど抽象的な説明の域を出ず、むしろ、[1]全国どこの市町村でも自分の住民票(戸籍の表示は省略)を取れる、[2]転出転入手続きは転入時1回で済む(住基カード保有者のみ)、[3]本人確認ができる事務については、住民票等の提出が不要、[4]住基カードを身分証として利用できる、[5]公的認証サービスを受けられる等、国民にとって便利な制度であることを強調するのみである。
 しかしながら、国民の利便性に関しては、住所地の自治体以外で住民票を取る機会がどれほどあるのかなど利用機会が限定的で必要性に疑義があること、住民票以外の添付書類(戸籍謄本等)の交付を受けるためには市町村役場に行かねばならず手間はさほど変わらないこと、従前も転出届の郵送提出により転入時に1回で済む方法はあったこと、多くの自治体は住基カードを身分証として利用することに消極的であること等に鑑みたとき、とてもそれが、システムを新たに構築する経費365億円、毎年の維持費190億円と試算されている住基ネットを急いで構築する真の理由とは考えられない。
 この点を解く鍵は、第1に、住民基本台帳法改正により住基ネットが制定された1999(平成11)年の第145通常国会の審議状況、第2に、早くから住民登録番号制度が制定されている韓国の立法目的をみることによって得られるものと思料される。
 第1に、第145通常国会においては、日米防衛協力のための新ガイドラインに関連する「周辺事態」法案、国旗国歌法案、通信傍受(盗聴)法案など、平和と国民主権、基本的人権尊重を定めた憲法の行く末を左右する重要法案が堰を切ったように可決されたが、住基ネットの構築を認める改正住民基本台帳法も、この通常国会において通信傍受法と同じ8月12日に自民・自由・公明の連立与党の賛成によって採決されたものである。
 第2に、韓国では、朴正熙時代の1962年に住民登録法が施行され、1968年から住民個々人に固有の住民登録番号を付け、住民登録カード(但し、紙片カード)を発行する制度が実施されている。この住民登録番号制度は、住民登録、運転免許、国民年金、健康保険、国税、地方税のみならず、金融、インターネット、大部分の契約関係等で個人識別番号として使用されており、例えば銀行に預金したり、ホテルに宿泊したり、レンタルビデオを借りる際にも番号を記載する。行政機関のデータベースにも番号が使用されている。そして、韓国政府は同制度の目的として、「[1]行政の能率的管理、[2]人的資源の効率的管理、[3]不純分子、犯罪者等の索出による社会秩序の維持」と明確に説明している。そして、1994年に「公共機関の個人情報保護に関する法律」(日本の行政機関個人情報保護法にあたる法律)が制定され、あらゆる公共機関がその所轄業務を遂行するために必要があるならば、何時でも個人情報を電算化できるよう制度化されるとともに、行政部署の所轄事務を遂行するために当該処理事務を利用する「相当な理由」がある場合は何時でも個人情報保有機関の長が保有目的以外に使用するように個人情報を提供できるようにした。
 以上の諸点に鑑み、わが国政府が莫大な費用を投じて、国民各層や自治体に反対・消極意見にもかかわらず住基ネット構築に邁進する目的は、政府による国民の管理・統制に主目的があると言わざるを得ず、かかる国の行き方は、自由社会を脅かし個人のプライバシーにとって脅威というほかなき監視社会が作られようとしていると見ざるを得ない。

