アーカイブス

このページは旧サイトに掲載されていた記事のアーカイブです。

トピックス

HOME > 意見表明(1998年-2010年) > イラクへの武力攻撃についての会長声明

意見表明(1998年-2010年)

≪会の決議と会長声明一覧へ戻る

イラクへの武力攻撃についての会長声明

2003年(平成15年)3月3日
兵庫県弁護士会 会長 藤野 亮司

1 現在、イラクに対しては、2002年11月8日に採択された国連安全保障理事会決議1441号に基づく査察が実施されており、更に本年2月18、19日に開催された国連安全保障理事会におけるイラクの大量破壊兵器問題を巡る公開討議の場においては、圧倒的多数の国々がイラクに対して査察を継続することによる平和的手段を尽くしての武装解除を求めている。
 ところが、アメリカは、イラクが大量破壊兵器を研究・開発・保有しているとして、その脅威を取り除くには、イラクに対する武力攻撃が必要であると公言し、大規模な軍隊を湾岸地域に集結中であり、即時に武力攻撃が出来る体制を取りつつあって、イラクに対する武力攻撃に踏み切ることを明確にしている。

2 仮にアメリカ等によるイラクに対する武力攻撃が行われた場合には、多数の市民の生命が奪われ、最大の人権侵害が引き起こされることは明らかである。

 もとより、私たちは、日本国憲法の平和主義及び国際協調主義の理念に基づき、大量破壊兵器の廃絶を推進すべきであると考え、イラクが国連安全保障理事会決議687号等を履行するための手段を尽くすべきであると考えるが、それは、まず現在実施されている査察の継続など平和的手段によってなされるべきであって、私たちは、アメリカ等によるイラクに対する武力攻撃を容認することはできない。

 すなわち、国連憲章1条1項及び2条3、4項は、国際紛争の解決等にあっては、まず平和的手段が優先されなければならず、武力による威嚇又は武力の行使は慎まなければならないことを定めており、また、やむを得ず軍事的行動をとる場合であっても、同39条、42条に則り国連軍または少なくとも国連から授権を受けた軍隊により実施されなければならないと定めている。そして、これに対する唯一の例外は、急迫不正の侵害に対する緊急行為として行われ自衛権の行使だけであり、「先制武力攻撃」はいかなる場合にも認められていない。

3 日本国憲法は、その前文で「恒久の平和を念願し」、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認」し、「国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」と明記し、「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」(第9条)ことを世界に宣明している。

 したがって、日本政府が、国際法に違反するアメリカ等によるイラクに対する武力攻撃を支持及び支援することは、日本国憲法に照らして是認されないことは明らかである。

4 平和憲法の下で、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする私たちは、日本国憲法の平和主義の原則を活かしてイラク問題の平和的解決に尽力することが「国際社会において名誉ある地位」を得るための最良の手段であることを確信する。

5 よって、私たちは、日本政府に対して、平和的手段によってイラク問題の解決を図るために最大限の努力をされるよう強く要望するものである。

以上