◎ 本件は、商品先物取引の勧誘及び一連の取引の違法性が争われた事案である。
◎ 適合性原則違反について
原告が40年間にわたり代表取締役として電気製品販売会社を経営してきたこと、商品先物取引の経験はないものの信用取引の経験を有していたこと、1000万円程度の金融資産を有していたこと等から、先物取引に関する理解・判断能力に対する欠如は認められず、取引経験、資産状況の面でも、適合性に欠けるところはないとして、適合性原則違反を否定した。
◎ 勧誘段階における説明義務違反について
原告には約3年8カ月にわたる株式の信用取引の経験があること、株式の信用取引と商品先物取引との間には類似性が認められていること等から、本件取引の勧誘段階における説明義務違反を否定した。
◎ 新規委託者保護義務違反について
新規委託者に対しては、その保護育成の見地から、商品先物取引の投機性、危険性を理解させ、自己責任原則が適用できる基盤を確保するため、一定の習熟期間内に過大な取引の受託をすることは条理上禁じられ、その程度によっては委託者に対する不法行為を構成する。
先物取引は、小額の証拠金である差金決済による多額の取引を可能にする極めて投機性の高い取引であり、建玉枚数が増えれば増えるほど、顧客の被る可能性のある損失額も飛躍的に増大する。そうすると、被告は、顧客をして、特に3カ月間の習熟期間内は、投資予定額以下の資金量の範囲において、かつ、余裕資金を保持した取引を行わせる注意義務を負うというべきであるとし、本件において新規委託者保護義務違反を認めた。
◎ 特定売買・取引継続段階における説明義務違反について
特定売買率の数値をもって、取引の違法性を判断することは相当ではない。また、売買回転率、手数料化率が高いことをもって、直ちに取引の状況、現場の値動き等の具体的事情を捨象して、違法な取引がなされたと推認することもできない。
特定売買が、それを有用とする相場の変動状況等に関わりなくなされると、委託者には委託手数料の負担だけが増えるなどの無益な取引となり、特に、両建については、顧客をして、建玉状況、値洗い等を把握することを困難にさせるものであり、また、因果玉の放置によって損失が拡大する危険を伴う。
したがって、被告が、原告に対し、十分な説明をすることなく、特定取引売買を提案した場合には、取引継続段階における説明義務に違反したものとして違法になる。 |