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くらしの法律相談(2008年-2016年)

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2016年 神戸新聞掲載『くらしの法律』相談

交通事故現場で半ば強制的に念書-意思表示の取り消し主張も 神戸新聞 2016年4月6日掲載

執筆者:佐和田 猛弁護士

Q:交通事故現場で相手方の求めに応じ、「すべての損害を賠償する」との念書にサインしました。威圧感の強い人で、早く場を離れたくてサインしましたが、相手方のいうまま支払わねばならないのでしょうか。

A:交通事故が発生した場合、通常、その状況を分析し、過失割合を決め、相手方に損害賠償することとなります。損害は、物損事故では修理費など、人身事故では治療費、慰謝料などが考えられますが、どこまでも広げて考えることもできそうです。
そこで、交通事故の場合も、民法第416条を類推適用して賠償範囲を限定する考えが一般的です。賠償範囲は原則、通常生ずべき損害に限られ、特別の事情によって生じた損害については、当事者がその事情を予見、または予見できたときに限り、賠償されることとなります。
相談の方についてはまず、相手方の言動が強迫と評価できるなら、意思表示の取り消しを主張できますし、事故直後なら、サイン時は気が動転し真意ではなかったとして、意思表示の無効を主張することも考えられます。これらが認められれば、念書がない状態に戻せます。
次に、念書が有効と判断される場合には、「すべての損害を賠償する」とした文言の意味が問題となります。一般的に、意思表示の内容が明確な場合を除き、当事者の合理的な意思を考慮することとなります。
事故現場から早く立ち去りたくてサインしている事情などを考慮すると、相手方の考える損害のすべてを想定していたと考えることは、合理的とはいえないでしょう。一方、その文言から、事故状況によっては相談者に10割の過失があることを認める趣旨と理解することは合理的といえそうです。
したがって、本件事故から通常生じる損害および相談者に予見できた損害については、賠償義務が生じると考えられますが、相手方のいうままに支払わなくてもいいと考えられます。相談と似た事例で、同様の判断をした裁判例も見受けられます。
交通事故の当事者となった場合、相手の求めに応じて安易に念書にサインせず、弁護士ら専門家に相談した上で、相手方と交渉することをお勧めします。