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旧優生保護法裁判・大阪地裁 請求棄却判決に関する会長談話

2022年(令和4年)9月23日
兵庫県弁護士会
会 長 中 上 幹 雄

 2022年9月22日、大阪地方裁判所は、旧優生保護法による強制不妊手術を受けた被害者らが国に対して損害賠償を請求した事件で、被害者らの請求を棄却する判決を言い渡しました。
 この判決では、旧優生保護法の規定は、憲法第13条及び第14条第1項に違反するものであることは明らかであるとし、このような立法を行った国会議員には国家賠償法上の違法が認められるとの判断が示されました。
 また、被害発生から長期間が経過しているとしても、本年2月の大阪高等裁判所判決や同3月の東京高等裁判所判決から読み取れるように、人権侵害の深刻さから、例外的に除斥期間の適用を制限し、被害者らの請求を認めるという判断も十分になし得るところでした。
 この点、この判決は、被害者らが障害に基づく偏見や差別によって、裁判を起こす前提となる情報や相談の機会を得ることが困難な状況があったこと、このような状況は、国による非人道的な優生保護法の制定やこれに基づく施策が差別・偏見を正当化して相当に助長したという事情があることから、除斥期間の適用をそのまま認めるのは著しく正義・衡平の理念に反するとして、例外的に、被害者らが裁判を起こす前提となる情報や相談の機会を得ることが困難な状況が解消されてから6か月の間に裁判を起こせば、除斥期間は適用されないと判断し、除斥期間の適用を制限しました。ここまでは前記大阪高等裁判所判決と同様です。
 しかしながら、その上で、この判決は、本件被害者らについては、仙台で最初に裁判が起こった2018年1月30日から間もない時期には、被害者らの聴覚障害に起因する意思疎通の困難性や社会的差別・偏見への躊躇があったことを考慮しても、情報を得て裁判を起こせる状況にあったとして、そこから6か月以上が経過した後に裁判を起こした本件の被害者らの請求には除斥期間が適用され、これを棄却するという判断を示しました。

 この判決は2つの意味で残念なものです。
 1つは、裁判所の被害者らの現在の状況に対する理解が未だ甚だ不十分であるということです。
 裁判所が判断したように、本当に、被害を受けた人たちが仙台の裁判が起こってから間もない時期に裁判を起こせる状況になっていたのなら、全国でもっとたくさんの裁判が起こっているはずです。しかし、少なくとも1万人以上いるとされる被害者の中で、訴訟を起こしたのは、現在まででわずか25名なのです。その理由は、被害者らの多くが、裁判所が指摘したとおり、被害者らの聴覚障害等だけではなく、優生手術の対象となった障害者に対する社会的な差別・偏見や、これを危惧する家族の意識・心理の下、未だに裁判を起こせない困難な状況にあるからなのです。
 もう1つは、前記大阪高等裁判所や東京高等裁判所の英断によって動き出した被害回復に向けた気運を大きく後退させることになったことです。両高等裁判所が、これまで除斥期間の壁に阻まれていた被害者の請求を、除斥期間の適用を例外的に制限して認容したのは、旧優生保護法による被害の深刻さと真摯に向き合い、被害を受けた人たちを救済しようと知恵を絞った結果であると考えます。ところが、この判決は前記大阪高等裁判所判決が向き合った被害の深刻さを理解しないまま杓子定規に、仙台での提訴から間もない時期には情報を得て裁判を起こせる状況にあったとしました。
 この2点において、この判決は本当に残念でなりません。

 東京高等裁判所の判決において、裁判長は、判決読み上げの後に「差別のない社会を作っていくのは、国はもちろん、社会全体の責任であると考えます。」と説示しました。私たち法曹には、その役割を果たすべき大きな責任があると考えます。各地で同種の訴訟が続いています。兵庫県在住の方の裁判は、現在控訴審で争っており、本年11月15日には審理を終え、年明けには判決が見込まれます。しかしながら、いずれも高齢となられた被害者らに残された時間は決して長くはありません。裁判所には、今一度、被害者の深刻な人生への被害と真摯に向き合い、一日も早い被害回復につながる判決を下されるよう期待したいと思います。

 当会は、誰もが人間としての尊厳を保ちながら、一人ひとりが尊重される差別のない当たり前の社会の実現を目指し、引き続き、ありとあらゆる努力を重ねていく所存です。

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