意見表明

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いわゆる谷間世代への一律給付実現を求める会長声明

2023年(令和5年)3月14日
兵庫県弁護士会   
会 長  中 上 幹 雄

第1 声明の趣旨

 当会は、国に対し、新第65期から第70期司法修習終了者への修習中の経済的支援策が十分ではなかった実情をふまえ、これらの者のために、不平等・不公平の是正等の措置、すなわち一律給付の実現を早急に講じることを求める。

第2 声明の理由

1 司法修習生の待遇については、裁判所法改正により、平成24年(2012年)11月3日から、修習に専念する資金として、給費制から月額23万円等(上限300万円)を無利息で貸与する貸与金制度に移行した(平成29年改正前の裁判所法67条の2)。
 その後、日本弁護士連合会及び当会を含む全国の弁護士会が給費制復活を求めて様々な活動をした結果、給費制廃止が見直され、平成29年(2017年)4月、裁判所法改正により新たな修習給付金制度が創設され、第71期以降の司法修習生は、基本給付月額13万5000円、加えて必要な者は住居給付月額3万5000円を受けることとなった。

2 ところが、新第65期から第70期までの司法修習終了者については、何らの救済措置も採られなかったことにより、かつての給費制世代と新しい給付金世代の「谷間」に置かれた無給世代(いわゆる「谷間世代」)として放置されるという制度的不備が残されることとなった。
 この問題を解決すべく、日本弁護士連合会及び当会は、法曹三者の協議、さらに政府や国会議員との対話を通じて、その実現を目指してきたところである。その結果、令和5年(2023年)3月3日時点で、過半数の国会議員から賛同メッセージを頂戴するに至った。このメッセージはまさに国民の声であり、この問題の早期解決を求める意思の表れである。
 この問題は司法の場でも指摘され、名古屋高等裁判所令和元年(2019年)5月30日判決では「従前の司法修習制度の下で給費制が果たした役割の重要性及び司法修習生に対する経済的支援の必要性については、決して軽視されてはならない(中略)例えば谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分に考慮に値するのではないかと感じられるが、そのためには、相当な財政的負担が必要となり、これに対する国民的理解も得なければならないところであるから、その判断は立法府に委ねざるを得ない。」とされている。まさに過半数の国会議員から賛同メッセージを得たことからも立法府の判断が求められる状況にあるといえる。
 このような状況の中、「谷間世代」弁護士へは、平成31年(2019年)より、日本弁護士連合会が谷間世代の受給要件を満たす申請者に給付金20万円を給付することを決定しており、令和3年より、当会も谷間世代の受給要件を満たす申請者に支援金30万円を給付することを決定したところであるが、残念ながら国からは何らの手当もされていない。

3 そもそも法曹養成とは三権分立の一翼を担う司法と市民の人権擁護の担い手の養成の問題であり、司法の人的インフラ整備の問題なのであるから、国家が責務を負うべきである。そして、現在、法曹経験6年目から11年目に該当する「谷間世代」法曹は、6年間で約1万1千人、全法曹の約4分の1を占めており、その能力を発揮して国民の権利・利益を擁護するための公共的使命を果たすことが大いに期待されている。
 特に弁護士は、これまでも在野法曹の立場から人権課題にも積極的に取り組み、時に報酬を度外視しても献身的に、社会的経済的弱者に寄り添って、社会全体を下支えしてきた。近年は大規模自然災害の多発や、長引くコロナ禍で生じた様々な問題、その他先進技術に対する対応等様々な社会課題に取り組む必要性が出ている。「谷間世代」弁護士も、他の世代の弁護士と同じく、様々な分野で活動に取り組んでいる。
 にもかかわらず、「谷間世代」法曹は、法科大学院の学費や生活費等の負担に加え、約1年間の司法修習が無給だったことにより、法曹のスタートラインで経済的負担を抱えており、以後、公的な手当てがなされないまま、5年の据置期間を経て毎年貸与金返済を求められる等の状況で、職務に取り組むことを余儀なくされている。そうした状況では、経済的負担への将来にわたる不安感、無給制(貸与制)自体への不条理感、「谷間」の状況への不公平感などが解消されることがなく、人権擁護など社会的経済的弱者のために活動する余裕や意欲を維持するのが困難となりかねない。このような経済的・精神的足かせによって、能力ある「谷間世代」法曹の活躍が阻害されかねない状況が生じていることは、大きな社会的損失である。

4 そこで、当会は、国に対して、改めて「谷間世代」を生み出した制度的不備を是正するため、国による「谷間世代」法曹への新給付金相当額又はこれを上回る金額の一律給付を実現することを強く求めるものである。

以 上

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