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意見表明(1998年-2010年)

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私たちは「合意による敗訴者負担制度」に反対します。

2004年(平成16年)7月14日
兵庫県弁護士会 会長 滝本 雅彦

 第159回国会に、当事者双方の申立を要件とする敗訴者負担を内容とする、民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案が提出されましたが、継続審議となっており、今年の秋の国会において採決される可能性が高いところです。
 しかし、この「合意による敗訴者負担制度」は、やはり社会的・経済的弱者に対し訴訟提起を逡巡させる強い効果を持つもので、市民のための司法改革の理念に大きく反するものです。この法案では「訴訟手続における当事者の合意」を前提とするため、従前の無条件の敗訴者負担制度とは異なる旨の説明がなされていますが、かかる説明は「まやかし」に過ぎません。この法案には以下のような重大な問題点があるので、市民の側からはこれに反対の声をあげざるを得ないところです。

 この法案の問題点は次のとおりです。

 第1に、合意をしなければ裁判所に勝訴の自信がないとの心証を持たれかねず、合意をすれば敗訴者負担のリスクを負わされることになります。社会的・経済的弱者は、相手方の弁護士費用を気にして困難な選択を強いられるのに対し、大企業等の強者側は、そのような心配をせずに敗訴者負担を選択することができます。結局、弱者側に不利に働くことになるわけです。

 第2に、裁判上での敗訴者負担制度導入は、裁判外の契約による敗訴者負担にお墨付きを与えることになりかねません。そうすると、労働契約、消費者契約、借地借家契約等に敗訴者負担条項が入り、結局、労働者・消費者・借地借家人等の社会的・経済的弱者は相手方の弁護士費用負担を恐れて裁判することが出来なくなります。なぜなら、訴訟外の合意が有効とされると弁護士費用を別の訴訟で請求されることになるからです。

 第3に、不法行為による損害賠償請求等、一定の訴訟類型では、被害者側に弁護士費用を「損害」として請求することが認められています。合意による敗訴者負担制度が導入されれば、弁護士費用は同制度によるべきとして、両当事者が合意しない限り、被害者側が弁護士費用を請求できることが出来なくなるおそれがあります。

 そこで百歩譲って、この法案を認めるとしても、最低限次の手当てが必要です。

 すなわち、(1)消費者訴訟・労働訴訟・事業者訴訟(一方が優越的地位にある事業者間の訴訟)等、経済的格差が明白な当事者間における訴訟類型については敗訴者負担の適用を除外するとともに、(2)一般的な契約において敗訴者負担条項があっても、かかる訴訟外の合意は無効とし、(3)不法行為による損害賠償請求等従前弁護士費用の請求が認められてきた訴訟類型については従前どおり弁護士費用の請求ができることを明言することです。
 よって、私たちは、このような手当がなされない限り、「合意による敗訴者負担制度」には断固として反対します。