アーカイブス

このページは旧サイトに掲載されていた記事のアーカイブです。

トピックス

HOME > 意見表明(1998年-2010年) > 公益通報者保護制度についての意見書

意見表明(1998年-2010年)

≪会の決議と会長声明一覧へ戻る

公益通報者保護制度についての意見書

2003年(平成15年)4月25日
兵庫県弁護士会消費者保護委員会

意見の趣旨

 公益通報者保護(内部告発者保護)制度の立法化にあたっては、単に通報者の保護制度としてではなく、国民による言論、表現の自由による行政および企業等への民主的監視機能の一環とし、さらには行政および企業の透明性を高めるための一手段として積極的に活用すべきであり、下記意見を踏まえた立法を要望する。

1 公益通報者保護制度の対象は民間部門のみではなく、公的部門をも含んだいわゆる包括的な制度として制定されるべきである。
2 通報及び保護の対象となる情報は人の生命、健康、財産の危険だけでなく環境破壊、公権力の濫用、公金の浪費等公共の利害に関する法令違反をも含むべきである。
3 通報者の身分については、正規の雇用関係にある労働者だけに限定的に解釈すべきではなく、企業等の取引先等個人、法人を問わず広く認めるべきである。
4 通報先については、特定の通報先に限定するのではなく、通報者に通報先について選択権を認めるべきである。
5 顕名による通報だけでなく、匿名による通報を認めるべきである。
6 通報者の救済方法については単に不利益を受けないと抽象的に規定するだけではなく、できるだけ具体的に規定すべきである。また通報内容が公益に関わる事項である場合は、違法行為に関与した者が通報を行った場合にも通報者に対する行政処分・刑事責任等についてはその責任を免除・軽減する等の具体的救済規定を設けるべきである。
7 公益通報者制度を実質的に形骸化させる内容となるような「個人情報保護法」の立法には反対である。

意見の理由
第1 公益通報者保護制度の意義、目的

 1 ここ数年、食品の偽装表示や車のリコールにかかる事件、東京電力による原子力発電施設の損傷に関する情報隠しなど民間の事業者に関する事件だけでなく、外務省による経費水増しと裏金づくり、防衛庁による不正な個人情報の利用など、国民の生命身体の安全に直接かかわる行政、企業等の不祥事が内部告発により相次いで発覚している。我々はこのような様を目の当たりにし、行政、企業等に対する信頼を大きく失なっていく一方、このような情報を国民に明らかにし、被害拡大を防止した公益通報(内部告発)の重要性にあらためて気づかされることとなった。
 他方、我々は、このような状況にもかかわらず、依然内部通報者が、組織の内部においては裏切り者とのレッテルを張られ不利益な処分を受けているという現実も露わになりここに大きな理不尽さを感じるようになっている。
 兵庫県下でおこった雪印食品による食肉偽装事件においては、雪印食品の取引先であった西宮冷蔵が雪印食品の食肉偽装という不正行為について通報を行ったことにより食肉偽装という不正行為が明らかとなったにもかかわらず、西宮冷蔵の通報後同社との取引を中止する取引先が相次ぎ、さらには、西宮冷蔵の通報事実に関して同社が国土交通省により倉庫業法に基づく7日間という営業停止処分を受けることにより、公益通報者である西宮冷蔵が事実上廃業状態にまで追い込まれるというな悲惨な事例も生じた。
 西宮冷蔵による通報のあと取引先が同社との取引を中止した原因には様々なものがあるが、その一つとして国土交通省による同社に対する営業停止処分がなされたこと、および同省が行政処分に先立って西宮冷蔵の取引先に対し同社に対し営業停止処分を下す予定である旨事実上通告していたという事実も存在する。
 西宮冷蔵の例では、少なくとも同社に営業停止処分がなされていなければ取引を継続していたと思われる同社の取引先も多く、行政処分がなければ同社が今回のように事実上廃業に追い込まれることはなく、営業を継続できた可能性は十分に存在した。

