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意見表明(1998年-2010年)

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仙台地方裁判所・寺西和史判事補に対する懲戒処分決定に関する会長声明

1998年(平成10年)8月18日
神戸弁護士会 会長 小越 芳保

 平成10年7月24日、仙台高等裁判所は仙台地方裁判所の寺西和史判事補に対する分限裁判において、戒告処分を決定した。

 決定の理由は、、本年4月18日東京で開催されたいわゆる組織的犯罪対策三法案に反対する集会において、現職の裁判官であるとの紹介をうけたうえ、「集会でパネリストとして話すつもりだったが、地裁所長に『処分する』と言われた。法案に反対することは禁止されていないと思う。」旨の発言をし、言外に右法案に反対する意思を明らかにして同法案に反対する運動を盛り上げたことが、裁判所法52条1号にいう「積極的に政治運動をすること」に該当するというものである。

 しかし、裁判官といえども裁判官である前に国民の一人として、言論・表現の自由が保障されねばならないことは当然であり、現に国会で審議中の法案について意見を表明したり、集会等で見解を述べることは、市民的自由の範囲内であって、裁判所法52条1号にいう「積極的な政治運動」には該当しないというべきである。まして明確に法案に対する意見を表明してもいないのに、「言外に」法案反対の意思を表明したという程度の行為をとらえ、積極的な政治運動に該当すると認定するのは、明らかに同条の文言解釈を越える不当な解釈といわねばならない。
 これまで「積極的に政治運動をすること」を理由に懲戒処分された例はなく、今回の分限裁判は、裁判官の憲法上保障された市民的自由がいかに確保さるべきか、裁判官はいかにあるべきかを問う極めて重大な影響を生ずる裁判であり、それだけに憲法と裁判所法に関する論議を尽くす必要がある。

 当会は、本年5月27日、本件懲戒の申立がなされたことについて、寺西判事補の本発言が「積極的政治活動」として懲戒申立の対象とされることは、裁判官の自由な意見表明を封ずることになることに鑑み、仙台地方裁判所による懲戒申立は極めて遺憾であることを表明するとともに、事案の重大性と問題性に鑑み、分限手続においては寺西裁判官から十分な弁明意見を聴取し憲法に照らした慎重なかつ歴史の批判に耐える適正な判断を強く望むものである旨の会長声明を出したが、今回の決定内容及びその経過を見るとき、今回の分限裁判は極めて短期間のうちにしかも同判事補からの十分な弁明と反論がなされないまま結論を導いたきらいは否めず、憲法的論議が尽くされたとは到底言えない。

 今日、司法制度を改革し、市民の信頼に足る司法を実現するために、裁判官に対する統制を排除し、裁判官の市民としての自由の保障を確立することが急務であるところ、同分限裁判が裁判官に対する一層の統制と萎縮に繋がることを深く危惧する。

 当会は、ここに今回の懲戒処分決定に対して、重大な疑念を表明するとともに、上級審においては論議を尽くし、裁判官の市民的自由について国民の納得できる判断がなされることを期待するものである。