●031021大阪地裁
●裁判長 岡原剛 裁判官 遠藤東路、相澤聡
●民法709条、715条
●控訴審 040709大阪高裁H15・ネ・3502

●要旨

オプションとは.一定の商品(原資産)を,将来の一定の日(満期)又は満期までの期間内に,その時の市場価格と無関係に,あらかじめ定められた一定の価格(ストライクプライス)で売る権利(プットオプション)又は買う権利(コールオプション)である。オプションは,行使されないまま満期を徒過すると,無価値となる。なお,オプションの代金を,「プレミアム」という。原告は,平成14年4月9日,被告従業員の勧誘に応じて,被告との間で・被告を通じて海外先物オプション取引に投資することを合意し,合計130枚を3173万6634円(プレミアム計2218万1634円と手数料及び消費税計955万5000円との合計額)で購入した。しかし,これらのオプションは,いずれも満期である9月6日までに権利行使されなかったため,全て無価値となり,原告は,同取引の結束,上記同額の損失を被った。
本件取引は,リスクの範囲が投資額に限定されており少ない投資で多くの投資効果が得られるという有利な面もないわけではないが,転売利益が出る可能性に比して,元本欠損の危険性の方が確率的には高く,高度の投機性を有するハイリスク・ハイリターンな取引であるといわざるを得ない。
これに加え,プレミアムの変動要因は極めて多種多様であって上記したところに尽きないこと,オプション取引は日本では馴染みの薄い取引であることにも照らせば,通常の理解能力を有する一般投資家であっても,オプション取引について合理的な投資判断を下すことは,相当の困難を伴うというべきである。
オプション取引のような相場取引への投資は,一般投資家自身が自己の判断と責任の下に,当該取引の危険性噂を判断して行うべきものであり,それによって損失が生じた場合,本来,一般投資家白身が負担すべきものである(自己責任の原則)。しかし,受託業者と一般投資家の間には,取引についての知識・経験,情報の収集能力及び分析能力等において格段の質的・量的差異があり,一般投資家は.専門家である受託業者の提供する情報や助言等に依存して投資を行わなければならず,他方,受託業者は,一般投資家を取引に誘致することで利益を得ているという実態がある。
これらを考慮すれば,受託業者及びその外務員等は,一般投資家に対してある取引を勧誘する際,一般投資家が取引の危険性を認識するのを阻害するような断定的判断を提供したり,虚偽・不実表示により勧誘したりすることが禁止されるばかりでなく,契約準備段階における信義則上の義務として,一般投資家への勧誘は,投資に関する知識・経験,投資の目的,財産状態等に鑑みて,その者がその取引への適合性を有する場合に限るべきであり(適合性原則の遵守),また,当該商品が複雑かつ危険を伴うときは,一般投資家に対し,一般投資家が当該取引の仕組みや危険性を的確に認識しうるよう説明すべき義務を負うというべきである(説明義務)。そして,その説明義務の内容及び程度は,当該商品の仕組等の複雑性や取引による危険性の大きさ,これらの周知性,一般投資家の知識・経験等の具体的属性及び具体的な取引状況等の相関関係によって決定されるというべきである。
以上の観点から,以下,本件取引について検討する。
イ 適合性原則違反について
投機目的のオプション取引は,元本欠損の可能性が客観的に高く,通常の一般投資家にとっても合理的な投資判断は必ずしも期待できない故引であるというべきであるから,(1)同取引に適合性を有する投資家といえるためには,投資経験や一般的能力からみて,オプション取引の基本的な仕組みだけでなく,プレミアムの変動の特徴や要因について概括的にせよ一応の理解を得るだけの能力が不可欠であり,これに,(2)投機志向が高いこと,(3)投資銀全額を喪失することに一応耐え得るだけの余裕資金を有することなども重要な要素とみるべきである。
これを本件についてみるに,原告は,(1)投機取引の経験がないこと,原告は中学校を卒業後■■の師匠をしていた以外は専業主婦として過ごしていたこと,特に本件取引当時,脳出血の後遺症として健忘失語症に罹患していたため,理解力・判断力は相当減退していたものと推認されること,現にオプション取引の基本概念であるストライクプライスの意義すら+分理解できなかったことなどに照らし,同取引の基本的な仕組みでさえ理解することが困難であり,まして,投機的オプション取引をするためにプレミアムの価格変動予測を立てることなど到底期待し得ない者であったと認められる。また,上記のとおり,(2)原告の投機志向は皆無であり,(3)当時無職で収入は年金だけであり,本件取引に投資した3000万円以上の資産はその大半が老後の生活資金として蓄財したものであったと認められる。
したがって,原告は,本件取引のような投機的オプション取引をする適合性に極めて乏しい者であったことが明白であり,被告担当者らは,本件取引を原告に勧誘する中で当然このことを知るに至ったはずであるから,被告担当者らの上記勧誘行為は適合性原則に反する違法なものといわざるを得ない。
ところで,原告にはオプション取引の基本的な仕組みを理解する能力さえほとんどなかったものと認められるから,そもそも説明義務を論ずる意味がないともいえるが,仮にこの点を措くとしても,被告担当者らは,原告に対し,オプション取引の基本的な仕組みさえ十分に説明することなく,かえって断定的判断を提供してその有利性のみを強調し,積極的に原告の判断を誤らせて本件取引を勧誘したものと認められる。したがって,被告担当者らの本件勧誘行為は,説明義務にも違反するものといわざるを得ない。
オプション取引のような投機取引の受託業者は,顧客が当該取引の初心者である場合,当初は少額の取引の勧誘にとどめて,その取引の損益を確定させ,実際に取引を経験してもらった上で,通常規模の取引を勧誘すべき義務(新規委託者保護義務)を負うというべきところ,本件においては,被告従業員は,投機取引の経験のない原告に対し,僅か1か月間に3000万円以上の生活資金を投機的オプション取引に投じさせたのであるから,これが上記義務にも違反することは明白である(もっとも,同義務違反は,本作では,上記適合性原則違反の程度を増大させるものとして,これに吸収されると考えられる)。

として、3173万6634円の損害全額と弁護士費用につき、過失相殺をすることなく認容したが、慰藉料請求については認めなかった。
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