 2 このような時期、折しも政府(内閣府)において公益通報者保護制度構築にむけた検討がはじまっている。
 しかし、そもそも公益通報(内部告発)の重要性はみなが認識し始めているとはいえ、その制度化については、次の2つの立場が考えられる。すなわち【1】そもそも公益通報(内部告発)も言論、表現の自由の一環として保護されるはずのものであり、ただ企業等組織体の圧力でこの自由が不当に制限されることを法律で防止すれば足り、公益通報(内部告発)を行使した労働者に解雇などの不利益処分を課さないようにすれば足りるという立場と、【2】これをより一歩進め、言論、表現の自由の民主的監視機能に注目して、公益通報(内部告発)を行政・企業等の透明性を高める手段として積極的に活用すべく制度化すべきであるという立場である。
 今後公益通報者保護の法制化にむけた各論点を検討するにあたっては、このいづれの立場をとるのか、とりわけ公益通報の権利性をどのように考えるのかという点をまず明らかにしておく必要がある。この点をあいまいなまま制度化することは、公益通報者保護制度が理論的な一貫性を欠いた場当たり的制度となるおそれがある。
 この点、たしかに、公益通報とはそもそも言論、表現の自由の行使であり、公益通報者がそれゆえに不利益を受けることを防ぐのは法律が制定されるまでもなく国家として最低限の責務である。よって、公益通報者保護法制定の目的も、この国家の責務を一層明確にし手続きを定めたものにすぎず、その内容は通報者が当たり前に有する言論、表現の自由の行使を不当に妨げられぬよう不利益処分から守ることにとどまり、決して公益通報を奨励するわけではないという考え方もある。
 しかしながら、わが国の社会には、人間関係が極めて濃密で、組織内の「和」を尊重する傾向が存在している。また個人においても自らの労働の場である企業等組織を絶対視し、組織の不正を外部に明らかにすることについても、組織への裏切り者とされることを恐れ、企業等の不正行為を通報(告発)することすらはばかられる傾向がある。だからこそ、もっと早く国民に公開され是正されて当然であるはずのさまざまな不正行為が、長年隠蔽され続け、またそのことを多くの人々が疑問にも感じないできたという現実がある。よって公益通報者保護制度の策定に際しても、そのような濃密な人間関係の中で長年生きてきた組織人たる個人が、安んじて公益通報することが可能となるような制度でなければ、目的を達成することはできないし、実効性のないものとなるであろう。
 しかも、現代社会において、企業等は、単に製品やサービスを国民に提供し暮らしを物質的に豊かにするためにのみ存在するのではなく、その存在そのものが経済や環境をはじめ社会に大きな影響を与えるものとなっているのであり、社会の一員として自然人以上に高い倫理をもって存在することが期待されている。
 とすれば、今後の企業等は、このような社会的役割を果たす一環として、公益通報者制度の整備に積極的に取り組んで、自ら透明性を高め、内部の不正をより早く察知し被害拡大を防止することは当然、企業等の信頼を回復し、国民が生活しやすい社会をつくる責任がある。
 このような考え方からすれば、あるべき公益通報者保護制度とは、単に、公益通報した労働者等通報者の身分を守れば足りるという消極的な制度にとどめるのではなく、むしろ、公益通報を、企業等の不正による国民の身体安全、環境などに対する危険の発生を防止するというだけではなく、企業倫理の向上に貢献するための積極的な制度としてとらえるべきである。

 3 もちろん、これが企業内部での忠誠心を薄れさせ報復などの手段としての通報(告発)が乱発することにつながることは避けなければならない。
 しかしそのような事態の防止は、通報先や通報の要件といった別の手段で措置をはかればよいものである。

第2 包括法か個別法か

 1 公益通報者保護制度は、現在、消費者基本法の改正作業において検討されている。これは消費者保護法の分野に関する個別法とされており、包括的な法律ではない。
 しかし、公益にかかわる違法行為を防止するために公益通報することはそもそも国民として言論、表現の自由の行使であり、この権利性は消費者法の分野か否かによって変わるものではない。
 この間公益通報(内部告発)で明らかになった不祥事には、雪印食品による食肉偽装、東京電力による原子力発電施設の損傷に関する情報隠しなど民間の事業者に関する事件だけでなく、外務省による経費水増しと裏金づくり、防衛庁による不正な個人情報の利用など行政など公的部門に関する事件も多く存在する。
 さらに公益通報者保護制度とは、単に通報した労働者の地位、身分を保護するという消極的目的にとどまらず、公益に関する内部からの通報を助け、ひいては行政・企業等の社会的責任を果たさせることにあるという観点からしても、このような要請は、あらゆる分野にあてはまるものであり、組織が私企業か否かや、守られる公益の種類によって何ら変わるものではない。
 また、現代のように多様、複雑な社会においては、国民の安全や健康に対する危険の発生は、消費者契約の分野に限定されるものではない。
 国際的にみても、公益通報者保護制度がもっとも最近整備されたイギリスでは包括法が制定されている(公益開示法(1998年))。
 アメリカでは公的部門に関しては内部通報者保護法(1989年)と各州法、上場会社および証券会社に関してはサーベンス・オクスリー法(2002年)、環境・原子力分野の民間部門に関しては「大気清浄法」「連邦水質汚染管理法」等の個別法による規制がなされているが、このような個別法の積み重ねによるアメリカの公益通報者保護法制においては、縦割り行政的な弊害が生じている。
 公益通報者保護制度の必要性においては民間部門も公的部門も共通なのであり、公的部門を除外する理由は存在しない。よって、本来は公的部門と民間部門を含んだ包括的な公益通報者保護法が定められるべきである。

