意見表明

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全国一律最低賃金制度の実現と、兵庫県地域別最低賃金の大幅引上げを求める会長声明

2021年6月16日に発出した会長声明は、当日、兵庫労働局に訪問して、岸泰広労働基準部長にお渡ししました。
コロナ禍を受け、世界で広がる最低賃金底上げの動きについて意見交換ができ、大変参考になりました。ご対応ありがとうございました。
当会では、兵庫県の最低賃金の大幅な引き上げとともに、初めて、全国一律最低賃金制度の実現を求める声明を出しました。
一緒に考えていただきたいと思います。ぜひ、ご一読ください。

PDFファイルはこちら→


2021年(令和3年)6月16日
兵庫県弁護士会
会 長  津 久 井 進

 第1 声明の趣旨

1 厚生労働省に対し,地域間で格差のない全国一律最低賃金制度を実現することを求める
2 兵庫県地方最低賃金審議会に対し,中央最低賃金審議会の答申にかかわらず,兵庫県地方最低賃金の大幅な引上げを答申することを求める

 第2 声明の理由

1 2011年における兵庫県と東京都の最低賃金格差は、739円と837円で98円であったが、2020年には兵庫県と東京都の最低賃金格差は900円と1013円で113円となり、10年間で1.15倍以上に拡大した。
 兵庫県は、昨年1月から9月の県外転出者は全国最多の「ワースト」地方であり、県内の若者や、かつては兵庫県に転入していた中国・四国地方の若者までも、最低賃金の高い東京・大阪へ転入していると指摘され続けている。最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係があり、最低賃金の低い地方の経済が停滞し、地域間の格差が固定、拡大しているとも言われている。
 このまま、兵庫県と東京・大阪との最低賃金の格差が拡大し続ければ、高収入で、質の高い労働を求め、多くの県民が兵庫県から県外に流出することとなり、兵庫県内の産業にとって大きな痛手となることは明らかである。
 最新の研究によれば、地方では、都市部に比べて住居費が低廉である一方、他方で公共交通機関の利用が制限され、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされるため、最低限必要な生活費には都市部と地方では大きな差がないことが判明している。
 労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しないにもかかわらず、働いた賃金の額に差があるため、兵庫県の県外転出は増え、県内転入は減り続けていると考えられるのであるから、兵庫県を始めとした地方と東京・大阪との賃金格差を抜本的に解消するためにも、地域間で格差のない全国一律最低賃金制度を実現すべきである。

2 海外の最低賃金の状況に目を転じれば、フランスでは2021年1月に10.25ユーロ(約1333円)に引き上げられ、ドイツでは2022年1月に9.82ユーロ(約1277円)、同年7月に10.45ユーロ(約1359円)に引き上げられ、イギリスでも2021年4月から成人(25歳以上)の最低賃金が8.91ポンド(約1354円)に引き上げられている。さらに、アメリカ合衆国でも、2022年1月30日以降に、連邦政府との契約事業者の従業員の最低賃金を時給15ドル(約1647円)に引き上げる方針であると報道されており、日本の最低賃金は、先進国の中でも最低レベルであり、諸外国と比較しても、引き上げられる必要がある。

3 兵庫県の最低賃金額は900円であるが、フルタイム(1日8時間、週40時間、月173時間)で働いたとしても、月収約15万5700円、年収約187万円弱程度に止まる。現在、県内の中小・零細企業の休業・廃業によって、これまで、兵庫県の最低賃金程度の賃金を得て生活してきた多くの労働者が職を失い、日々の生活に窮しているが、これは、兵庫県の地方最低賃金が低水準であったため、コロナ禍の失業等に備えられるだけの貯蓄を形成できなかったことも原因になっていると思われる。
 兵庫県が、県内の産業を守り、新たな産業を県内に生み出し、県内外の働く人々にとって、魅力のある地方・地域であり続けるためには、コロナ禍で、県内の経済が停滞する今こそ、他の地域以上に最低賃金の引き上げを行う必要がある。今年度の兵庫県地方最低賃金の引上げは、兵庫県が東京・大阪との最低賃金格差を縮小させる好機でもあるから、大幅引上げの答申が必要である。

4 なお、昨年、新型コロナウイルスの感染拡大により、経営基盤が脆弱な多くの中小企業が倒産、廃業に追い込まれる懸念を理由として、中央最低賃金審議会は、2020年度の地域別最低賃金額の引上げ額について目安額の提示を見送り、兵庫県地方最低賃金審議会は、昨年、兵庫県の地方最低賃金の引上げを1円に止めた。 たしかに、新型コロナウイルス感染症拡大により、経営難に直面している中小企業が最低賃金の引上げについて不安を抱えていることは否定できない。しかし、その原因は、実際に支援されるか不透明なまま、事業者が設備投資を行わなければならないなど「使い勝手が悪い」と指摘され続けている業務改善助成金等の制度しか準備せず、事実上、最低賃金の引き上げによる負担を中小企業に転嫁させ続ける厚生労働省の施策にある。新型コロナウイルス感染拡大に伴う中小企業に対する支援を拡充するとともに、中小企業の売上総利益の14%を占めると言われる社会保険料や税の負担軽減を早急に制度化すべきである。
 他方で、最低賃金の引上げにあたっては、最低賃金未満の賃金で雇用させる事業者数や引上げた場合に影響を受ける事業者数などの数値を過度に考慮することなく、労働者の労働条件の改善、生活の安定を謳う最低賃金法の目的をふまえ、今まさに働いている人々の実情を汲み取って、決定されなければならない。

5 以上のとおり、当会は、厚生労働省に対し、地域間で格差のない全国一律最低賃金制度を実現するように求めるとともに、兵庫県地方最低賃金審議会に対し、中央最低賃金審議会の答申にかかわらず、県内の働く人々の確保・養成、そして、県内の産業育成・存続のため、最低賃金を大幅に引上げるように求める次第である。

以上

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