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くらしの法律相談(2008年-2016年)

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2012年 神戸新聞掲載『くらしの法律』相談

借家で火事起こし隣家にも被害-大家さんに対し損害賠償必要 神戸新聞 2012年5月15日掲載

執筆者:大上 岳彦弁護士

Q:借家に住んでいます。目を離したすきに仏壇のろうそくが倒れ、火事を起こしてしまいました。隣家も少し燃えてしまいました。私は大家さんと隣家の所有者に損害を賠償しなければならないのでしょうか。

A:民法上、過失すなわち不注意によって他人に損害を与えた場合、不法行為責任としてその損害を賠償しなければならないのが原則です。
 しかしながら、不注意で火事になった失火の場合、わが国においては木造家屋が密集しており、甚大な被害が生じやすく、全ての責任を失火者に負わせるのは酷であるとの趣旨から、「失火の責任に関する法律」(失火責任法)という特別の法律が定められております。
 失火責任法によりますと、重大な過失で火事を出した場合に限って、他人に与えた損害を賠償する責任を負うとされています。
 そこで何が重大な過失にあたるかが問題となります。判例によれば、わずかの注意さえすればたやすく火事が起こることが予想できるのに、あえてこれを見過ごしたような、ほとんど故意と同視できるような著しい不注意とされています。
 例えば、てんぷら油を入れた鍋を火にかけたまま長時間離れたり、寝たばこをして火事を出した場合が重大な過失にあたると考えられます。
 相談者の場合、ろうそくを燭台に差しておけば、ろうが尽きるまでそのまま燃えて自然に消えるものと考えられますから、燭台が不安定で倒れやすかったなどの特別の事情がない限り、目を離したことは重大な過失とまではいえず、隣家の所有者の損害を賠償する必要はないということになります。
但し、大家さんに対しては、賃貸借契約が結ばれており、相談者には賃借している部分を毀損・汚損しないように使用する義務があります。そして、火元から離れる際には一旦消すなどの注意を払うべきですので、大きな地震で倒れたなどの不可効力でもない限り、重大ではないとしても過失はあるといえそうです。よって、失火で借家を損傷させたことは、契約上の義務に違反したものとして、大家さんに損害を賠償しなければならないことになります。