神戸新聞2025年5月7日掲載
執筆者:澁谷 尚子 弁護士
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自宅を住宅ローンで購入しましたが、想定外の支出が重なってローンの返済が滞り、代位弁済(肩代わり)した保証会社(抵当権者)から一括請求を受けました。一括弁済しなければ競売されてしまうのでしょうか。
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住宅ローンを完済しない限り、いずれ抵当権を実行されて競売にかかりますが、保証会社による代位弁済後6カ月以内であれば、「住宅ローン特則」付きの「個人再生」という裁判所の手続きで、自宅を維持し、住宅ローンを分割払いに戻せる可能性があります。この手続きを「巻戻(まきもどし)型」と呼ぶことがあります。
個人再生とは、債務(借金)整理の方法で、会社員や個人事業主などの個人が、債務弁済(借金返済) が困難になった場合、裁判所を通じて債務を大幅に圧縮し、3年~5年の計画で分割弁済する民事再生法上の制度です。住宅ローンを除く債務総額が5千万円以下で、継続的に収入が見込めることなどの利用条件があります。
住宅ローン特則(住宅資金貸付債権に関する特則) は、住宅ローンを抱えて個人再生手続きを利用する人が、生活拠点を失わないで済む制度です。他の債務は大幅に減額されますが、住宅ローンは支払い方法を決めて分割で全額支払い続けることが可能となります。
既に保証会社の代位弁済がなされた場合でも、6カ月以内なら、住宅ローン特則付きの個人再生手続きの申し立てができます。抵当権に基づく自宅の競売が既に開始されているときは、競売中止命令を求め、競売手続きを中断させることもできます。
個人再生手続きでは、「再生計画」という債務の返済計画を定める必要があります。裁判所で再生計画の認可決定が確定した時には、保証会社による保証債務の履行がなかったものとみなされるため(民事再生法204条1項)、住宅ロー ン債権者(銀行など)の債権が復活し、債務者は分割払いを続けられるようになります。既に保証会社に対して債務の一部を弁済していた場合でも、保証会社から住宅ローン債権者に対して弁済額が戻されますので、二重払いにはなりません。
6カ月という期限があり迅速な対応が求められますので、事例のような状況になった場合は、速やかに弁護士へご相談ください。