 2 しかしながら、我々は現在検討がすすめられている消費者法の分野での個別法の制定については将来の包括法制定への第一歩としてこれを否定するものではない。たとえ限られた消費者法の分野であっても、このような制度が法律で確立されることは、公益通報者保護についての理解を高め、企業等の倫理の確立のためにとりわけ大きな影響力を持つものであると考えるからである。
 特に消費者法の分野は、そもそも国民とはすべて広い意味では消費者であり、しかも消費者の概念は単に当該物やサービスを消費する者というのみならず、物やサービスにかかわりながら生活する人々全体とかなり広くとらることが可能であり、そのように考えれば、類推適用できる部分も含め消費者保護法がカバーする分野はかなり広いものとなると考えられる。
 ただ注意すべきなのは今回の立法が逆に限定解釈されてしまったり、ひとつの法律ができたことで満足し公益通報者保護制度についての包括法制定への気運が低下してしまうことである。

 3 さらに、今回の立法が消費者法の分野に限定されることは是認されるとしても、公的部門について適用外となることには重大な問題がある。
 外務省による経費水増しと裏金づくり、防衛庁による不正な個人情報の利用の例を見るまでもなく行政機関等公的な組織こそがもっとも公益にかかわる危険をはらんでいるのであるし、国民へ奉仕するものとしてより高い社会的責任を果たすべき組織である。
 公益通報者保護制度のある諸外国の法律をみても公的部門について、まず法律ができているのであり、公的部門の法律がないのに民間についてのみ法律が制定されようとしているのはわが国だけである。
 民間部門、公的部門をふくめた包括的法律の制定が将来的には絶対に必要である。

第3 対象行為

 通報の対象になる「公益」の範囲について、現在、内閣府(国民生活審議会)での議論は消費者に提供される商品・サービスに関する【1】法令違反、【2】健康や安全への危険、環境への悪影響を挙げている。しかし、包括法の制定を推進すべきとする立場からは、「公益」には、公権力の濫用、公金の浪費等公共の利害に関する法令違反が行われているかそのおそれのあることを等広く含む必要がある。

第4 通報者の身分

 通報者の身分としては、前記の公益通報者保護制度のもつ積極的な意義からすれば、正規の雇用関係にある者の現在の雇用関係を保護することのみならず、イギリス法のように派遣労働者、以前に雇用関係にあったものを含むべきである。
 さらに、公益通報者保護制度によって保護すべき対象を労働者の保護という意義にとどまらないという前記の趣旨からすれば、対象は自然人に限る必要はなく、企業等の取引先等も含めるべきである。
 下請け関係にある企業等は売上の大半を一定の企業からの売り上げで占められ、取引を停止されればたちまち経営が存続できないようなこともある。このような場合にも公益通報が積極的に行われるようにするにはこのような取引先をも保護する必要がある。
 西宮冷蔵の例を持ち出すまでもなく、取引先が不正行為の事実を知る機会は多く、また公益通報した取引先が保護されるべき必要性も高い。