3,法的問題

(1)プライバシー保護について
 個人のプライバシー権は、元来、「1人でそっとしておいてもらう権利」として生成したものであるが、国民が自由に政治参加することを可能にするためには、私的情報を公権力から保護することが不可欠であるという観点から、発展を遂げてきた。
 即ち、私的情報については、[1]収集、取得、[2]保有・利用、[3]開示・提供のすべての局面において、情報主体による決定権、同意権、その他の権限が保障されているのでなければ、私的生活の平穏は図れず、かつ国民が自由に政治参加することが不可能となってしまう。さらに、この権利を正当に行使できるためには、[4]自己の情報の開示・訂正を請求できる権利が保障されなければならない。このようにして保護されるべきプライバシー権は、「自己情報のコントロール権」と定義づけることができる。
かかる権利内容の発展は、1960年代以降、個人情報を始め、さまざまな情報を大量かつ迅速に、収集・管理・利用することを可能にしたコンピューターが官民を問わず急速に普及し、大量の情報の処理、蓄積、提供が可能となった今日、自分が知らないうちに、他者により自分に関する情報が勝手に集められたり、利用されたり、自分について誤った情報が保有され、それに基づき行政などにより何らかの措置が行われるなどの危険が顕在化していることを背景としており、かかる事態の下では単に一人で放っておいてもらうという消極的権利では、このような危険に十分対処し、人間の尊厳を守りきれないことになるため、「自己情報のコントロール権」保護の要請は、飛躍的に増大しているといえる。
 わが国の裁判所は、「前科等は人の名誉、直接信用に関わる事項であり、人はこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」とする京都市前科照会事件判決(最3小判1981年4月14日民集35巻3号620頁)、『逆転』訴訟事件判決(最3小判1994年2月8日民集48巻2号149頁)、「何人も、その承諾なしに、個人の容ぼうなどをみだりに写真撮影されない自由を有する」とした京都府学連事件判決(最大判1969年12月24日刑集23巻12号1625頁)、「指紋それ自体では個人の私生活や人格、思想等個人の内心に関する情報となるものではないが、性質上万人不同性、終生不変性を持つので、採取された指紋の利用方法次第では、個人の私生活或いはプライバシーが侵害される危険性があり、それゆえ13条によって何人もみだりに指紋の押捺を強制されない自由を有し、国家機関は正当な理由なく指紋の押捺を強制することは許されない」とした指紋押捺拒否事件判決(最3小判1995年12月15日刑集49巻10号842頁)等の判例から、必ずしも文言は明確ではないものの、確実に「自己情報のコントロール権」という側面を保護する方向へ向かっているということができる。

(2)一方、個人情報保護に関する国際的な準則に目を向けると、既に1980年に国際経済協力開発機構(OECD)が「プライバシーの保護と個人データの勾留についての理事会勧告」を採択し、各国のプライバシー保護法に共通する国内適用における8原則(いわゆる「OECD8原則」)を示した。主な条項を摘示すると、
[1]「収集制限の原則」
 個人データの収集には制限を設けるべきであり、いかなる個人データも、適法かつ公正な手段によって、かつ適当な場合には、データ主体に知らしめ又は同意を得た上で、収集されるべきである。
[2]「目的明確化の原則」
 個人データの収集目的は、収集時よりも遅くない時点において明確化されなければならず、その後のデータの利用は、当該収集目的の達成又は当該収集目的に矛盾しないでかつ、目的の変更ごとに明確化された他の目的の達成に限定されるべきである。
[3]「利用制限の原則」
 個人データは、目的明確化の原則により、データ主体の同意がある場合、法律の規定による場合のほか、明確化された目的以外の目的のために開示・利用その他の使用に供されるべきではない。
[4]「個人参加の原則」
 個人は、a.データ管理者が自己に関するデータを有しているか否かについて、データ管理者又はその他の者から確認を得ること。b.自己に関するデータを合理的な期間に、もし必要なら、過度にならない費用で、合理的な方法で、かつ自己にわかりやすい形で自己に知らしめられること。c.上記a及びbの要求が拒否された場合には、その理由が与えられること及びそのような拒否に対して異議を申し立てることができること。d.自己に関するデータに対して異議を申し立てることができること及び その異議が認められた場合には、そのデータを消去、修正、完全化、補正させること、の各権利を有する。
 等であり、これら自己情報の保護に関する原理原則により、「自己情報のコントロール権」という観点から、明確に個人の情報を保護することが提唱されているのである。
 従って、プライバシー権を「自己情報のコントロール権」と定義づけ、収集・取得、保有・利用、開示・提供の各局面において保護し、自己情報の開示・訂正請求権を実効的に保障するべきことは、高度に情報化された今日、もはや自明のことというべきであり、そのためには個人情報をそもそも電算化しない姿勢、やむをえぬ必要から電算化した場合、目的外使用や本人以外から個人情報を取得したときなどにおいて、個人情報の誤用・濫用を阻止し、自己情報の開示・訂正請求権を実効的に保障するため本人に対する通知制度を確立するなど、政府はむしろ率先してかかる権利実現のために具体的施策を講じる必要があるというべきである。

