声 明 の 趣 旨
1.今回発覚した佐賀県警によるDNA鑑定のねつ造をはじめとする不適切な取り扱いについて、最大限非難すると共に、公判への影響や再発防止策の検討について第三者委員会を設置の上、同委員会による検証と検討を求める。
2.科学的鑑定において、全国的に本件同様のねつ造など不適切な取り扱いが行われていないかを検証するため、第三者機関を設置の上、同機関による調査を求める。
声 明 の 理 由
第1 はじめに
令和7年9月8日、佐賀県警察本部の科学捜査研究所に所属する職員が未実施のDNA鑑定を実施したかのように装って嘘の報告をしたなど、不適切な対応をし、同職員を懲戒免職としたとの報道発表があった。
また、その後の報道によれば、以下のとおりの事実が確認された。
・7年間にわたり、130件の不適切な鑑定を行った
・上司に対して仕事ぶりをよく見せるため、仕事が遅いと指摘されるのを避けるためにやった。
・佐賀地方検察庁によると処分の決定や公判における証拠として使用された事例はなく、捜査や公判に影響したものはなかった。
・佐賀県警も再鑑定の結果、公判に影響がないとした。
第2 第三者委員会の設置と検証、再発防止策の提言について
1 鑑定をしていないにもかかわらず、鑑定を行ったかのような鑑定書を作 成することは、いかなる理由があっても許されることではない。証拠偽造罪、有印公文書偽造、同行使罪に該当する可能性も高い。
その上、今回問題となっている鑑定は刑事事件の証拠になり得るものである。捜査官における被疑者に対する暴言や暴力、利益誘導など刑事弁護においては取調べを巡る諸問題が常に存在する一方、相対的に客観的証拠、とりわけDNA鑑定のような科学的証拠が重視されてきたのは言うまでもない。
しかし、このような重要な証拠がねつ造されていたのであれば、えん罪が生み出される可能性が極めて高くなる。そうすると、被疑者、被告人の人生を大きく狂わせる可能性があるだけではなく、場合によっては犯罪被害者においても更なる傷付きを与えうる可能性がある。
以上の点に鑑み、当会としては、今回のDNA鑑定のねつ造をはじめとする不適切な取り扱いを最大限、非難するものである。
2 上述のとおり、佐賀地方検察庁、佐賀県警によれば、公判に影響はなかったとのことであるが、どのような調査をしたのか不明であるし、どのような理由で公判に影響がなかったと断じているのかも不明である。
仮に、公判そのものには影響がなかったとしても、DNA鑑定が逮捕勾留の際の疎明資料に用いられたことは考えられる。また、個々の捜査においてそのDNA鑑定に基づき、被疑者や参考人の取調べを行ったことも十分に考えられる。したがって、今回発覚したねつ造の影響が全くなかったとは言い切れないはずである。
こうした懸念を払拭するために、第三者委員会を設置し、今回のねつ造をはじめとするDNA鑑定の不適切な取り扱いを客観的に検証し、再発防止策を検討するように求める。なお、令和7年9月18日の報道によれば、佐賀県警本部長は第三者委員会の設置を否定したとのことであるが、このような姿勢は厳しく非難する。
3 一方、ねつ造など不適切な取り扱いを行っていた職員によれば、仕事が早いと上司に思われたい、という理由でかかる行為に及んだとのことである。そのような動機で今回の行為に及んだというのであれば、単に同職員の個人的な資質を非難するだけではなく、鑑定のチェック体制や職員の労務環境など、多角的に検討をし、再発防止策を検討するように同第三者委員会に求める。
第3 第三者機関による全国的な検証について
1 今回の佐賀県警におけるDNA鑑定のねつ造など不適切な取り扱いは、佐賀県警にだけあるとは限らない。
特に、今回の職員のように上司によく思われたいという動機は佐賀県警に特有のものではなく、全国的にも共通する。それゆえ、他の都道府県警や警視庁に設置された科学捜査研究所においても、未だ発覚していない同様の事態がある可能性は十分にある。
2 かかる懸念を払拭するためにも、国において第三者機関を設置し、今回の事態と同様のケースが全国的に存在しないかを検証するように求める。
仮に、今回の事態と同様のケースが存在した場合は、速やかにそれを公表されると共に、その原因究明と再発防止策を検討されるように求める。
2025年(令和7年)9月25日
兵庫県弁護士会
会長 中 山 稔 規