2025年(令和7年)12月25日
兵庫県弁護士会 会 長 中 山 稔 規
声明の趣旨
最高裁判所は、「弁護士となる資格を有する者、民事もしくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識を有する者または社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で、人格識見の高い年齢四十年以上七十年未満の者」(民事調停委員及び家事調停委員規則1条)であれば、日本国籍の有無にかかわらず、等しく民事調停委員及び家事調停委員に任命するよう、速やかに従来の運用を改めることを求める。
声明の理由
1 当会は、今般、神戸地方裁判所および神戸家庭裁判所からの令和8年4月期任命の調停委員候補者の推薦依頼を受け、外国籍である当会のA会員とB会員をそれぞれ民事調停委員、家事調停委員の各候補者として推薦した。これに対し、令和7年11月14日付で、両裁判所から、いずれも、上記各会員について、日本国籍を有しないという理由により、調停委員として最高裁判所に任命上申しないことを決定した旨の通知があった。
2 しかしながら、民事調停法、家事事件手続法並びに民事調停委員及び家事調停委員規則には、調停委員の資格要件や欠格事由として日本国籍の有無に関する規定はなく、法令上、調停委員に関する国籍要件は存しない。外国籍であることのみを理由に調停委員の候補者としない裁判所の対応は、法令に根拠のない基準を新たに創設するものであるだけでなく、調停委員の具体的な職務内容を勘案することなく、日本国籍の有無で異なる取り扱いをするものであり、国籍を理由とする不合理な差別であって、憲法第14条に違反する。
3 しかも、A会員は過去に当会の副会長を、B会員は日弁連の副会長や当会の会長・副会長を歴任し日本司法支援センター兵庫地方事務所の所長に就任するなど、いずれも公益的役職を務めており、資質・経験ともに調停委員候補として申し分ないものとして当会が自信をもって推薦したのである。にもかかわらず、明確な法的根拠なくその推薦を無にする対応には到底納得できない。
4 国際的にみても、国連人種差別撤廃委員会が、日本の調停委員に外国籍の人が就任できない運用をたびたび問題視し、国籍による差別撤廃を求める勧告を行っている。
5 日本には400万人近くの外国籍者が在留していること、司法統計によれば、年々家事渉外事件が増加傾向にあると認められることからすると、調停の場に外国籍者が調停委員として参画することで、多様な文化背景を持つ社会に対応した紛争解決が期待でき、調停制度の充実・信頼につながるはずである。
過去には、1974年(昭和49年)から1988年(同63年)まで中国(台湾)籍の大阪弁護士会会員が民事調停委員として任命され、大阪地裁所長より表彰をうけた先例がある。
6 この問題は、2003年(平成15年)に当会が家事調停委員候補者として推薦した韓国籍の弁護士について、国籍を理由に神戸家庭裁判所から推薦の撤回を求められたことに端を発している。それ以降も当会は複数回にわたり外国籍の会員を調停委員に推薦しているが、いずれも同様の理由により最高裁判所への任命上申を拒絶されており、そのたび毎に抗議の会長声明を発してきた。2016年(平成28年)には、1月19日の当会臨時総会で本声明の趣旨と同一の決議をしたところであるが、その後も従前の運用が維持されているので、改めて強く抗議するとともに重ねて声明を行うものである。
以上
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