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意見表明(1998年-2010年)

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人権擁護法案の再提出の動きについて

2005年(平成17年)3月29日
兵庫県弁護士会 会長職務代行 副会長 藤本 尚道

 政府は、2002年(平成14年)3月に提出し、2003年(平成15年)秋に廃案になった人権擁護法案について、本年2月、報道関係条項の凍結、一定期間経過後の見直し規定の新設というほかは、従前とほぼ同様の法案を今国会へ再上程する意向を示し、その後、自民党の一部の反対により人権擁護委員を日本人に限る「国籍条項」の導入を検討した上で法案を提出する旨表明している。

  当会は、戦後長年にわたり地域に密着して人権救済活動を行ってきた法律家の団体として、また、旧法案に対し、2002年(平成14年)3月28日、「人権擁護法案に対する意見」を表明し、救済機関の政府からの独立性の保障がないこと等から反対の意思を表明して、あるべき実効的な人権救済機関を創設するための真摯な審議を要請してきたが、現在の人権擁護法案に関する議論のあり方について深刻な懸念を表明する。

そもそも何故、今、新しい国内人権救済機関の創設が必要とされているのか。

  この点に関し、わが国において、とくに刑務所、入管収容施設、警察など国家機関による密室での人権侵害に対し、従来、実効的な人権救済がなされてこなかったことへの反省が一つの重要な契機となっていることが改めて想起されるべきである。かかる国家機関の密室での人権侵害に対し実効的な人権救済がなされるためには、政府からの独立性が制度的に担保された機関に、強制力を伴った独自の調査権限を認め、かつその調査権限を適正かつ十分に行使することが客観的に期待できる人的スタッフが確保されねばならない。

  国際的にも、1993年(平成5年)国連総会で採択された「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」を実現すべく、イギリス、フランス、カナダ、オーストラリア等、多くの先進国だけではなく、フィリピン、インド、インドネシア、韓国等アジア諸国でも国内人権救済機関が創設されているのに対して、わが国の取り組みは大きく立ち後れている。
 国際人権(自由権)規約委員会は、1998年(平成10年)、わが国に対し、刑務所等での人権侵害について深い懸念を表明すると共に、救済申立に実効的に対処しうる政府から独立した国内人権機関を創設するよう強く勧告している。

  今回再提出を予定されている新法案は、廃案となった旧法案と同様、新たな人権救済機関を法務省の外局とし、実質的には法務省人権擁護局及び地方法務局の組織を改組するものに過ぎず、同じ法務省管轄下で2001年(平成13年)から2002年(平成14年)に発生した名古屋刑務所刑務官暴行致死傷事件など刑務所等で人権侵害事件が多発している現状では、適正な調査を客観的に期待できる組織形態とはいえない。また、事務局、地方事務局職員並びに人権擁護委員は弁護士、人権救済活動の経験を積んだ民間NGOや学者、医者、カウンセラー、自治体職員等、社会の多元性を反映した多元的な人選がなされるべきであり、外国人も排除すべきではない。
 新法案のもとで設置される人権委員会には、真の人権救済機関としての実効を期待し得ないだけでなく、政府からの独立性が確保されていない機関に広範なメディア規制権限を付与することが表現の自由を侵害する危険性を有することはいうまでもなく、かりにその権限を一時凍結してもその危険性に変わりはない。

  よって、当会は、政府から独立した国内人権救済機関の設置が要請されているという本件の本旨に立ち返り、法案を抜本的に見直すことを要請する。たとえば、人権委員会を内閣府の外局とするなどその独立性を確保し、救済対象の拡大や多文化社会に対応した委員の人選など、あるべき人権救済機関の創設に向け、真摯な議論を重ねるべきである。

  そして、このまま人権委員会を法務省の外局とし、その独立性の保障が制度的に担保されないのであれば、新法案の提出に改めて強く反対の意思を表明する。