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令和7年8月豪雨災害における賃貸型応急住宅(みなし仮設住宅)の供与期間の見直しを求める会長声明

2025年(令和7年)9月25日

兵庫県弁護士会 会 長  中 山 稔 規 

第1 声明の趣旨

1 熊本県及び熊本市は、令和7年8月豪雨災害の被災者に対する賃貸型応急住宅(みなし仮設住宅)の供与期間に関し、被災時の居住形態を理由として供与期間に差を設ける取り扱いを早急に是正すべきである。

2 熊本県及び熊本市は、賃貸型応急住宅(みなし仮設住宅)の被災者に対し、供与期間を限定せず、被災者の希望に適した恒久的な住まいが確保できるまでの十分な供与期間を設定すべきである。

3 熊本県及び被災自治体は、賃貸型応急住宅(みなし仮設住宅)の被災者に対し、住まいの確保に関する積極的な支援を行うべきである。

4 国は、熊本県、熊本市及び被災自治体が上記1~3の対応を適切に実施できるように助言、勧告等を行うとともに、各対応に要した費用を国庫から負担すべきである。

 

第2 声明の理由

1 熊本県及び熊本市による賃貸型応急住宅の供与と入居期間の設定
 令和7年8月6日から発生した豪雨(以下「令和7年8月豪雨」という。)に関し、賃貸型応急住宅の供与期間について、熊本県は、災害時に持ち家に居住していた被災者については入居日から2年以内、賃貸住宅・公営住宅に居住していた被災者については入居日から1年以内としている(県内の熊本市を除く被災自治体も、熊本県の要綱に従うようである)。
 また、熊本市も、持ち家に居住していた被災者については入居日から2年以内とするものの、賃貸住宅・公営住宅に居住していた被災者については入居日から6ヶ月以内とし、災害時の居住形態により被災者が賃貸型応急住宅に入居できる期間に差を設けている。
 入居期間に差を設けた背景には、災害時に賃貸住宅・公営住宅に居住していた被災者については、別の賃貸住宅を確保する等、災害後の住まいの再建にかかる期間が持ち家に居住していた被災者よりも短くて済むとの想定があると考えられる。