第5 通報の相手先

 通報の相手先には、事業者等の内部組織、主務官庁、第三者機関、報道機関、捜査機関などが考えられる。

【1】内部組織
 現在、企業内に従業員などからの相談・通報に応ずる体制(いわゆるヘルプライン)を整備している企業等も多く、告発制度の乱訴・濫用の可能性も否定できないこと、マスコミの扇動的な報道等による企業経営へのダメージが甚大であること等から,企業内部での自主的な解決を原則とすべきとする意見がある。
 またイギリスの公益開示法(1998年)においては雇用者等の組織内部への通報が法による保護の前提となっている。しかしながら、これまで公益通報により明らかになった企業等の不祥事において見られた日本における企業等組織体の閉鎖的体質から考えれば、消費者・国民の安全・健康等に関する事実が内部組織により隠蔽される危険も十分考慮すべきであり、内部組織の自浄作用のみに期待することは到底できない。
 よって、通報の相手先を内部組織に限定するとの議論には賛成できない。
 また、乱訴・濫用の危険については、通報の要件を規定し、要件を満たさない場合には保護を与えないことにより十分対応ができるものと考えられる。むしろ、合理的な理由に基づく通報を乱訴・濫用であるとして、消費者・国民の重大な利益に関わる事実が内部組織により隠蔽されることこそおそれるべきである。
 また、仮に内部組織に対する通報を原則とする場合であっても、例外規定を設け、たとえば、ア 事業者が適正に通報手続を定めていない場合や事業者内の処理が適切に行われなかったか行われない可能性が高い場合などには、内部組織以外に通報ができるようにする。イ 通報があった場合にとった措置を事業者が公表する。など、明確な手続規定を設けるべきである。

【2】主務官庁
 現在、通報先を事業者に是正措置を命じる権限をもつ主務大臣等(業界を監督する省庁)とすることが議論されている。
 しかしながら、通報先を主務大臣等に限定することには賛成できない。
 当該主務官庁が、どのような通報を受けたのか、適正に通報を処理したか否か等をチェックするための情報公開等の体制が十分ではなく、また、官業が癒着しているのではないかという疑いが十分払拭されていない現状では、通報先を主務官庁に限定することにより、かえって通報自体が規制される結果となりかねないからである。
 また、主務官庁を通報の相手方とする場合にも、上記【1】内部組織で述べたのと同様の手続規定を設けるべきである。

【3】第三者機関
 第三者機関を設置する場合には、公的な人的構成・判断の公正の担保を確保しうるよう詳細な規定が必要であろう。
 また、手続規定については上記【1】内部組織と同様の配慮が必要である。

【4】報道機関
 近年、公益通報によって明らかになった行政・企業等の不祥事においては、報道機関の果たした役割は大きい。不正行為を早期に是正し、被害が重大になるのを未然に防止するためには広く消費者・国民に情報を公開することが必要であり、また、消費者・国民の生命身体等の安全、国民の知る権利の保障の観点からも報道機関を通報先から除外すべきではない。

【5】捜査機関
 通報しようとする事実が犯罪行為にかかわるものであれば、捜査機関に対して通報(告発)することは当然であるが、捜査機関に対して通報を行った者に対しても法律による保護を与えるため、捜査機関も通報の相手先に加えるべきである。

【6】結論
 公益通報者制度が前述のとおり国民の基本的人権にかかわる重大な権利であり、固有の積極的な意義を有するということからすれば、正当な公益通報は、本来誰に対してなされたものであっても、正義の行使であることに何らの変わりはないはずである。
 それにもかかわらず通報先によって保護されたりされなかったりすることは不合理である。また、だれに通報するのが適切であるかというのはきわめてデリケートな問題であり、各ケ─ス毎に異なるはずである。
 たとえば、西宮冷蔵の例では雪印食品の取引先であった西宮冷蔵(社長)は、雪印食品の食肉偽装という不正行為について、まず雪印食品の担当部署(内部組織)に通報を行ったにもかかわらず、雪印食品からは黙殺すべきことを強要され、やむ得ず報道機関等に通報したことにより、雪印食品による食肉偽装事実が公になったのである。
 そもそも公益通報者保護制度は、正当な通報がよりなされやすくする、うやむやなまま握りつぶされたりしないようにするためにこそ存在するのに、通報先を限定することで権利行使を制限するようなことになっては、本制度の意味を失ってしまうことになる。
 よって、もとより本制度により、より通報を支援するため通報者支援センター等の第三者機関を設けるなどの手当ての必要はあるが、それをもって通報先を限定することがあってはならず、通報先は通報者が自由に選択できるようにするべきである。たしかに、これによれば、乱訴、濫用の危険が指摘されるであろうが、本来正当な通報であればこれを制限する必要はなく、例外的に生じうる不当な通報、虚偽の通報については、通報事実に真実性の要件を要求することにより絞りをかければ足りるものである。
 そもそもあるかないかわからない例外的な事由への過大な懸念から本来の権利行使が制限されることがあっては本末転倒である。
 また仮にそのような不当な通報があったとしても組織が常に透明性ある解決をしていればこれによってダメ─ジを受けることはないはずである。
 このような観点からすれば、通報先については上記機関に限らず、通報要件などに対して責任ある判断をしうる弁護士等が作る公益通報者支援センター等第三者機関も広く通報先として認めるべきである。