(3)行政機関個人情報保護法の欠陥
 OECD8原則や韓国の先例からも明らかなように、何よりも今、日本社会に求められるのは、政府保有の個人情報に対する規制強化である。本来あるべき個人情報保護法制は、国家による個人情報の誤用・濫用や監視社会体制の構築を許さないため、政府など公的機関に対しては厳格な規制を行いつつ、他方で、市民やメディアなど民間事業者に対してはその表現活動等の市民的自由の保障との関連で柔軟で緩和された規制を行うということであるべきである。
 しかるに今般、種々の国民的批判の中、与党により採決された行政機関個人情報保護法は、センシティブ情報等の収集禁止も義務づけず、本人情報の開示・訂正権などの例外を広く認め、利用目的の変更や目的外利用・他機関への提供も「相当の理由」があると当該行政機関の長が判断すれば広く許容するなど、端的に言えば個人情報の保護法の体をなしていない、官に対してはその拘束を解き、逆に市民を監視することができるよう準備を整えたものと評しても過言ではなく、自由社会に全くふさわしくない体制が、その意図・目的が十分に説明されないまま構築されようとしている。
 現に、同種の法制が前述のとおり1994年に制定された韓国では、2002年4月に警察庁が国民健康保健管理公団から精神病歴者リストの提供を受け、そのうち1万3000人に運転免許適性検査の通知を送るという事件が発生している。そして問題の核心は、かかる同意なき大量のセンシィティブ情報の流用・目的外利用が違法とはされず、前述の「公共機関の個人情報保護に関する法律」に基づき、公団が「他の法律業務をするための相当の理由」に該当すると判断したものとして合法とされた点にある。同じ法構造をもつ日本の行政機関個人情報保護法のもとでも、住民票コードをマスターキーとする住基ネットを利用することによって、同様の「事件」が多発することが懸念される。
 そして、国民が個人情報開示訂正請求権を有効に行使するためには、自己の如何なる情報が如何なる機関に保有されており、如何なる目的に利用されているか認識し得ることが前提であるところ、住基ネットが完成し、現行の行政機関個人情報保護法による情報交流の包括的で、かつ第三者機関による制約がない法構造を前提とすると、各行政機関が自己の所管に関わる事項について「相当の理由」があると自ら判断した場合、個人情報を目的外利用することも他の行政機関に提供することも合法的に自由となり、かつその際、住民票コードで容易に結合され得ることになるから、国民は、自己のいかなる個人情報をどの行政機関に保有されているか、計り知れぬこととなる。そのため、個人情報開示・訂正請求権を行使しようにも、どの機関にどの情報を保有されているかどうかも不明という状態になるため、行使しようがないこととなる。したがって、個人情報を本人以外の者から取得した行政機関は、当該個人に取得した旨通知しないと権利行使が実効的に保障されないこととなる。

