神戸新聞2025年6月4日掲載
執筆者:井口 奈緒子 弁護士
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会社員の女性です。上司や取引先から、2人きりでの食事に誘われています。断りたいのですが、断ったら仕事に支障が出そうで怖いです。どうしたらいいのでしょうか。
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まずは、勇気をもって断りましょう。理由は、何でもいいです。断れないと考える方も多いのですが、2人きりで食事に行かないとできないような仕事ないはずですし、相手の行動がエスカレートしないようにする予防策としても重要です。
もし、うまく断れない場合は、信頼できる上司や同僚に相談するなどして、3人以上で食事に行くことも一つの方法です。この時は、帰宅するまで、2人きりの場面を作らないように気を付けましょう。
それでもなお、2人での食事に執拗(しつよう)に誘われる時は、セクシュアルハラスメント(セクハラ)に該当する可能性があります。
セクハラとは、職場において労働者の意に反する「性的な言動」が行われたことによって、労働者が不利益を受けたり、職場の環境が害されたりすることです。食事やデートへの執拗な誘いは「性的な言動」に当たるとされています。
「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指しますが、労働者が通常就業している場所以外でも該当する場合があります。例えば、出張先、取引先の事務所、打合せをするための飲食店などもこれに該当する場合があることから、取引先によるセクハラが「職場」におけるものとされる可能性はあります。
そして、事業主は、職場におけるセクハラを防止するために、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備をしなければなりません(男女雇用機会均等法)。その一つとして、「相談への対応のための窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること」を責務としています。
そのため、職場で性的な言動を受けて不快に感じた場合、ご自身の被害を拡大させないためにも、一人で抱えこまず、社内外に設置されているハラスメント相談窓口や、弁護士など、周囲に相談することをお勧めします。
なお、相談窓口等に相談したことによって、事業主が労働者に不利益な取り扱いをすることは、男女雇用機会均等法で禁止されています。