意見表明

ヒマリオンの部屋ヒマリオンの部屋

日野町事件の再審開始決定確定を受けて、改めて議員連盟の再審法改正案をベースとした再審法改正を求める会長声明

2026年(令和8年)3月30日

兵庫県弁護士会 会 長  中 山 稔 規

1.昭和59年に滋賀県日野町で酒店経営の女性が殺害され、手提げ金庫が奪われた事件(いわゆる日野町事件)につき、強盗殺人罪が確定した元被告人の第2次再審請求において、大津地方裁判所及び大阪高等裁判所の再審開始決定を経て、検察側が申し立てていた特別抗告は最高裁判所により令和8年2月24日に棄却された。

  同事件の第2次再審請求は、平成24年3月に大津地方裁判所に申し立てられ、平成30年7月に再審開始決定が出るまでに約6年4か月を要した。

  検察側は大津地方裁判所の再審開始決定に対して即時抗告を申し立てたが、大阪高等裁判所では、第1次再審請求を大津地方裁判所で棄却した当時の裁判官が、裁判長を務める裁判体に配点されたため、再審請求人や弁護人らが抗議した結果、別の裁判体に配点替えされた。その後、大阪高等裁判所が検察官の即時抗告を棄却したのは、令和5年2月27日であり、この棄却決定に対して検察側が特別抗告を申し立てたため、最高裁判所が特別抗告を棄却した令和8年2月24日になって、ようやく再審開始決定が確定することとなった。

  なお、元被告人は、再審開始決定が確定する日を待たずに、この世を去ってしまった。

2.法制審議会は、令和8年2月12日、法務省に対して刑事再審手続に関する「要綱(骨子)」(以下「要綱」という)を答申した。しかし、この要綱では、日野町事件を始め、これまでの袴田事件等のえん罪事件における問題が解消されていないと言える。

3.要綱では、再審請求に対する調査手続を経て審判開始決定がなされたもののみ再審請求審が開始されることになっている。

  調査手続という再審請求審開始までの手続が増えることになる上に、調査手続では証拠開示もなされず書面調査のみとなることから、再審請求審が開始されるための門戸が狭められる可能性がより高まることが強く懸念される。

  したがって、要綱では、審理の長期化を改善させるどころか、これまで以上に長期化させ、むしろ改悪させる可能性すらある。

4.日野町事件の再審開始決定のきっかけは、第2次再審請求審において検察官が開示したネガフィルムの中に、警察官が自白を誘導した可能性が示唆されるものが含まれていたことにある。

  現在の刑事訴訟法においては、再審請求審における証拠開示に関する規定はないが、要綱によれば、証拠開示の規定は創設されるため、一見、再審の開始が容易になったようにも理解できる。

  しかし、要綱では、現在行なわれている裁判所の裁量による証拠提出命令は規定されず、開示される証拠は、再審請求の理由に関連すると認められる証拠で、その必要性の程度、開示による弊害の内容やその程度を考慮して相当と認められるものに限定されることから、現在の証拠開示よりもその範囲が更に限定されることにもなりかねない。

  また、証拠開示される相手方は、弁護人ではなく、裁判所であり、当事者たる再審請求人には証拠の閲覧権すら保障されていない。

  そのため、要綱による再審法改正案の下で第2次再審請求審がなされた場合、ネガフィルムが裁判所や弁護人に開示されないままとなり、再審開始決定に至らなかった可能性は極めて高い。

  なお、要綱によれば、再審請求審で閲覧謄写した証拠を弁護人が再審の目的以外に使用してはならないという目的外使用禁止の規定が盛り込まれている。この目的外使用禁止規定では、証拠の複製等を人に交付、提示、提供してはならない等とあらゆる方法が網羅的に禁止されていることから、再審支援者が、証拠を確認することができず、報道を通じて再審手続の評価、検討をすることもできなくなってしまう。

5.仮に、調査手続及び再審請求審を経て、再審開始が決定されても、要綱では検察官抗告は許されたままである。上述の日野町事件や、袴田事件をはじめとした過去の再審無罪事件の経過からしても、検察官抗告が再審開始までの長期化の原因となっていることは明らかである。

  検察官は、再審が開始されても、再審公判手続で有罪立証に向けた訴訟活動をすればよいだけであり、再審を開始すべきか否かにこだわる必要はない。

  そのため、再審開始決定に対する検察官抗告を認めるべきではない。

6.以上のように、法制審議会の要綱は再審請求審の審理を適正化するものとはいえない。法制審議会では全会一致で答申を議決することが慣例であるにも関わらず、要綱の答申に関しては4名もの委員の反対がある中、賛成多数で可決された。このことは要綱が不十分である証左の1つである。

  そこで、当会は、法制審議会の要綱に基づく再審法改正案の国会への法案提出に反対する。そして、超党派の国会議員連盟により提出された再審法改正案(第217回国会にて、衆議院に提出された法案番号61)の再提出を求めると共に、仮に、法制審議会の要綱を元にした改正案が提出された場合は、議員連盟により提出された法案のベースとなった考え方をもとに、法案の必要な修正を行うように求めるものである。

以上

 

PDFファイルはこちら