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生活扶助基準引下げを違法とした最高裁判所判決を高く評価し、生活保護利用者及び元利用者への補償を求める会長談話

 2025年(令和7年)7月7日

兵庫県弁護士会   会 長  中 山 稔 規

 2025年(令和7年)6月27日、最高裁判所第三小法廷は、大阪府内、愛知県内の生活保護利用者らが、2013年(平成25年)8月から3回に分けて実施された生活扶助基準の引下げ(以下「本引下げ」という。)に係る保護費減額処分の取消し等を求めた各訴訟の上告審において、いずれについても厚生労働大臣による本引下げの違法性を認め、保護費の減額処分を取り消す判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。

 本引下げは、約30年間にわたり用いられてきた方式を変更し、基準部会等の審議検討を経ず厚生労働大臣独自の手法で算出された物価変動率のみを直接の指標とする「デフレ調整」を主要な理由として行われたが、本判決は、2012年(平成24年)に、生活扶助の老齢加算廃止の判断が争われた際に最高裁判所が示した「判断の過程及び手続に過誤,欠落があるか否か等の観点から,統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべき」という判断枠組に照らし、「デフレ調整」は、厚生労働大臣に与えられた裁量を逸脱・濫用するものであり、生活保護法3条、8条2項に違反して違法というべきであると判断した(宇賀克也裁判長は、個別意見において、物価変動率の算定にあたって、厚生労働省職員が独自に作成した生活扶助相当CPIの算出過程において、被保護者世帯の教養娯楽に属する品目に対する支出の割合が一般的世帯よりも相当低いという調査結果の特徴に整合するよう、専門的知見を駆使した形で生活扶助基準の改定をすべきであったのに、それがされていないため、教養娯楽用耐久財(テレビ、ビデオレコーダー、パソコン等)の物価の大幅な下落の影響が増幅されていること等を指摘している)。

 本判決は、政府による2013年(平成25年)8月以降の生活保護費引下げ政策についての厚生労働大臣の判断が、「個人の尊厳」(憲法13条)の基盤となる「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法25条1項、生活保護法3条)の重要性を軽視する恣意的なものであったことを的確に指摘したものであり高く評価すべきものである。なお、宇賀克也裁判長は、その個別意見において、厚生労働大臣の行政裁量の審査方法について上述した2012年(平成24年)の最高裁判所の判断枠組みをあらためて指摘するのみならず、社会権規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)2条1項等についても言及し、社会権規約2条1項等は、国は、生活保護基準の引下げがやむを得ないことについての説得力ある説明を行う必要があるという解釈を基礎付けるものといえると述べている。

 国は、本判決を受けて、本引下げが行われた期間に生活保護を利用していた数百万人の利用者らの「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」という極めて重要な権利を侵害した事態を深刻に受け止め、兵庫県における訴訟も含め、全国の裁判所に係属している同種訴訟について全面解決を図り、生活保護利用者及び元利用者に対する必要な補償措置を直ちに講じるべきである。

 当会は、かねてより、生活保護基準は、国民の生活を支える「最後のセーフティネット」として、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、地方税の非課税基準、国民健康保険の保険料・一部負担金の減免基準、介護保険の利用料・保険料の減額基準、障害者自立支援法による利用料の減額基準、生活福祉資金の貸付対象基準、就学援助の給付対象基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策などにも影響を及ぼすため、生活保護を利用している者や今後生活保護の利用可能性がある者のみならず、生活保護基準の引き下げは、これらの施策を利用している低所得層の人の生活にも重大な影響を与えるとして、保護基準の引下げに反対してきた(2012年(平成24年)11月5日「生活保護基準の引き下げに強く反対する会長声明」)。

 当会は、国に対し、本判決をふまえて早急に、生活保護利用者及び元利用者への補償を求めるとともに、引き続き、生活保護制度の改善と充実のための相談・提言活動を今後とも積極的に行っていく次第である。

以   上

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