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意見表明(1998年-2010年)

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有事7法案に関する会長声明

2004年(平成16年)4月6日
兵庫県弁護士会 会長 滝本 雅彦

1) 政府は本年3月9日国民保護法案、米軍行動円滑化法案、交通・通信利用法案、外国軍用品など海上輸送規制法案、自衛隊法改正案、国際人道法違反処罰法案及び捕虜等取り扱い法案のいわゆる有事7法案を国会に上程し、本年4月6日にも審議が開始されようとしている
 有事法の総則的規定である武力攻撃事態法案に対して、当会は、(1)武力攻撃事態や武力攻撃予測事態(併せて「武力攻撃事態等」と称する)の概念が曖昧であること、(2)「自衛」の範囲を大きく超え、憲法前文や9条に定める平和主義に抵触する重大な疑念があること、(3)市民の人権を大幅に制限し、憲法の保障する基本的人権を侵害する危険が高いこと、などを理由に廃案を求めたが、武力攻撃事態法の各則ともいうべき今回の7法案については、これらの批判が一層妥当するものである。

2) すなわち、武力攻撃事態等と認定された場合において、交通・通信利用法案は、日本国内の港湾施設、飛行場、道路、海空域及び無線通信について自衛隊、米軍あるいはこれらから依頼を受けた業者などに優先的に使用させることを認めるものである。また、同様の場合に、米軍行動円滑化法案は、日本による何らのコントロールもなされない米軍に対して自衛隊に属する物品や自衛隊の役務の提供を認める。そして、自衛隊が米軍に対して役務を提供するということは、自衛隊が米軍の指揮下におかれることになる。
 公海上での米軍に対する後方支援活動を行っている自衛隊への攻撃や攻撃が予測される場合をも「武力攻撃予測事態等」に該当するという政府見解からすれば、これらの法案は、わが国本土の防衛とは直接関係のない場合にも米国の軍事行動を支援協力する体制を日本国内に作り、また自衛隊をして協力させることになる。これは、従来の政府解釈によっても憲法第9条によって禁止されている集団的自衛権の行使に該当するおそれが非常に強い。
 また、上記のとおり交通・通信利用法案は日本の港湾、飛行場、道路、海空域及び無線通信について優先利用を認めることによって市民や業者の交通、輸送、通信を大きく制約し、その日常生活に大きな影響をあたえることになる。
 更に、米軍行動円滑化法案は、米軍の緊急通行、通行妨害となっている物件の撤去について適正手続の保障がなく、さらに米軍の土地家屋の使用のための立入検査の拒否については罰則までも規定する。これらの法案によって、米軍の海外軍事行動の支援のため市民の基本的人権の制約がなされるのであれば、さらにその問題点は一層重大である。

3) 国民保護法案は、武力攻撃事態等及び緊急対処事態という2つの事態における「国民保護のための措置」を実施する仕組みを定める。同法案は「国民保護のための措置」として住民の避難及び避難住民の救援、「武力攻撃災害」に対処する措置などを定めている。
 同法案は、本来人為的に引き起こされる武力攻撃による被害を不可避的に発生する自然災害と同視して「武力攻撃災害」と定め、自然災害を対象とする既存の災害法制や防災体制を転用しようとしている。しかし、これは自然災害対策を軍事的に利用しようとするもので問題である。また、同法案によれば、放送事業者である指定公共機関等に対して、政府が資料や情報の提供を求めたり、対策本部長が発令した警報の内容を放送する責務が課される。本来実際に武力攻撃事態が発生した場合であれば報道機関は、当然に政府の発令した警報の内容を報道するはずであって、敢えて政府に対する情報提供や警報の報道を責務として規定することは、報道に対して規制を行い、報道の自由や国民の知る権利に対して不当な制約を課すことになる危険性が高い。また、同法案は、立ち入り制限区域を定めて市民の立ち入りを制限し、また市民に対して特定物資の売渡・保管、土地家屋の使用、土地建物物資について立入・検査など大きな権利の制約が課すことを内容としている。他方で、市民の知る権利、集会、表現の自由の保護についての具体的な措置が確保されていない。保護されるはずの「国民」の権利保護としては極めて不十分といわねばならない。更に、同法案では、平素から、国民に対する訓練と啓発に努めなければならないと規定しているが、特定の軍事シナリオを前提にして、計画が作成され、地域社会が軍事シナリオに沿って統合・訓練されることなれば、紛争の平和的解決の可能性を自ら塞いでしまうおそれすらある。

4) 以上のべてきたようにこれらの7法案のうち、特に交通・通信利用法案、米軍行動円滑化法案、国民保護法案は、憲法の平和主義、基本的人権の尊重という、憲法の根幹を損なう重大な危険をはらんでいる。
 兵庫県には、神戸港という全国でも有数の港湾を擁するため、ひとたび「武力攻撃事態等」との認定がされれば、神戸港が軍事目的に利用される可能性が高い。このような軍事目的の利用を制限するために、神戸港の利用に関して、1975年3月に神戸市議会は全会一致で「核兵器積載艦艇の神戸港入港拒否に関する決議」(いわゆる非核神戸方式)を採択しているが、前記法案が成立すれば、このような平和の実現に向けての自治体独自の取り組みも認められなくなる。
 このような憲法の基本理念である基本的人権尊重や平和主義にかかわる重要法案については、充分な国民的議論を尽くした上で、慎重な国会審議をなすべきであり、当会としては、今国会で法案を拙速に審議・採択することに反対するものである。