意見表明

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「入管法改定案」の再提出に改めて反対する会長声明

2023年(令和5年)2月27日

兵庫県弁護士会 会 長 中 上 幹 雄

声明の趣旨
 当会は、「入管法改定法案」の再提出に改めて反対する。

声明の理由
1.政府が、「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」(以下、「入管法改定法案」)を、一部修正の上、2023年の通常国会に提出することが明らかとなった。
 入管法改定法案は、2021年の通常国会に提出されたが、当会が、2020年10月23日付「送還忌  避・長期収容問題の解決に向けた提言」に対する会長声明で指摘した難民申請中の送還停止を2回までに制限する「送還停止効の例外」の導入に対する批判などによって廃案となった。
 しかし、政府の犯罪対策閣僚会議は、2022年(令和4年)12月20日付の「世界一安全な日本」創造戦略2022の中で、「入管法の改正を行い、難民認定申請中であっても、・・・複数回申請者については、一定の条件下において送還を可能とする等の措置を講じる。」としており、前回の同法案提出時に受けた批判をふまえた修正を行う意向を示していない。報道によれば、政府は、収容継続の要否を3か月ごとに検討する制度を新設し、監理人による監理を付した上で収容中の外国人等を放免することを可能とする「監理措置」制度で「監理人」に求めていた定期報告義務を撤回するなどの修正を行うものの、その他の制度の骨格は維持した上で法案提出が予定されている。
 そこで、当会は、改めて、以下の理由により、入管法改定法案に反対するものである。

2.送還停止効の例外の導入は難民条約に抵触すること
 政府は、前回の入管法改定法案において、出入国管理及び難民認定法が規定する、難民認定申請中の者の送還を停止する効力に関し、3回目以降の申請を例外とする制度を設けようとしていた。しかし、日本は、諸外国に比べ難民認定率が極端に低いことが指摘されており、実際には「難民」に該当するにもかかわらず、認定されずにやむを得ず複数回申請し、ようやく認定される例が相当数存在する。
 政府の難民認定手続が適切に実施されているとはいえない状況において、難民申請中の者に対する送還停止効の例外を設けることは、わが国が締結した難民条約が保障する種々の権利を不当に侵害しかねず、「生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない」という「ノン・ルフールマンの原則」(難民条約33条1項)に反する結果を招来する危険を孕むものである。

3.退去強制拒否罪(仮称)は恣意的運用の危険があること 
 政府は、前回の入管法改定法案において、退去強制に必要な出国手続を取らない外国人に対して、かかる手続を取ることや退去することを義務付ける命令を発し、命令に応じない場合には刑事罰を加える制度を予定していた。 
 しかしながら、同制度は、主任審査官の発布する司法審査を経ることのない退去強制令書を理由として刑罰を科すものであり、外国人の裁判を受ける権利(憲法32条)を侵害しかねない。退去強制令書の発付を受けた者の中には、帰国すると生命・身体に危険が及ぶ者や、日本に扶養を要する家族がいる者など、そもそも帰国できない事情を抱える者が存在する。また、家族で退去強制の対象となっているものの、子どもが日本で生まれ育ち、日本で教育を受けているため、母国語は全くできず、帰国すると教育を受けることすらできないことが危惧される者も相当数存在する。出入国在留管理関係訴訟で国が敗訴した確定判決が、平成28年以降の3年間でも合計26件に上ることからも、以上の者らの裁判を受ける権利は尊重されなくてはならない。
 また、同罪によって、様々な事情によって出国できない外国人らを支援するNGO等の関係者や弁護士・行政書士等の専門家が共犯として刑罰の対象とされる可能性があり、外国人らに必要とされる国内での人道的支援や人権擁護に必要な諸活動を著しく萎縮させかねない。政府が、対象者を限定する運用を行う予定だとしても、同罪の構成要件に運用上の考慮事項を全て盛り込むことは不可能であり、結局、当局の恣意的裁量の余地を残し、保護されるべき者の権利を侵害する危険性が払拭できない。 

4.仮放免逃亡罪(仮称)は実効性に乏しく、保釈制度との均衡を失すること
 政府は、前回の入管法改定法案で、仮放免中の逃亡に対する罰則の新設を予定していた。しかしながら、刑事訴訟法の保釈制度と同様に、逃亡した被仮放免者は、逃亡防止・出頭確保のため、身元保証人を付し、保証金を納付させている。さらに、刑罰を科すことは、保釈中の逃亡罪を制定していない保釈制度とのバランスからも、慎重であるべきである。また、同罪も、外国人らを支援するNGO等の関係者や弁護士・行政書士等の専門家が共犯として刑罰の対象とされる可能性があり、外国人らに必要とされる国内での人道的支援や人権擁護に必要な諸活動を著しく萎縮させかねない。

5.監理措置制度の創設は恣意的裁量による運用となるおそれがあること
 政府は、前回の入管法改定法案で、退去強制令状により収容中の外国人等について、逃亡のおそれの程度等を考慮し、監理人による監理を付して放免する監理措置制度を新設しようとしていた。
 しかし、監理措置に付す基準も明確にされておらず、出入国在留管理庁の裁量に委ねられ、独立した司法の審査を経ないため、外国人等の恣意的拘禁を改善する効果が期待できない。
 さらに、入管法改定法案によれば、監理措置の決定を受けた被退去強制者は、就労許可される余地はないところ、収入も社会保障もなく生存権を脅かされている状況にある被退去強制者に対し、就労を理由として刑事罰を科す制度そのものが、外国人の基本的人権を侵害するものである。

6.国際人権(自由権)規約委員会が入管法改定の方向性を示していること
 国連総会で採択された自由権規約の実施を監督する国際人権(自由権)規約委員会が2022年11月3日付でわが国に対して発表した総括所見では、①国際基準に沿った包括的な難民保護制度を創設し、②国際基準に沿った収容中の医療アクセスを改善し、③仮放免中の者に対する生活支援及び収入を目的とした活動を承認し、④独立した司法による難民不認定処分の異議申立審査制度を創設し、⑤現在行われている収容に代替する措置や収容期間の上限の導入を行い、⑥現在の原則全件収容主義を転換し、必要最小限度の期間に限った収容を謙抑的に運用することが求められている。
 入管法の改定にあたっては、以上の総括所見をふまえた、難民が間違いなく「難民」として認定される制度改善、外国人等の生活保障、現在の収容制度の改善が先決である。
 したがって、当会は前回の入管法改定法案で予定されていた送還停止効の例外の導入、退去強制拒否罪・仮放免逃亡罪・監理措置制度の創設に対し、改めて反対する。

                                             以 上

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