●地裁判決の要旨
◎ 原告は,昭和18年生まれの男性であり,平成15年に勤務先を定年退職し,年金生活を送る者である。平成16年3月当時,原告は,自宅の不動産のほか,金融資産として約8000万円の預貯金等を保有していた。原告は,本件契約に基づき,2月18日から5月11日までの間,ガソリン,灯油及び穀物指数の商品先物取引を行い、5月11日にすべての建玉が決済されて終了し,8331万4520円の損失を被った。被告は,上記取引により2434万2400円の委託手数料収入を得た。
◎ サヤ取引は,2つの異なる商品の価格の動向や両者の価格差とその動向を見極めながら6か月間程度の長期間の中で利益を獲得することをめざすものであって,単発の先物取引に比べて複雑で理解の困難な投資手法であり,先物取引のしくみの理解自体が十分でないと認められる原告にこのような複雑な取引を勧誘すること自体が不適切であることは明らかである。さらに、サヤ取引は大量の売り建て取引を勧誘するための口実にすぎなかったと考えられる。
◎ 原告は,3月以降,多額の損失に驚いて何度も取引の終了を申し出ていたが,被告は原告の希望を無視して取引を継続させ,さらに,損失回復への期待を抱かせることにより,原告からさらに資金を引き出して投入させている。なかでも,定年退職後の生活資金として年金の形式で受け取っていた退職金の一部を,わざわざ変更の手続をさせて一括で払い戻させ,証拠金として入金させたことは,原告の生活そのものを危うくさせることをも考慮せず,すべての資金を投入させようとするものであり,その違法性は顕著である。
◎ 一方で,被告が原告に行わせた4月以降の取引の実情は,ガソリンの値上がり傾向が続く中で,両建てとしての買い建てとその決済を頻繁に繰り返すだけで,含み損失がふくらむ一方の売建玉をほとんどそのまま放置しており,損失の回復や拡大の阻止として全く無意味な取引といわざるを得ない。
◎ 以上のような取引の結果として,原告は保有していた預貯金のほぼ全額に相当する8000万円以上の損害を被り,その一方で,被告は大量,頻回の取引によって2400万円を超える手数料収入を得ている。
◎ 以上によれば,被告の原告に対する本件商品先物取引の勧誘が違法であることは明らかであり,被告は,本件取引によって原告の被った損害を賠償すべき債務不履行責任及び不法行為責任を負うというべきである。取引損失 8331万4520円。慰謝料 300万円。弁護士費用 860万円 |