2025年(令和7年)6月17日
兵庫県弁護士会 会 長 中 山 稔 規
第1 声明の趣旨
1 中央最低賃金審議会に対し、目安制度によることなく地域別最低賃金の大幅な引上げを促すことを求める
2 兵庫県地方最低賃金審議会に対し、兵庫県地方最低賃金の大幅な引上げを答申することを求める
3 厚生労働省に対し、最低賃金引上げに伴う中小企業への抜本的な支援を直ちに講じるように求める
第2 声明の理由
1 2024年の兵庫県の最低賃金は1052円であったが,東京都は1163円,兵庫県の隣接都市大阪府は1114円であり,兵庫県との最低賃金格差はそれぞれ111円(対東京都),62円(対大阪)となった。
この最低賃金格差は年々拡大しており,例えば,2011年には兵庫県の最低賃金は739円、東京都は837円,大阪府は786円と、最低賃金格差はあったものの,それぞれ98円(対東京都),47円(対大阪)であり、この13年の間に格差は1.13倍以上(対東京都),1.32倍以上(対大阪)に拡大したのである。
しかし,地方においては、自動車保有による維持費用の支払を余儀なくされることもあり、最近の調査では,都市部と地方との間で、地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費にはほとんど差がないことが確認されている。
とすれば,最低賃金の地域格差の解消に向け,地方の最低賃金を引き上げる措置が取られるべきである。
中央最低賃金審議会においては,毎年,地域別最低賃金額改定の目安について答申がなされ,目安には,各都道府県に適用される目安のランクとして,ABCの各ランクが設けられ,都道府県の経済実態に応じ,ランクごとに引上げ額の目安が提示されている(以下,「目安制度」という。)。そして,各地方最低賃金審議会が,この答申を参考にしつつ調査,審議・答申を行い,各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定することとなるが,昨年、目安制度でBランクとされる自治体の実に半数が、目安額をそのまま採用した結果、Aランクとの格差は解消しなかった。
このように、目安制度は、現在、却って最低賃金の地域格差解消を妨げているのが実情である。
兵庫県においても,目安制度でBランクとされ,最低賃金は1052円と、全国加重平均である1055円をも下回り、Aランクの大阪府との地域格差が維持される状態が続いてきた。しかも,上述のとおり,格差は年々拡大している。兵庫県においても、それぞれの地域の賃金事情を過度に考慮することなく、大幅な最低賃金の引上げをして,Aランクである大阪府などとの格差を解消することが必要であるが,それがかなわなかった実情がある。
よって,中央最低賃金審議会は、目安制度による地域別最低賃金額改定をはかるのではなく、全ての地域に対し、現在のAランクとの格差の解消に向けた地域別最低賃金の大幅な引上げを促すことが今こそ必要である。
2 次に,昨今の経済実態からみても,兵庫県の最低賃金は,大幅な引上げが求められる。
昨年に比べ、食料品や光熱費など生活関連商品やサービスの価格は、なお一層上昇し続けており,2020年(令和2年)基準の消費者物価指数の2024年(令和6年)3月分の総合指数は111.1(生鮮食品の指数は134.0)であり、前年同月比3.7%(生鮮食品は18.8%)の上昇が確認されている。
現在の兵庫県の最低賃金額1052円では、フルタイム(1日8時間、週40時間、月173時間)で働いたとしても、月収約18万1996円、年収約218万円程度に止まる。主食の米の価格が2倍以上に高止まりし、その他の生活必需品の物価も軒並み上昇している中、政府からの実効的な生活支援がなされない現状にみれば、単身者の生活費として必ずしも十分な収入であるとはいえず、ましてや、子どもを育てることは到底困難である。
そもそも、最低賃金は、「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。
よって,当会は,今年度の兵庫県地方最低賃金審議会において、消費者物価指数の上昇率もふまえ、全ての労働者の生活を保障するため、昨年を上回る大幅な引上げの答申がなされることを求める。
3 一方で、最低賃金の引上げにあたっては、現実に労働者に賃金を支払っている事業者、特に中小企業に対する手厚い支援が必要不可欠である。
厚生労働省が実施する最低賃金引上げのための支援策である事業者に対する業務改善助成金の制度は、実際に支援されるか不透明なまま、事業者が設備投資を行わなければならず、利用数が伸びない状況が続いている。賃上げ促進税制も、青色申告事業者を対象としているため、支援としては不十分である。このことは、賃上げを促すためには国の支援が不十分であるとして、引上げ後の賃金水準を1年間続けることを条件として、賃上げ分の半額を補助する独自の賃上げ支援金制度を設ける自治体も生じていることからも明らかである。
我が国の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引き上げながら、円滑に事業を継続できるように、現在の制度に加え、社会保険料の負担軽減策や税の負担軽減策が直ちに必要である。
4 以上のとおり、当会は、中央最低賃金審議会に対し、目安制度にかかわらず、物価上昇に対応できる程度の地域別最低賃金の大幅な引上げを地方最低賃金審議会に促すこと、また,兵庫県地方最低賃金審議会に対し、昨今の物価上昇の中、健康で文化的な生活を確保できる大幅な最低賃金の引上げの答申を行うことをそれぞれ求めるとともに、厚生労働省に対し、従前の制度にかかわらず、最低賃金引上げに伴う中小企業に対する抜本的な支援を直ちに講じるように求める次第である。
以 上