2 居住形態により入居期間に差を設けることの不合理性
 しかし、住まいの再建とは、単に次の住居を確保できれば良いというものではなく、被災者が、できる限り被災前と同等の生活ができる環境を整えることが必要である。
 被災者が、被災前と同等の生活環境を取り戻し、自立した生活をするためには、職場や学校との位置関係のほか、公共交通機関や、スーパー等日常生活を送るために必要な施設が生活圏にあるかどうかということも重要である。これらの条件をふまえながら、転居先を探す一方で、自宅の片付けや、持ち出せる物品の搬出などの作業も並行して行わなければならない。
 とりわけ、高齢者や障害を抱えた方々にとっては、災害発生前に受けていた医療・福祉サービスと同等のサービスが、転居先でも継続して受けられることが、被災者個人の生活の復旧・復興という観点からきわめて重要である。居住地域が大きく変更される場合は、転院や、福祉サービスの提供者の変更が必要となるため、転院先や別の福祉サービスの提供者を探すことが必要となる。
 こういった対応をすることは、被災者にとって容易なことではなく、大きな負担となる。そして、生活再建のための課題や生活再建に要する時間は一人ひとり異なるのであって、被災時の居住形態によって決まるものではないし、被災時に賃貸住宅・公営住宅に居住していたから生活再建に向けた環境整備が容易であるわけでもない。
 にもかかわらず、被災時に賃貸住宅・公営住宅に居住していた被災者は、賃貸型応急住宅に入居し、ようやく少し落ち着いて暮らせる生活を手に入れるやいなや、6ヶ月ないし1年の期限を突きつけられながら、種々の対応に迫られることになるのである。将来の見通しが立っていない被災者にとって、それ自体が大きな心理的負担となることは明らかであるし、焦りから自身にとって多大な不便を強いられる住居を選択する可能性も高い。その場合、被災者は、生活再建を図っていくはずの転居先において、再び、発災前にはなかった生活上の不便を強いられつづけることとなり、心理的負担が継続することになりかねない。かかる心理的負担は、被災者の健康を害し、時には命を奪うことにつながる可能性がある。
 平成28年に発災した熊本地震においても、地震による直接の死者は50名であったところ、災害関連死と認定された死者は226名(地震関連死及び豪雨関連死含む。あくまで災害関連死と認定された数であり、遺族から申請がなされなかったケース、遺族がいなかったケースにおいて、申請がされていれば認定された数も相当程度あったと考えられるため、震災を要因として亡くなった数はさらに多いと考えられる)であり、直接に亡くなられた方よりも、地震後の生活において亡くなられた方が遙かに多いことは忘れてはならない。
 このような、被災者の本質的な生活再建を考慮することなく、被災時に賃貸住宅・公営住宅に居住していた被災者のみ、賃貸型応急住宅の提供期間を短期間に設定することは、個人の生命・身体の安全の観点から問題があるだけでなく、被災者にとって住み慣れた居住地、コミュニティからの転居を余儀なくさせるものであり、個人の尊厳や幸福追求権(憲法13条)、居住移転の自由(憲法22条)への大きな制約となり、平等原則(憲法14条)にも反するおそれがある。
 熊本県のホームページでは、「新たな物件に入居することが困難な場合には、県と市町の協議・同意により、延長ができます。」と発信しており、延長の余地があることは示している。しかし、被災者にとっては、延長されるかどうかは不明なのであるから、被災者にとって、転居先を急ぎ選定しなければならないという、前記の問題は解消されない。かかる例外事項が設定されていることは、発災時に持ち家に居住していた被災者と、賃貸住宅・公営住宅に入居していた被災者とで、実質的な生活再建のための検討期間に差を設けることを正当化する根拠とはなりえない。
 令和6年能登半島地震においても、賃貸住宅・公営住宅の入居者については、持ち家に居住していた被災者と比べ、応急仮設住宅への入居期間が短く設定されていたが、被災地会である金沢弁護士会や、熊本県弁護士会等各地から、問題を指摘する声があがり、かかる差異が撤廃されたという経緯がある。これは、石川県内の特に被害が大きかった地域が、都市部ではなく、代替物件を見つけることが困難であるという事情もあるが、そもそも転居先が見つかるかどうかではなく、被災者にとって実質的な生活再建を図るための期間として短すぎるということが、本質的な理由である。今回の豪雨災害における熊本県の実情と、能登半島地震における石川県の事情を比較し、今回の措置が合理的であるとすることはできない。

3 生活再建のために必要かつ十分な供用期間を設定する必要性
 被災者が抱える課題や生活再建のために必要な期間は、被災者によって千差万別であり、被災時の居住形態によって決まるものではない上、一律に2年あれば十分であるともいえない。
 賃貸型応急住宅が生活再建の基礎となることに鑑みれば、熊本県及び熊本市等被災自治体においては、被災時の居住形態による入居期限の差を撤廃するだけでなく、被災者の希望に適した恒久的な住まいが確保できるまでの十分な供与期間を設定すべきであるし、それに加え、被災者の住まいの確保に関する支援(単なる転居先の紹介ではなく、医療・福祉の環境整備を目的とした福祉的支援等被災者の生活再建に適した住まいの確保を目的とする支援)を充実させることにより、速やかな被災者の生活再建を図るべきである。

4 結語
 以上より、被災者の実質的な生活再建の観点から、声明の趣旨1記載のとおり、熊本県及び熊本市は、早急に供与期間に差を設ける取扱いを是正し、声明の趣旨2記載のとおり、被災者が生活再建を行うのに十分な期間を設定するとともに、熊本県及び被災自治体において、声明の趣旨3記載のとおり、被災者が生活再建を行えるよう、住まい確保のための積極的な支援を行うべきである。
 また、声明の趣旨4記載のとおり、国は、熊本県、熊本市及び被災自治体が上記の各対応を適切に実施できるように助言、勧告等を行うとともに、各対応に要した費用を国庫から負担すべきである。

 

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