第6 匿名による通報

 本来通報は顕名でなされるのが望ましく、通報者の氏名,住所等通報者が特定される恐れのある情報は、絶対的保護の対象とすることにより顕名での通報者を保護するようにしなければならない。また、匿名による通報は誠実ではないとか、正当な通報であるか否か確認ができないことなどから通報は顕名とすべきであるとする見解もある。ところが東電事件の例を見るまでもなく通報者の氏名等通報者が特定できる情報を本来通報者を守るべき通報先である原子力安全・保安院が東電に開示していたという事例も存在するなど、我が国においては通報者の個人情報の保護が十全ではないこと。また、組織内部で犯人(通報者)探しが行われるなどの日本の組織風土等からすると、日本においては匿名による通報も認める必要がある。

第7 不利益処分に係る救済について

 1 抽象的には、通報を行った者は、通報を行ったことを理由として不利益な取り扱いを受けないとすべきであるが、通報しようとする者に萎縮的効果が生じないよう、ある程度保護の内容を列挙(例示)すべきである。

 2 民事上の救済(保護)内容としては、【1】解雇などに対する不利益処分に対し、現職復帰・再雇用・補償金の支払等を命ずる。【2】その他の不利益取扱をした事業者に対する損害賠償請求【3】守秘義務違反・名誉毀損などを理由とする民事上の責任の免除などの保護方法を明示すべきである。

 3 刑事責任・行政上の責任の免責について
 刑事責任や行政上の責任を追求された場合の通報者の不利益は民事上のそれよりもはるかに重大であり、また、萎縮的効果も大きい。そこで、公益に資する通報の場合には民事上の責任だけではなく、刑事上、行政手続上においても、通報を行った者が通報を行ったことにつき責任を問われない旨明記すべきである。
 また、刑事責任等を追求されるようなおそれのある事業者の行為はより悪質であり、消費者・国民の生命・安全等に対する不利益を及ぼす危険の大きいものであるが、それ故に事業者などにより隠蔽されやすいものであり、重要かつ決定的な証拠を持つ者による公益通報の意義はより大きいことは、近時の企業等の不祥事を見ても明らかである。
 にもかかわらず、通報者に対して形式的に違法行為に関与していたことによる刑事責任・行政上の責任を追求するのであれば、悪質で違法性の高い事実であるほど通報しにくくなるという事態になりかねない。
 したがって、違法行為に関与した者が通報を行う場合には通報者に対する行政処分・刑事責任等についてはその責任を免除・軽減する措置の導入を検討すべきである。

第8 公益通報者保護制度と個人情報保護法

 消費者を含む国民の個人情報についての保護立法が必要であることは明らかであるが、現在内閣から提出されている個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)案は一定以上の個人情報を保有している企業をはじめ生協、労働組合、非政府組織、非営利組織等の個人・団体を「個人情報取扱事業者」とし、「個人情報取扱事業者」には個人情報の取扱について利用目的の特定、利用目的による制限(同法案15条,16条)第三者提供の制限(同法案23条)等の義務を科し、主務大臣ないし国家公安委員会は「個人情報取扱事業者」がこれらの義務規定を遵守しているか否か報告させるなど、主務大臣の関与(同法案32~35条)を定めており、主務大臣ないし国家公安委員会が国民の表現活動に介入できる法案となっている。

 一方個人情報保護法案においては行政がもっている膨大な国民の個人情報についての保護施策は全くされていない。

 さらに、個人情報保護法案は公益通報者保護制度に関しても大きな問題を有している。  個人情報保護法案では主務大臣ないし国家公安委員会が国民の表現活動に介入が可能な構造となっており、主務大臣ないし国家公安委員会は個人情報保護法に反するという理由をつければ、一定の情報を有している者(「個人情報取扱事業者」)に対しては、個人であろうと公益通報者をバックアップする報道機関ないしは非営利団体を問わず介入が可能な仕組みとなっている。

 だとすれば、不正を公益通報(内部告発)する制度がいくらととのっても、行政(主務大臣ないし国家公安委員会)は個人情報保護法を根拠にすればこれを容易に握りつぶしてしまうことが可能となる。

 今後個人情報保護法によって、公益通報者およびその支援者団体等に対し主務大臣ないし国家公安委員会が個人情報の適正な取り扱いを名目として介入し、公益通報者保護法が実質的に機能しなくなる恐れが十分に存在している。

 以上のように、公益通報者制度を実質的に形骸化させる内容となるような「個人情報保護法」の立法には反対である。

以上