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意見表明(1998年-2010年)

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司法修習生の給費制維持を求める会長声明

2003年(平成15年)8月27日
兵庫県弁護士会 会長 麻田 光広

 現在、政府の司法制度改革推進本部の法曹養成検討会において、司法修習生に対する給費制の廃止が検討されている。しかしながら、良質な司法修習制度の維持のために給費制は不可欠であり、当会は、給費制の廃止に強く反対する。

 法の支配を基盤とする民主主義体制のもと、国民が適正、かつ迅速な法的サービスを受けられるようにすることは国家の重要施策のひとつであり、その担い手である法曹界の人材を確保し、これを適切に養成していくことも、同様に国家の重要施策のひとつである。

 今般の司法制度改革は、従来の司法試験という「点」による選抜と司法修習による教育だけではなく、法科大学院における教育、司法試験、司法修習が有機的に連携した「プロセス」としての法曹養成制度を整備するところとなった。しかも、この新しい法曹養成制度における司法修習では、国民の幅広いニーズに応えるために必要とされるスキル(技法)とマインド(素養等)の養成に絞った教育を行うことがコンセプトとされているのであり、以前にも増して、司法修習の重要性が高まっているというべきである。

 ところで、現行法によれば、司法修習生は、司法試験に合格した者の中から、最高裁判所がこれを命ずるとされ(裁判所法第66条第1項)、公務員ではないが、給与、規律その他の身分関係において公務員に準じた取扱いを受けるとされている。つまり、司法修習生は、修習のために国庫から一定額の給与を受けることができるほか(裁判所法第67条第2項。以下「給費制」という。)、国家公務員共済組合法の適用を受けることができる。

 そして、「その反面」として、司法修習生は、修習の全期間を通じて司法研修所長の監督に服し(司法修習生に関する規則第1条)、実務修習期間中はその配属地の高等裁判所長官、地方裁判所長、検事長、検事正又は弁護士会長の監督をも受けるとされ、かつ、最高裁判所の許可なくして、公務員となり、又は他の職業に就き、あるいは財産上の利益を目的とする業務を行うことができない、いわゆる修習専念義務を負い(同第2条)、また守秘義務を負うとされている(同第3条。司法修習生便覧2003―14頁)。

 すなわち、司法修習生は、司法研修所長等の監督に服すべき義務、修習専念義務、守秘義務を課されているが、あくまでこれらは司法修習生の給費制の反面として課されているものであり、司法修習生の「規律」と「給与」は表裏一体のものであると認識されているのである。

 司法修習による教育がこれまでの法曹養成において順調にその成果を上げてきたのも、司法修習生の修習意欲を極めて高く維持し、かつ、法曹倫理の養成においても高い実績を上げてきたのも、司法修習生が国庫から一定額の給与を受けているという事実が前提として存在したからだといっても過言ではない。

 のみならず、今後は、一般的には法科大学院を経なければ司法試験を受験できなくなるところ、法科大学院の授業料に多額の費用を要する上、司法修習生の給費が廃止され、修習期間中の生活資金をも工面しなければならなくなるとすると、法曹になるための財政負担は極めて高額なものとならざるをえなくなる。このような状態では、裕福な環境にある者に対してだけ法曹への門戸が開放され、一般市民には法曹となる道が閉ざされかねない。

 司法修習生に対する給費制の廃止は極めて不適切であり、わが国の法曹養成制度の根幹を揺るがしかねないものとして強く反対の意を表するものである。

以上