2026年(令和8年)5月28日
兵庫県弁護士会 会長 村上 英樹
第1 声明の趣旨
1 中央最低賃金審議会に対し、目安制度によることなく地域別最低賃金の大幅な引上げを促すことを求める
2 兵庫県地方最低賃金審議会に対し、兵庫県地方最低賃金の大幅な引上げを答申することを求める
3 厚生労働省に対し、社会保険料や税の負担軽減策などの中小企業への抜本的な支援を直ちに講じるように求める
第2 声明の理由
1 2025年の兵庫県の最低賃金は64円を引き上げ、1116円となったが、それぞれ63円を引き上げた東京都は1226円、兵庫県の隣接都市大阪府は1177円であり、兵庫県との最低賃金格差はそれぞれ110円(対東京都)、61円(対大阪)となった。しかしながら、2011年の兵庫県の最低賃金は739円、東京都は837円、大阪府は786円であり、それぞれの差額が98円(対東京都)、47円(対大阪)であった14年前の水準と比べれば、未だに、大きな差が生じている。
地方においては、自動車保有による維持費用の支払を余儀なくされることもあり、最近の調査では、都市部と地方との間で、地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費にはほとんど差がないことが確認されている。とすれば、最低賃金の地域格差の解消に向け、地方の最低賃金を都市部と同水準に引き上げる措置が取られるべきである。
しかし、中央最低賃金審議会においては、毎年、地域別最低賃金額改定の目安について答申がなされ、目安には、各都道府県に適用される目安のランクとして、ABCの各ランクが設けられ、都道府県の経済実態に応じ、ランクごとに引上げ額の目安が提示されている(以下、「目安制度」という。)。そして、各地方最低賃金審議会が、この答申を参考にしつつ調査、審議・答申を行い、各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定することとなるが、昨年、目安制度でBランクとされる自治体の多くが目安額を1円から3円を上回る程度に止まったため、Aランクとの格差解消はわずかなものに止まっている。
このように、目安制度は、現在、却って最低賃金の地域格差解消を妨げているのが実情である。
兵庫県は、目安制度でBランクに位置づけられているため、全国加重平均である1121円を下回る1116円の最低賃金に止まり、Aランクの大阪府との地域格差が解消されない状態が続いてきた。しかも、その差額は、14年前の水準よりも拡大した状態が続いている。
兵庫県においても、それぞれの地域の賃金事情を過度に考慮することなく、大幅な最低賃金の引上げをして、Aランクである大阪府などとの格差を解消することが必要であるが、目安制度のために、かなわなかった実情がある。
よって、中央最低賃金審議会は、目安制度による地域別最低賃金額改定をはかるのではなく、全ての地域に対し、現在のAランクの自治体の最低賃金との格差解消に向けた地域別最低賃金の大幅な引上げを促すことが今こそ必要である。
2 次に、昨今の経済実態からみても、兵庫県の最低賃金は、大幅な引上げが求められる。
昨年に比べ、食料品や光熱費など生活関連商品やサービスの価格は、なお一層上昇し続けており、2020年(令和2年)基準の消費者物価指数の2026年(令和8年)3月分の総合指数は112.7(食品の指数は128.7)であり、前年同月比1.5%(食料は4%)の上昇が確認されている。
現在の兵庫県の最低賃金額1116円では、フルタイム(1日8時間、週40時間、月173時間)で働いたとしても、月収約19万3068円、年収約231万円程度に止まる。主食の米の価格の高止まりや生活必需品の物価高が続き、イラン攻撃などの情勢により、今後も物価上昇が確実視されている中、実効的な物価高対策や生活支援も講じられていないことからすれば、単身者の生活費として必ずしも十分な収入であるとはいえず、ましてや、子どもや家族を扶養することなど到底困難である。
そもそも、最低賃金法の目的は、「賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定」の確保である(最低賃金法1条)。とすれば、最低賃金は、「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。よって、当会は、今年度の兵庫県地方最低賃金審議会において、これまでの消費者物価指数の上昇率もふまえ、全ての労働者の生活を保障するため、目安額を考慮することなく、昨年を上回る大幅な引上げの答申がなされることを求める。
3 一方で、最低賃金の引上げにあたっては、現実に労働者に賃金を支払っている事業者、特に中小企業に対する手厚い支援が必要不可欠である。国が実施する最低賃金引上げのための支援策である事業者に対する業務改善助成金の制度は、一部拡充がされた経緯はあるが、実際に支援されるか不透明なまま、事業者が設備投資を行わなければならないことに変わりはなく、賃上げ促進税制も、青色申告事業者を対象としているため、支援としては不十分である。
そのため、業務改善助成金の上乗せ支援に止まらず、独自の賃上げ支援金制度を設ける自治体も生じており、賃上げを促すには、国の支援が不十分であることは繰り返し指摘してきた。
我が国の経済を支える中小企業が、最低賃金を引き上げつつ、円滑に事業を継続するため、今こそ、国が主導し、社会保険料や税の負担軽減策を直ちに行うように要請する。
4 以上のとおり、当会は、引き続き、中央最低賃金審議会に対し、目安制度にかかわらず、物価上昇に対応できる程度の地域別最低賃金の大幅な引上げを地方最低賃金審議会に促すこと、また、兵庫県地方最低賃金審議会に対し、昨今の物価上昇の中、健康で文化的な生活を確保できる大幅な最低賃金の引上げの答申を行うことをそれぞれ求めるとともに、厚生労働省に対し、早急に、社会保険料や税の負担軽減策などの最低賃金引上げに伴う中小企業に対する抜本的な支援を直ちに講じるように求める次第である。
以上
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