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2001年 神戸新聞掲載『くらしの法律相談』

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「「裁判員」制度は日本の司法を変える-市民数、裁判官の倍以上必要」神戸新聞 2001年7月18日掲載

執筆者:田中 秀雄弁護士

酒屋を経営しているのですが、取引先の料理店が倒産し、社長が夜逃げしました。清酒10ダースの代金をまだ支払ってもらっていなかったので、料理店に行ってみると、納入した商品がそのまま置いてありました。商品だけでも引き揚げようと思ったのですが、従業員から「『店の持ち物を動かしてはいけない』と社長から指示されている」と言われて引き揚げられず、納得できません。

先月、政府の司法制度改革審議会から小泉首相に提出された意見書は、「裁判員」制度の刑事裁判への導入を提言した。参審制度は、裁判官と市民が一緒に審理する制度で、ドイツやフランスなどで現在行われている。

わが国では、一九二八(昭和三)年から一九四三(同十八)年まで刑事事件の一部で陪審制度が実施されていた歴史はあるが、現在は国民が司法に参加する制度としては、調停委員の制度や検察審査会などの制度くらいしかない。一般の市民が直接司法に参加する場面も、与えられている権限も限定的であった。

今回の司法改革で、国民の司法参加が、刑事裁判の一部の重罪にだけにしろ、しかも陪審でなく裁判員という制度であれ、認められたことは、画期的なことである。

今回決まった制度では、法定刑の重い重大犯罪について、裁判官と市民から選ばれた裁判員が対等の権限で一緒に審理し、有罪・無罪の決定と量刑を決めることになる。

裁判員は選挙人名簿から無作為に候補者を選び、事件ごとに選出する。審議会では、市民だけが判断する陪審か参審かで委員の意見が対立したが、結局、各委員が一致できた裁判員制の採用を決めた。裁判員の人数については意見がまとまらず、立法段階にゆだねられた。ドイツは裁判官三人、市民二人の構成であり、フランスは裁判官三人、市民九人の構成である。 今後、立法過程で、裁判員の数をどうするかが最大の焦点になるが、市民が裁判官に説得されず自分たちの意見をきちんと言うシステムにするためには、最低、裁判官三に対して裁判員六とか、裁判官三に対して裁判員九とか、市民の数を裁判官の倍以上にする必要がある。

また裁判員制度が円滑に運営されるためには、この制度について国民に十分広報し、制度の重要性や実施しなければならない理由について、国民に浸透させる必要がある。また企業にも協力を求め、裁判員休暇制度を創設してもらう必要もあろう。

市民が裁判員として審理に参加するようになれば、その裁判は当然集中審理になるし、弁護士も弁論能力、裁判員への説得能力で真価を問われるようになるであろう。裁判員制度の導入は刑事裁判全体に活気を与え、この制度が上手く機能すれば、将来の陪審制度導入の一歩となると大いに期待している。