●040709大阪高裁、海外先物オプション取引
裁判長 井垣敏生 裁判官 高山浩平、大島雅弘

民法709条、715条
一審 031021大阪地裁H14・ワ・6605

●要旨

オプション取引は,少ない資金で大きな取引をすることができ,損失が投資額に限定されているという面で,投資商品としての特徴があるが,一般人が将来のプレミアムの価格変動を合理的に予測し,高額な手数料を含めた損益分岐点を的確に把握し,必要に応じ適時にオプションを売却するなどして利益を得,あるいは損を確定して大きな危険を回避することは,本来,相当に困難な金融商品であるというべきである。

オプション取引のような相場取引への投資は,投資家自身が自己の判断と責任の下に,当該取引の危険性等を判断して行うべきものであり,それによって現失が生じた場合は,本来,投資家自身が負担すべきものである(自己責任の原則)。しかし,一般投資家の場合は,受託業者との間において,取引についての知徹・経験,情報の収集能力及び分析能力等において格段の質的・量的差異があり,一般投皆家は,専門家である受託業者の提供する情報や助言等に依存して投資を行わなければならず,他方,受託業者は,一般投資家を取引に誘致することで利益を得ているという実態がある。

これらを考慮すれば,受託業者及びその外務員等は,一般投資家に対して取引の勧誘をする際,一般投資家が取引の危険性を認識するのを阻害するような断定的判断を提供したり,虚偽・不実表示により勧誘したりすることが禁止されるばかりでなく,契約準備段階における信義則上の義務として,一般投資家への勧誘は,投資に関する知識・経験,投資の目的,財産状態等に鑑みて,その者がその取引への適合性を有する場合に限るべきであり(適合性原則の遵守),また,当該商品が複雑かつ危険を伴うときは,一般投資家に対し,一般投資家が当該取引の仕組みや危険性を的確に認識し得るよう説明すべき義務を負うというべきである(説明義務)。そして,その説明義務の内容及び程度は,当該商品の仕組等の複雑性や取引による危険性の大きさ,これらの周知性,一般投資家の知織・経験等の具体的属性及び具体的な取引状況等の相関関係によって決定されるというべきである。

さらに,オプション取引のような投機取引の受託業者は,顧客が当該取引の初心者である場合,信義則に照らし,当初は少額の取引の勧誘にとどめて,その取引の損益を確定させ,実際に取引を経験してもらった上で,段階的に通常規模の取引を勧誘すべき義務を負うというべきである(新規委託者保護義務)。

オプション取引が通常の一般投資家にとって合理的な投資判断を必ずしも期待できない取引であることをも併せ考えると,被控訴人が本件取引をするにふさわしい者であったとは到底認められず,控訴人担当者らの本件取引の勧誘行為は適合性原則に抵触するといわざるを得ない。
控訴人担当者らは,被控訴人に対し,十分な説明や的確な情報提供をすることなく,かえって断定的判断を提供してその有利性を過度に強調し,被控訴人の自由な判断を拘束して本件取引を勧誘したものと認められる。したがって.控訴人担当者らの本件勧誘行為は,説明義務に違反するものというべきである。

株式取引の経験はあるものの,その他オプション取引等の投機取引の経験のない被控訴人に対し.僅か1か月間に3000万円以上の生活資金を投機的オプション取引に投じさせたのであるから,新規委託者保護義務にも違反することは明白である。
これらは控訴人の業務の執行につきなされたものと認められるから,控訴人も使用者責任(民法715条)に基づき,被控訴人に生じた損害を賠償する義務を負い,被控訴人は,本件取引により31736634円の損失を被ったことが認められるが,これは,全額,上記違法な勧誘行為と相当因果関係を有する損害であることが明らかである。しかし,被控訴人において,取引自体による損害が回復されてもなお慰謝されない精神的苦痛が存することを基礎づけるに足りる特段の事情があるとは認められない。

被控訴人は本件取引への適合性を欠く者であること,控訴人担当者らの勧誘行為の執拗性,新規委託者保護義務違反の重大性等を考慮すると,被控訴人の過失を過大評価することは相当でなく,1割の過失相殺をすることが相当と判断する。

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