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「教育基本法「改正」法案の今国会成立に反対する会長声明」

2006年(平成18年)5月15日
兵庫県弁護士会 会長 竹本 昌弘

 今国会(第164回国会)において教育基本法「改正」法案の審議が開始されようとしているが、当会としては、以下の理由により、同法案を今国会で成立させることに反対である。

 第1に、現行教育基本法は、戦前教育への反省から個人の尊厳を重視する理念を打ち出し、前文に「われらは、さきに、日本国憲法を確定し(中略)この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである」と明記して、憲法と一体不可分の基本法と位置付けられてきたが、同法案では上記部分が削除されている。百年の計といわれる教育の重要性からして、教育理念の改正を行うのであれば、十分な国民的議論が必要である。しかし、今回の同法案は、非公開の与党教育基本法改正に関する協議会で議論されたに過ぎず、その議事録さえ公開されておらず、国民に対する説明が極めて不十分である。世論の関心も低い現状の下で、急いで見直す必要性があるかどうかは疑問であり、まず国民的議論を先行させるべきである。

 第2に、同法案第2条第5項には「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」と規定されている。表現が見直されたとはいえ「国を愛する」という心や態度を国家が強制するのではないかとの懸念は依然として根強い。教育で個人の内心に踏み込むことになり思想・良心の自由を侵すとの意見が指摘されているほか、国旗国歌法の制定時の政府の公式説明に反して教育現場では強制が広がっているとの声もあり、上記の修正ではこれら不安が払拭されたとはいえない。この点でも十分かつ慎重な検討が必要である。

 第3に、教育行政の役割について、現行法第10条では「教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備」と限定していたところ、同法案第16条ではこの部分を削除し、代わりに「国は(中略)教育に関する施策を総合的に策定し、実施しなければならない」、「地方公共団体は(中略)その実情に応じた教育に関する施策を策定し、実施しなければならない」との規定が新設された。本来、教育内容の決定は、国民と教育現場にその多くを委ねられるべきであるとの意見も根強く、最高裁大法廷1976年(昭和51年)5月21日判決においても「国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請される」とも指摘されているが、この原則が軽視されかねないおそれもある。

 第4に、同法案では現行法第5条の男女平等に関する条文が全文削除されているが、現代社会における男女共同参画の重要性からするとむしろ後退であると評価されるおそれもある。

 そもそも、法改正の必要性として、教育現場や青少年の心の荒廃、犯罪の凶悪化・低年齢化などが指摘されているものの、これら指摘の当否が検証されたわけでもなく、またその原因が基本法の内容にあると断じるのも早計である。むしろ現行法に基づく一連の具体的な教育施策が十分になされてきたのかがまず見直されるべきであろう。

 今回の改正法案につき幅広い視野で十分かつ慎重な検討を行うとともに、国民的議論の深化を図るべきであり、今国会で改正法案を成立させるのは相当ではない。

以上