意見表明

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国選弁護制度の基本報酬及び各種弁護費用の抜本的改善を求める会長声明

 弁護人選任権は、刑事手続において、捜査・身体拘束・処罰に対し適切な防御を行い国民の権利と自由を守るために不可欠な基本的人権の核心たる権利の一つである。刑事手続は、決して特定の人にのみ関係するものではなく、日常生活を送るすべての国民にとって無縁ではない。誰しも、自らの意思や予測に反し、刑事手続の当事者となる可能性がある。そのようなときに適切な弁護を受けられるか否かは、その後の人生を大きく左右しかねない。刑事手続において時に捜査機関による違法・不当な捜査や冤罪が生じ得ることはこれまでの歴史が証明してきたことであり、それゆえ弁護人選任権が基本的人権として保障されているのである。

 我が国では、現在、勾留された被疑者については、一定の資力要件のもとで国選弁護人の選任を請求することができ、また被告人についても一定の資力要件のもとで国選弁護人が選任される制度が設けられている。これにより、刑事手続の捜査段階から公判段階に至るまで、国選弁護人による弁護を受ける制度が整備されている。国選弁護制度は、経済的事情に左右されることなく、すべての人に実質的な弁護人選任権の保障を及ぼすための、刑事司法の根幹を支える制度である。刑事事件においては、私選弁護人ではなく国選弁護人が選任される事案が多数を占めており、国選弁護制度は、現実に刑事弁護を支える中核的な制度となっている。

 弁護士、当会を含む各地の弁護士会(以下「単位会」という。)、日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は、国選弁護制度の担い手として、強い使命感をもって国選弁護人による迅速かつ充実した弁護が受けられるよう取り組んできた。各単位会や日弁連が実施する日々の研修等を通じて弁護士による日々の研鑽が重ねられ、また弁護士及び単位会が一体となって取り組み、その結果選任時から原則24時間以内に接見を可能とする体制が構築・維持されている。さらに、被疑者国選弁護制度が導入される前から、逮捕の時点から弁護士派遣を行う当番弁護士制度を設け、刑事手続の早期段階から弁護人の援助を受けられるよう努力をしてきた。

 国選弁護業務は、被疑者・被告人との接見、証拠・記録の精査、証拠収集、不当な身体拘束・捜査への対応、裁判での主張立証といったいずれも時間的制約のもと専門性が要求される業務の積み重ねである。また弁護活動においては、被害者やその家族をはじめとした関係者それぞれの心情や立場へ配慮した慎重かつ繊細な対応が求められる。そして、弁護活動は、被疑者・被告人の身体拘束、裁判の結果に直接影響し得る責任が重い業務である。また複雑な事件、重大な事件、障害を抱えた被疑者・被告人が関与する事件など、特に困難であったり専門性や多大な労力が求められる事件も少なくない。弁護人に課される負担は増大しており、弁護活動に求められる水準は高度化している。

 ところが、国選弁護人の報酬は、その負担と職責に見合ったものとは言い難い。日弁連は、国に対し、国選弁護報酬の増額を長年にわたり継続的に要請してきた。しかし、基本的な報酬水準については、微増や部分的な修正にとどまり、抜本的な見直しはなされてこなかった。近年の物価・人件費高騰を反映した増額もなされていない。さらに、交通費、記録謄写費用、私的鑑定費用など、本来公的に担保されるべき費用の全部または一部が弁護人の自己負担となっている現状もある。

 このような現状に対し、当会を含む各単位会や日弁連は、会員である弁護士が納めた会費の中から、国選弁護を担う弁護士に対し、報酬が負担に見合わない場合や、国から支払われない実費等について支援する制度を設け、国選弁護を担う弁護士を支援しているのが実情である。このように、国選弁護人を担う弁護士が適正な報酬を受けられず負担を強いられ、また各単位会や日弁連が会員から集めた会費から国選弁護人を担う弁護士を支援するといった現状は、本来国が負担すべき国選弁護制度を、弁護士・単位会・日弁連に依存するものであり、異常事態であると言わざるを得ない。現在の国選弁護制度は、使命感のある弁護士と国選弁護を弁護士の使命と考える各単位会や日弁連の犠牲によってかろうじて支えられているといえ、今後担い手の確保が困難となるようなことがあれば、国選弁護制度そのものが揺らぎかねない。国選弁護制度が揺らげば、最終的に不利益を被るのは、刑事手続において弁護を必要とする国民である。

 もはや微増や部分的な修正で済まされる状況にはなく、弁護人の負担と職責に即した抜本的な制度改革が強く求められている。そこで、当会は、国に対し、国選弁護人がその職責にふさわしい評価と報酬を受け、将来にわたって国民の弁護人選任権が実質的に保障されるよう、国選弁護の基本報酬の抜本的な改善(十分な増額)と各種弁護費用の抜本的改善(弁護人の自己負担となっている費用の支給)を強く求める。

 2026年(令和8年)2月25日

兵庫県弁護士会       
    会長  中 山 稔 規  

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