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国際刑事裁判所(ICC)の独立性を堅守し、法の支配の貫徹を求める会長声明

2025年(令和7年)11月27日

兵庫県弁護士会 会 長  中 山 稔 規

 

 国際刑事裁判所(ICC)は、2002年7月にオランダ・ハーグに設置された国際裁判所であり、20世紀に、人類の良心に深く衝撃を与える想像を絶するほどの残虐な行為が行われ、児童を含む多数の犠牲者が生じたことを踏まえ、ジェノサイド犯罪や戦争犯罪、侵略犯罪など、国際社会共通の価値を毀損する特定の重大犯罪について、その責任主体である個人を訴追・処罰することにより、将来において同様の犯罪が繰り返されることを防止することを目的としている。

 日本も2007年に加盟して以降、複数の裁判官のみならず所長を輩出するとともに、多くの分担金を拠出するなどして、ICCに貢献している。
しかし、昨今、ICCによる逮捕状発付等の権利行使に対し報復する国家が現れるなど、「法の支配」ではなく「力の支配」への逆行するする動きが増加している。

 例えば、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻に関し、2023年3月17日にICCがロシア大統領らに逮捕状を発布したことに対し、ロシア政府は、ICCの検察官や判事等に逮捕状を発布した。さらに、ガザにおける紛争に関連して、ICCがイスラエル首相らに逮捕状を発布したことに対し、アメリカは2025年2月6日、ICC職員などに対する入国禁止や資産凍結等の処分を科す大統領令を発布した。加えて、ICC加盟国に関しても、国内に逮捕対象者が入国したとしても逮捕手続を執っていないため、実質的に逮捕状発布が骨抜きのまま放置されている。

 戦争は最大の人権侵害であるところ、そうした世界規模で重大な犯罪を止めるべく、長期間を要して設立されたのがICCであり、その機能としても、戦争といった重大犯罪を国際的視点で俯瞰し制止することのできる、いわば最後の砦として機能している。そうした逮捕状発布をはじめとしたICCの権利行使及び独立性が機能しなくなれば、ICCは機能不全に陥ることとなり、独立性を再構築するには長期間を要することとなることからして、法の支配に基づく国際秩序が崩壊する危険性があり、到底看過できるものではない。

 日本においても憲法前文や第98条を通して、国際秩序の維持や国際的な平和的生存権を尊重されている。これに加えて、加盟以来継続的にICCに貢献してきたことも踏まえると、ICCに対する報復に対する反対声明や支援強化を行っていない日本政府の対応は、国際秩序及び法の支配を貫徹させることを尊重する上記憲法の趣旨からすれば不十分であるといわざるを得ない。

 当会は、日本政府に対し、国際秩序維持のための最重要機関であるICCの活動及び独立性を害する一切の妨害行為に対し明確に反対し排除を求めることに加え、そうした危機に直面しているICCに対する指示・支援を従来以上に強化させることを求めるべく、本声明を発出する次第である。

 

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