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2002年 神戸新聞掲載『くらしの法律相談』

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「抵当権の無断設定-配偶者でも同意なければ無効」神戸新聞 2002年4月30日掲載

執筆者:石井 龍一弁護士

土地建物の登記簿謄本をとってみたら、私の知らないうちに妻が金融機関から多額の借金をし、その担保として私所有名義の土地建物に抵当権が付けられていました。どうすればよいでしょう。

弁護士:あなたが抵当権設定に同意したわけではないので抵当権は無効であり、あなたは金融機関に対して、抵当権を抹消してもらうことを求めることができます。裁判で抵当権登記の抹消を求めることもできます。

相談者:でも妻のしたことですから、妻が勝手にやったでは済まされないのでは?

弁護士:民法は、いくら夫婦でも夫の借金は夫が、妻の借金は妻が返す義務があることにしていますから(夫婦別産制)、妻が借りた借金にあなたの責任が生じることはないのが原則です。

相談者:抵当権が付けられていますが。

弁護士:あなたの妻はおそらく、抵当権の設定に必要なあなたの実印、印鑑証明書、権利書を持参して、代理人と称してあなたの不動産に抵当権を設定したのでしょう。金融機関からすれば、あなたが妻に対して抵当権を設定するための代理権を与えていたと信じていた可能性があります。民法は、そうした金融機関の信頼に「正当事由」があれば、その信頼を保護することにしています。

相談者:では、私の不動産の抵当権は有効なのですか。

弁護士:妻は夫と同居していて、実印などをしまっている所もよく知っていて、夫の実印などを持ち出しやすい立場にあるのが通常です。しかし、金融機関としては、妻が夫の実印などを持っていたからといって、それだけで夫から代理権を与えられていると信ずるのはいささか軽率すぎるといえます。本当に妻が夫の代理権を与えられているのか、本人に直接確認するなどしなければ、「正当事由」があったとはされていません。ですから、あなたが金融機関から抵当権の設定について確認され、妻が抵当権設定をすることにあなたが同意していると回答していれば抵当権は有効となりえますが、そうでない限り無効です。

相談者:これからは実印、印鑑登録証、権利書は妻にもわからない場所に保管します。

弁護士:そうですね。それらを別々の場所に保管することも大切です。