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2024年

台風で隣人の車に損害 責任負うケースは -通常の備えなしなら賠償も

 神戸新聞2024年3月6日掲載
執筆者:新 智博 弁護士

巨大な台風により、自宅の屋根瓦が飛び、お隣のAさんの車に当たって大きな傷がついてしまいました。Aさんから、車の修理費を請求されましたが、負担しなければならないのでしょうか。

今年は、年始から能登半島地震が発生しました。被害に遭われた方に心からお見舞い申し上げます。

日本は、巨大な地震や大型の台風など、自然災害が発生しやすい国です。自然災害や天災により、自分の物が他人の身体や財物に損害を与えた場合、法的にはどのような問題が生じるのでしょうか。

一般的に、加害者が被害者に対して損害賠償責任を負うのは、加害者に故意または過失がある場合に限られます。自然現象、自然災害(不可抗力)が原因で発生した損害については、誰にも故意・過失が認められず、責任を負う人がいないので、通常は誰も損害賠償責任を間われません。

しかし、自然災害であれば全てのケースで、誰も責任を負わないというわけではありません。裁判例では、学校のサッカー大会中に落雷で学生が傷害を負った件で、指導教諭は落電が発生し得る状態で試合を再開させたとして責任が認められました。また、台風で工場の屋根や外壁が飛ばされ、近くに駐車していた自動車に当たって損傷を与えた件では、工場側は、工場が老朽化していたのにもかかわらず、建物の安全確保の措置が不十分だったとして責任を負うとした裁判例もあります。

このように、自然災害による被害でも、危険を予想できたのに、通常するべき備えをしなかったことが原因となる場合は、管理者や所有者などに過失があったとして、責任が認められることがあります。

相談者の場合は、台風や地震に備えて定期点検などの対策をしていたのに、予想を超える巨大台風で、屋根瓦が飛んでしまったのであれば、不可抗力だったとして車の修理費を支払う義務はないでしょう。Aさんは、自分で修理費を負担するか、保険などで対応することになります。

なお、自然災害で生命や身体、生活の基盤に被害を受けた場合は、公的支援が受けられる場合もあります。

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