意見表明

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最高裁判決を踏まえて全ての生活保護利用者及び元利用者に対する平等な補償を求める会長談話

 2026年(令和8年)2月19日

兵庫県弁護士会   会 長  中 山 稔 規

 1 2025年(令和7年)6月27日、最高裁判所第三小法廷は、大阪府内、愛知県内の生活保護利用者らが、2013年(平成25年)8月から3回に分けて実施された生活扶助基準の引下げ(以下「本引下げ」という。)に係る保護費減額処分の取消し等を求めた各訴訟の上告審において、いずれについても厚生労働大臣による「デフレ調整」及び「ゆがみ調整」に基づく本引下げの違法性を認め、保護費の減額処分を取り消す判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。

 本判決を受け、厚生労働省は、社会保障審議会生活保護基準部会の下に設置した最高裁判決への対応に関する専門委員会(以下「専門委員会」という。)の報告書を取りまとめて公表し、2025年11月21日、「最高裁判決への対応に関する専門委員会報告書等を踏まえた対応の方向性」(以下「本対応策」という。)として、原告らを含む全ての生活保護利用世帯に対し、①「ゆがみ調整(及び2分の1処理)」による処分を再実施するとともに、さらに、②本判決で明確に違法と判断された「デフレ調整」(-4.78%)に替え、下位10%の低所得世帯の消費実態との比較による新たな減額調整(-2.49%)を行った上で、③本引下げに係る保護費減額処分の取消を求めた訴訟の原告らについてのみ「特別給付」として「デフレ調整」による減額相当分を追加給付することを明らかにした。

2 しかし、本判決により、原告らに対する保護費減額処分が全部取消されているのであるから、本引下げ前の基準による生活保護費との差額の給付請求権が法律上生じている。それにもかかわらず、①の対応は、取り消されたゆがみ調整を再度実施することにより、原告らの給付請求権を遡及的に不利益変更するものであり、生存権(憲法第25条第1項)に由来する財産権(憲法第29条第1項)を侵害するものである。

3 また、②の対応は、訴訟の終盤において、国が「デフレ調整」を正当化するために「新たな減額調整」の論拠である低所得者の消費水準との比較を要すると主張していたにもかかわらず、本判決において採用されなかった以上、これを再減額の根拠として用いること自体、本判決の判断を蔑ろにするものであって許されない。

4 さらに、違法とされた本引下げによる不利益は、言うまでもなく、当時の全ての生活保護利用者が長年にわたり被ってきたものである。また、個々の保護利用者の様々な状況から、訴訟を行うことができなかった者も存在するのであって、原告であったか否かという立場のみをもって、補償内容に差異を設ける③の対応は、法の下の平等(憲法第14条第1項)や無差別平等原理(生活保護法第2条)に反するものである。

5 生活保護基準は、国民の生活を支える「最後のセーフティネット」として、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準である。

 当会は、2012年(平成24年)以降、本引下げに対して繰り返し反対を表明してきた。2025年(令和7年)7月7日にも、国に対し、本判決を受けて、本引下げが行われた期間に生活保護を利用していた数百万人の利用者らの「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」という極めて重要な権利を侵害した事態を深刻に受け止め、全ての生活保護利用者及び元利用者に対する必要な補償措置を直ちに講じるように求めたところである。

 現在、兵庫県の原告らの訴訟が最高裁第3小法廷に係属しているところ、今般、本判決をふまえることなく、厚生労働省が、再減額を講じた上で不平等な対応策を検討していることから、国及び厚生労働大臣に対し、本対応策を撤回し、全ての生活保護利用者に対する全面的な補償措置を直ちに実施することを改めて求める次第である。

以   上

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