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オンライン接見の法制度化を求める会長声明

 

                            2023年(令和5年)7月28日

                               兵庫県弁護士会

                                会長  柴 田 眞 里

1 法制審議会の刑事法(情報通信技術関係)部会(以下「本部会」という。)では、刑事手続のIT化の議論が進んでいる。本部会では、被疑者・被告人との「ビデオリンク方式」(対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法)による接見(電子データ化された書類の授受を含む。以下「オンライン接見」という。)を刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)39条1項の接見として位置付けることが検討されている。

2 身体の拘束を受けている被疑者・被告人にとって、刑事施設・留置施設が弁護人等の法律事務所から遠く離れている場合等を含め、身体拘束の当初から、弁護人等の援助を受けることは重要な権利である。憲法34条前段は、弁護人の援助を受ける権利を定め、これを受け、刑訴法39条1項は、弁護人が被疑者・被告人と立会人なく面会し、書類の授受をすることができるとする接見交通権を定めている。

現代のIT化社会では、弁護人が被疑者・被告人とビデオ会議システムを用いて対面し、電子データ化された書類の授受を行うことも現実的な手段である。

したがって、かかる現代の状況下では、オンライン接見も、刑訴法39条1項の接見交通権の行使に含まれるものと解するべきである。ゆえに、オンライン接見は、権利性を有する法律上の制度として、法制審議会を経て制定され、国家予算を投じて運営されなければならない。

3 特に、逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとって、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、憲法上の保障の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。近年特に逮捕直後ないし勾留請求前の弁解録取の段階で詳細な取調べをして供述調書を作成する捜査スタイルが顕著になっており、被疑者には弁護人に早期助言、援助を求める必要性が高くなっている。

ところが、現在、日本では逮捕段階における公的弁護制度が創設されていないため、被疑者は、身体を拘束された直後の重要な時期に、弁護人の助言を受けられず、虚偽自白や冤罪の危険に曝されるという、重大な防御上の不利益を被っている。
 したがって、逮捕段階においては、身体を拘束された被疑者が、要請をした直後、弁護人あるいは弁護人となろうとする者から黙秘権告知等の助言を受け、速やかに弁護人選任届の取り交わしを済ませる必要があり、地理的条件を問題としないオンライン接見は上記の対応を可能にする制度として極めて重要な意義を有する。
 日弁連(日本弁護士連合会)が求めている逮捕段階の公的弁護制度を今後実現し、実効性あるものとするためにも、逮捕段階での早期接見を可能とする、権利としてのオンライン接見制度の実現は不可欠である。

また、被告人が起訴後に遠隔地所在の刑事施設に移動することもあり、こうした場合、地理的な要因によって起訴後の接見が困難になることがある。そのため、公判前整理手続、公判手続の遅延や起訴後に十分な接見が受けられない事態が生じる。裁判員裁判や法定合議事件等の重大事件における起訴後の遠距離移送などがその例である。こうした場合も、オンライン接見を用いて、被疑者・被告人が継続的に弁護人の援助を受けられるようにする必要が高い。

このように、現行の捜査段階の接見や公判段階の接見は、いずれも全国的な課題を抱えており、相互の問題解決のためには、遠隔地に所在する留置施設等と本庁の刑事施設等を、相互に管轄の別なく接続する必要が極めて高い。

4 現に、当会では、下記のようなオンライン接見制度創設を基礎づける具体的事情がある。

  たとえば、篠山留置施設は、被疑者等の留置・勾留に特化した大規模収容施設であり、兵庫県内からくまなく被疑者が収容されてくる(年間100~200件)にも関わらず、神戸、尼崎、姫路などの裁判所所在地から直線距離でも50キロメートル以上離れた遠方にあり、当番派遣や初回接見、継続受任後の接見において、電車でも自動車でも往復3時間は優にかかっている。

  また、但馬地区に所在する警察署に被疑者等が収容されても同地区内の弁護士が利害相反その他の事情で受任できない場合、また、神戸、尼崎、姫路などの事件であるものの勾留場所満杯等の都合で但馬地区に勾留される場合には神戸等の裁判所所在地から弁護士が応援的に受任を余儀なくされ、当番派遣や初回接見、継続受任後の接見において、たとえば美方警察署の場合は片道150キロメートル以上の遠距離の移動を余儀なくされる。

  その他の遠方の警察署でも接見の必要性、裁判員裁判の準備・打合せのため拘置所で多数回の接見の必要性などを充足するためにも、オンライン接見を用いて、被疑者・被告人が継続的に弁護人の援助を受けられるようにする必要が高い。

  当会には、法テラス兵庫・神戸地方検察庁と神戸拘置所をつなぐ法務省の電話外部交通制度があるが、おもに起訴後となる拘置所のみ、音声通話のみ、前日予約、接続時間が20分以内などの制約により不便であり、被疑者等の接見交通権の十分な保障とはなっていない。

5 本部会においては、捜査機関側から、オンライン接見について、実施設備に伴う人的・経済的コストの負担や、なりすまし等の危険がある等の問題が指摘されている。

しかし、新たな設備の整備等に伴い人的・経済的コストが増えるのは、令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に妥当することであり、捜査機関側の制度では克服されるのに被疑者・被告人側の防御上の制度の局面では克服できない、というのはおかしい。本部会では、取調べ、弁解録取、勾留質問等をオンラインで行うことが具体的に検討されているが、それが可能であれば、オンライン接見も可能なはずである。捜査機関の利便性のみではなく、被疑者・被告人の人権保障を最大限に拡充する観点でも、人的物的対応体制・予算措置の拡充の議論が尽くされなければならない。

また、アクセスポイント方式を採用した現行の電話連絡制度や電話による外部交通制度において、例えば第三者が弁護人になりすましたり、罪証隠滅を図ったりした事例は報告されていない。現代のITの進歩は目覚ましく、こうした弊害を除去するための現実的な措置は、アクセスポイント方式を例として、十分に存在しているといえる。

6 刑事手続のIT化の議論は、何よりも被疑者・被告人の人権保障を拡充するという観点で進められるべきである。
 当会は、法制審議会にて更に具体的な議論が尽くされ、オンライン接見が実現されることを強く要望する。

 

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