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大崎事件第四次再審請求即時抗告棄却決定に抗議する会長声明

 

1 本年6月5日、福岡高等裁判所宮崎支部は、いわゆる大崎事件第四次再審請求の即時抗告審において、再審請求を棄却した原決定(鹿児島地方裁判所令和4年(2022年)6月22日決定)を是認し、請求人の即時抗告を棄却した。本声明は、これに対して強く抗議するものである。

2 大崎事件は、昭和54年(1979年)10月15日に、鹿児島県大崎町で、原口アヤ子氏(当時52歳)の義弟が、自宅横の牛小屋の堆肥の中から遺体で発見されたことで発覚した事件であり、原口アヤ子氏が、元夫及び他の義弟と共謀して、殺害し、その遺体を、他の義弟の子も加えた4名で遺棄したとされた。

  原口アヤ子氏は、捜査段階から一貫して無実を主張していたにもかかわらず、確定審では、共犯者とされた元夫、他の義弟、その義弟の子の3人の「自白」、その「自白」で述べられた犯行態様と矛盾しない法医学鑑定、他の親族の供述等を主な証拠として、懲役10年の有罪判決の宣告を受けた。その後、原口アヤ子氏は、服役し、満期で出所した。

  これまで、第一次再審請求では、鹿児島地方裁判所が再審開始を決定したが、即時抗告審において、福岡高等裁判所宮崎支部はこれを覆した。その後の第二次再審請求も棄却された。第三次再審請求では、鹿児島地方裁判所が再審開始決定をし、即時抗告審において福岡高等裁判所宮崎支部も再審開始決定を維持したにもかかわらず、特別抗告審において最高裁判所は、検察官の特別抗告に理由がないとしながらも、下級審に差し戻すこともなく、「取り消さなければ著しく正義に反する」として、再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却するという前代未聞の決定をした。

3 令和2年(2020年)3月30日、大崎事件弁護団は、死亡時期についての救命救急医の鑑定書及び近隣住民の供述に関する供述鑑定書を新証拠として、第四次再審請求を行った。

  本件には、死亡した義弟が道路側溝に転落した後、同人を通行人が道路脇に引き上げて横たわらせたところ、さらに近隣住民がこれを発見し、当該義弟を軽トラックに乗せて同人宅まで運び、その後に、同人宅の牛小屋の堆肥の中で同人の遺体が発見されたという経緯があるところ、第四次再審請求では、転落時の負傷により自宅到着時に当該義弟が既に死亡していたか否かが争点となっている。そして、上記の新証拠によれば、当該義弟は転落事故によって致命的な傷害を負い、近隣住民が自宅に連れ帰った時点で既に死亡していた可能性が高く、上記新証拠は原口アヤ子氏らによる犯行が不可能であったことを示すものであり、刑事訴訟法第435条6号における新証拠の明白性は認められるべきであった。

  しかしながら、鹿児島地方裁判所は、新証拠の明白性の判断を誤り、再審請求を棄却し、福岡高等裁判所宮崎支部もその判断を維持し、不当にも即時抗告を棄却した。今回の即時抗告棄却決定では、原決定の判断を論理則、経験則等に照らしておおむね不合理なところはないとして是認したが、これは、新証拠の評価及び新旧証拠の総合判断を適切に行っていない点でも、また、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が再審にも適用されるとした白鳥事件及び財田川事件の最高裁決定に違反しているという点でも、到底容認できるものではない。

4 本年6月12日、大崎事件弁護団は、福岡高等裁判所宮崎支部の即時抗告棄却決定に対して、最高裁判所に特別抗告を行った。

  最高裁判所は、最上級審としての責務を果たすべく、原々審及び原審の誤りを是正し、再審開始の判断をなすべきである。

5 原口アヤ子氏は、現在、96歳と高齢であり、存命のうちに冤罪の被害から救済するためには、もはや一刻の猶予もない。当会は、長きにわたり自身の無実を訴え戦い続けている原口アヤ子氏の雪冤を果たすべく、1日でも早い再審公判開始と無罪判決を、強く求める次第である。

                        令和5年(2023年)7月28日

                           兵庫県弁護士会

                            会 長  柴  田  眞  里

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