意見表明

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日本学術会議法案の廃案を求めるとともに、改めて学術会議会員任命拒否の違法状態の是正を求める会長声明

2025年(令和7年)5月22日
兵庫県弁護士会 会 長  中 山 稔 規

第1 声明の趣旨

 1 特殊法人「日本学術会議」を新設することを目的とする日本学術会議法案を廃案とすることを求める。

 2 日本学術会議会員候補者のうち6名を任命しなかった違法状態を解消することを求める。

第2 声明の理由

 1  2025年(令和7年)3月7日、内閣は、「国の特別の機関」とされている現在の日本学術会議(以下「学術会議」という。)を廃し、国から独立した法人格を有する組織としての特殊法人「日本学術会議」(以下「新法人」という。)を新設する日本学術会議法案(以下「法案」という。)を閣議決定し、衆議院に提出した。法案は、同年5月13日に衆議院で可決され、今後は参議院で審議されることとなっている。

 2 学術会議は、科学者らの学問研究が政治に従属した結果、戦争遂行に加担した歴史の反省に立ち、「わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学会と提携して学術の進歩に寄与する」目的で設立され(現行法前文)、職務を「わが国の科学者の内外に対する代表機関」(現行法第2条)として「独立して」職務を行うわが国の「ナショナルアカデミー」である(現行法第3条)。
 学術会議は、時の政府との関係で、結果として、敵対する事態を招来しても、科学的な根拠に基づく政府に対する勧告や諮問に対する答申(現行法4条、5条、法案38条、39条)の権限を十分に発揮しなければならず、政府との間では特に高い独立性が保障されなければならない。
 そのため、当会が2023年(令和5年)2月27日に発した「日本学術会議会員任命拒否の違法状態の即時是正を求め、内閣府発表の「日本学術会議の在り方についての方針」に反対する会長声明」で指摘したとおり、学術会議は、憲法23条により、ナショナルアカデミーとしての自律性の中核である人事及び活動における独立性、自律性が保障されている。

 3 しかるに、法案は、学術会議の目的を規定する現行法の前文規定を削除し(法案2条1項参照)、現行法で明示する職務の独立性(第3条)を、「運営における自主性及び自律性に常に配慮しなければならない(法案2条2項)」と規定し、配慮義務に後退させた。
 また、総会が選任する会員外の「選定助言委員」に、会員の選定方針策定に対する意見(法案26条1項1号、31条4項)及び、候補者に関する意見(法案26条1項2号)を述べる権限を付与した上で、学術会議の会長が内閣総理大臣が指名する有識者と協議を経なければ新法人の会員予定者を推薦できないと規定している(附則6条5項)。これは、会員・連携会員の推薦で選考する「コ・オプテーション方式」(現行法17条)を実質的に変更し、外部の者が人事に強く関与することにより、会員選考における独立性・自律性を損なうものである(さらに、新法人の発足時の会員は、3年後に再任が禁じられるため(法案附則11条)、これまでの学術会議の継続性が損なわれ、外部の者が影響を及ぼしうる会員による運営に変わるおそれがある。)。
 さらに、内閣総理大臣が委員を任命し、中期的な活動計画の策定や業務の実績等に関する点検・評価の方法・結果について意見を述べる「評価委員会」(法案42条3項、51条)、内閣総理大臣が任命し、あらゆる業務を監査して監査報告を作成し、業務・財産の状況の調査等を行う「監事」(法案19条、23条)など外部の者によって構成される各機関の設置に加え、内閣総理大臣の是正請求制度も規定されている(法案50条)。そして、新法人の財政は、「必要と認める金額を補助することができる」補助金制度とされ(法案48条)、 現行法の国庫負担の原則から後退させている(現行法1条3項)。これらの運営における改定は、活動における独立性・自律性を損なうものである。
 以上のとおり、法案は、学術会議の人事及び活動における自律性・独立性を後退させ、ナショナルアカデミーとしての地位と機能を奪うものである。

 4 2025年(令和7年)4月15日付で、学術会議が発出した「次世代につなぐ日本学術会議の継続と発展に向けて~政府による日本学術会議法案の国会提出にあたって」と題する声明において、以上で指摘した内閣総理大臣任命の「監事」、「評価委員会」及び「選考助言委員会」の設置等に対して強い懸念を示し続けていることを見ても、法案は、従来の政府方針を転換し、学術会議の自律性を損なわせる点で、2020年(令和2年)10月の会員候補者の任命拒否と軌を一にしている(現在も、政府は、任命拒否の理由を示さず、任命も拒んでおり、学術会議は法定の会員数を欠いた状態にある。)。
 法案が、学術会議との信頼関係を確保できないままに提出された経緯に鑑みれば、拙速に修正を行うのではなく、一旦廃案とした上で、学術会議が同声明で掲げる「自己評価のために外部の有識者に委嘱する新たな委員会の設置」、「運営の適正化確保のための役職の総会における選任」などの自律的な改革案をふまえ、さらに政府との間で協議を重ねることが求められている。
 よって、当会は、研究者らの学問の自由を軽視する同法案の廃案を求めるとともに、改めて任命拒否にかかる6人の任期が残るうちに速やかに違法状態を解消することを要求するものである。

以上

 

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