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くらしの法律相談(2008年-2016年)

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2010年 神戸新聞掲載『くらしの法律』相談

債権者に実家を取られたくない-期間内に相続放棄の手続きを 神戸新聞 2010年5月4日掲載

執筆者:浅利 慶太弁護士

Q:多額の負債を抱え返済が困難です。父の遺産として実家の不動産が残されました。
私が実家を取得しても、債権者にとられてしまうので、兄に取得してもらおうと考えていますが、
そうした場合、債権者の金融機関から何かを請求されますか。

A:今回の事例では父親の死亡により相続が開始され(民法882条)、相続財産である「実家の不動産」はお兄さんとあなたの共有に属することになります(民法898条)。
   この相談内容については、遺産分割協議をして、相続財産である実家の不動産をお兄さんに取得してもらう方法について、法的に問題はないのかというお尋ねだと思います。
 「共同相続人間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となる」という判例(最高裁平成11年6月11日判決)があります。
詐害行為取消権とは、債務者が債権者を害することを知って行なった法律行為については取り消すことを求めることができる制度です。
 今回の事例に照らすと、相談者には多額の負債があり、返済が困難な状況であることから、実家の不動産を債権者に取られたくない一心で、兄に遺産を取得してもらったとしても、債権者を害する行為として、遺産分割協議を取り消されてしまう可能性が高いものと考えられます。
 この点、相談者が相続財産を取得しない方法として、ほかに相続を放棄する方法があります。
相続放棄の場合、相談者が初めから相続人とならなかったものとみなされます。
そもそも最初から相続人ではなかったことになりますので、当然、父親の遺産である不動産を共有する立場にもなく、相続人であるお兄さんが遺産である不動産を取得したとしても、あなたの債権者がそれに対して口出しをすることはできないのです。
相続放棄のような身分行為については詐害行為取消権行使の対象にはならないと判断されています(最高裁昭和49年9月20日判決)。
 今回の相談については、相続放棄が良いかと思いますが、相続放棄には期間制限がありますので、その点は注意してください。