(4)住基ネットの危険性
[1] 住民票コードをマスターキーとする情報結合
 住民票コードは、全国民に対して重複しないように付された共通番号であり、個人の同一性確認のためにはもっとも確実な情報であって、いわばマスターキーのようなものである。
住基ネットは、かかる住民票コードのもとに、国家が住所、氏名、生年月日、性別という本人確認情報を管理することを許容するものであるばかりでなく、上記個人情報保護法の欠陥とあいまって、個人のあらゆる情報の結合、国家による一元的管理の道を開くものである。
 そして、第2次稼働の開始により、回線を流れる個人情報が増大することや、住基カードが国民に配布され、その利用範囲を、各地方公共団体の独自利用や民間事業による利用にまで広げることにより、1枚のICカードの中に、様々な個人情報が記録される余地が生じていることは、正に、国家による個人情報の一元的管理の危険性が、より現実化しつつあることを如実に示しているのである。
[2] 他目的利用が事実上無制限
 住基ネットによる本人確認情報の提供は、法律又は条例に定められた事務に限られるたてまえであるものの、これらの事務が今後なし崩し的に拡大される危険性がある。現に、住基ネット稼働直後の2002年12月には、行政手続オンライン化整備法が成立し、住基事務が従前の93事務に加え、特定非営利活動法人の認証、不動産登記、一般旅券の発給、自動車登録等の171事務を加えた264事務に一気に拡大されている。
 また、全国民の本人確認情報を集中管理している地方自治情報センターは、情報公開の対象となっておらず、さらに同センターの監督機関は、現行法上総務大臣と都道府県知事だけであり、正当な第三者により構成される監督機関が設置されていないため、本人確認情報の利用状況を監督することは実質上不可能である。
 しかも、行政機関個人情報保護法の下では、国家機関が、住民票コードの下に個人データを集積して保有し、かつ国家機関同士で個人データを事実上無制限に提供し合うおそれがあり、情報の一元的管理につながるおそれが高い。
[3] 民間に情報が流れたり、情報を利用、改ざんされたりするおそれ
 全国の市町村のうちおよそ70パーセントが住基ネットワークシステムの敷設および管理を民間業者に外注委託しており(日弁連アンケート)、既存の住民基本台帳システムの情報はもちろん、市区町村のコンピュータに接続するコミュニケーションサーバ(本人確認情報を記録し、既存住基システム、都道府県サーバ、他市町村コミュニケーションサーバとデータ交換を行うためのサーバ)をはじめネットワークの構造やファイアーウォール(不正アクセス防止のための専用機器)などを複数の民間業者が知ることとなり、秘匿性がすでに失われているほか、住基ネットの運用に従事する者からの漏洩や目的外利用、情報改ざんのおそれがある。
 また、民間業者は、契約に際し、住民票コードの告知を要求したり、住民票コードの記録されたデータベースで他に提供されることが予定されているものを構成することを禁じられてはいるものの、これに違反した場合の是正措置は、まず都道府県知事が中止勧告、中止命令を行い、都道府県知事の中止命令に違反した場合に1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられるというものにすぎず、民間業者による利用の制限は不十分と言わざるを得ない。しかも、本人確認手段として、消費者が任意に住民票コード通知書を提示した場合に民間業者がこれを確認することまでは厳密には禁止されておらず、また住民票コードの記録されたデータベースの作成自体は禁じられていない。
 よって、民間業者が本人確認情報を集積し、個人のプライバシー権を脅かす可能性も極めて大きい。
[4] セキュリティ
 既存の住基システムが、ネットワークで外部と接続される以上、常に情報の漏洩、改ざん、システム破壊といった危険性が存するにもかかわらず、国、市町村のセキュリティ対策は十分とはとうてい言い難い。
殊に、前記の通り、大半の市町村が住基ネットワークシステムの敷設、管理を民間業者に外注委託しているにもかかわらず、住基ネットのセキュリティーに関する技術的な面や、住基ネットの構築・運営を委託された民間業者を監視監査する組織や方法が全く整備されていない。
 また、2002年10月には、住基ネットで各市区町村が利用するコンピューターウイルス対策ソフトの情報が約3ヶ月も更新されていないことが発覚し、改めて国のセキュリティ対策の杜撰さが浮き彫りになっている。
さらに、近時、住民情報データの盗難、紛失事故が相次いでいるところ、第2次稼働により拡大された個人情報が各市区町村を結ぶ回線を流れるようになると、これらの事故の被害が広域化し、非常に甚大な被害を生じかねない。
[5] 是正手段がないこと
 現行法上、自己の本人確認情報が、いつ、どの機関に対して、何の目的で提供されたのかについて、国民個人が地方自治情報センターに直接開示を求める手段がなく、委任都道府県が地方自治情報センターに対してこれらの事項についての報告を求め、これを各都道府県の情報公開条例に基づいて、個人が各都道府県に対して開示請求するしかない状況であり、本人確認情報の利用に関する個人の管理、コントロール権は十分に保護されていない。
 自己情報のコントロール権を保護すべきとの見地からは、国民は、自己の本人確認情報の利用、提供状況につき、直接地方自治情報センターに対して開示請求できるようにすべきである。
 また住基ネットの第一義的担い手である市町村が、直接地方自治情報センターに必要事項の報告を求めることができないのも不合理であり、市町村の自治権、住民自治、住民の利便性の観点からしても、市町村に地方自治情報センターに対する報告請求権が認められるべきである。
 さらに、本人確認情報が国家機関等に提供されても、これを本人に通知する制度もないため、全く知らない間に自己の本人確認情報が利用されることとなり、目的外利用がなされても、これを是正する手段がない。

4,結論

 以上の次第であり、住基ネットには種々の危険性が伴い、自由社会や個人のプライバシー権を侵害する虞が大きく、ひいては個人を氏名ではなく共通番号によって管理するもので個人の尊厳を著しく侵害するものというほかない。よって、当会は、冒頭記載のとおり提言する次第である。

以上