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令和3年司法試験最終合格発表に関する会長声明


2021年(令和3年)9月24日
兵庫県弁護士会
会 長  津 久 井 進

 

 第1 声明の趣旨

 政府に対し、司法試験合格者を1500人程度輩出すべきとした法曹養成推進会議の平成27年6月決定を見直し、速やかに適正な合格者数に減員することを可能とする政策を採ることを求める。


 第2 声明の理由

1 本年9月7日、令和3年司法試験の合格発表があり、最終合格者は1421人となった。
 受験者数は、今回は3424人であり、平成23年の8765人から減少傾向が続いている。
 合格率は、平成28年の22.9%から上昇を続け、本年は41.5%に達している(なお、予備試験合格者の本試験合格率は、93.50%である。)。
 今回の合格最低点は755点であるのに対し、総合点の平均点は794.07点である。
 新司法試験に完全移行した平成24年以降で受験者、合格者とも最少となったが、合格率は初めて4割を超えた。政府が平成27年に掲げた合格者の数値目標「1500人程度」は2年連続で下回った。

2 当会は、平成29年以来、毎年、会長声明として、1500人程度という人数を前提にすることのない合格判定を行うことを求めてきた。
本年は昨年に引き続き、合格者が1500人を下回り、当会のこれまでの意見表明が反映されたとみることもでき、評価できる面もある。
 しかしながら、ここ数年、合格最低点が総合点の平均点を下回る状況が続いており、特に本年は、合格率が41.5%に、総合点平均点と合格最低点との差が39.07点にも達していることからすると、本年も1500人程度を輩出するという政府目標を達成するために合格者の質よりも数を優先した疑念を払拭できない面もあり、誠に遺憾である。

3 法曹養成推進会議の平成27年6月決定は、法曹人口の在り方について、「引き続き法科大学院を中核とする法曹養成制度の改革を推進するとともに、法曹ないし法曹有資格者の活動領域の拡大や司法アクセスの容易化等に必要な取組を進め、より多くの有為な人材が法曹を志望し、多くの質の高い法曹が、前記司法制度改革の理念に沿って社会の様々な分野で活躍する状況になることを目指すべきである」としている。

4 この間、弁護士人口は、平成27年の3万6415人から令和2年の4万2164人へと5749人増加している。
 しかしながら、
 @ 法曹有資格者の活動領域の拡大については、企業内弁護士の人数は増加傾向ではあるものの令和2年で合計2629人と、増員した弁護士を吸収できる規模には達していない。国や自治体における弁護士需要も、任期付き公務員が多い上、令和2年で合計241人が任用されているに止まっている。海外展開支援事業における需要も低調である。
 政府が想定するほど法曹有資格者の活動領域の広がりはなかったと言わざるを得ない。
 A 司法アクセスの容易化については、平成27年10月当時ゼロ支部0カ所・ワン支部1か所であったのが、令和2年10月現在ゼロ支部0カ所・ワン支部2カ所となっている。日弁連ひまわり基金による公設事務所は平成27年115事務所から令和2年122事務所と7件増加に止まっており、日本司法支援センターの司法支援過疎地域事務所は平成27年以降35件か34件となっている。いずれも大きな変化はなく、弁護士過疎の問題はほぼ解消している。
 法律相談件数については、日本司法支援センターの無料法律相談件数が増加しているものの、弁護士会による有料・無料相談を含めた全体の相談件数は平成27年度の60万6928件から平成31年度の60万5708件と横ばいか減少傾向にある。
 司法アクセスの容易化という課題については、平成27年6月決定当時において想定された政策目標は、ほぼ達成されたと評価でき、これ以上の大幅な拡大を見込む要因はない。
 B 従来からの職域である訴訟業務については、平成27年以降の裁判所での民事事件、家事事件の新規受入事件数をみると、簡易裁判所の事件や別表第一審判事件など増加傾向にある類型もあるが、増加した弁護士数と比例するような規模ではない。
 政府は、法的需要が喚起できることを前提に1500人という人数を決定したと思われるが、この間、政府が想定しているような法的需要の広がりがなかったと言わざるを得ない。

5 他方、法科大学院志願者は、平成27年度の1万0370人から平成30年度の8058人に減少し、令和2年度は8161人と回復しているものの低調傾向である。
 競争倍率は、平成27年度は1.87倍であったが、令和2年は2.21倍となり増加はしている。しかし、これは、定員数が平成27年度3169人から令和2年度2233人に減少しているためである。
 政府は、より多くの有為な人材が法曹を志望することによって質の高い法曹を輩出することを前提にしていたが、この間、政府が想定しているほど有為な人材が法曹を志願する状況になっていないと言わざるを得ない。

6 当会は、弁護士人口が急増することによる弊害を取り除くため、平成22年3月に、司法試験合格者は年間1000人程度とすべきであるとの「適正な法曹人口に関する総会決議」を行っている。ここでは、司法制度改革審議会が想定しているような法的需要が見込めないこと、弁護士数が急増することにより市民に不利益が生じることを指摘した。上述の状況からすると、当会が平成22年に危惧した点は、平成27年以降も、未だ解消されていないと言わざるを得ない。
 加えて、日本弁護士連合会の試算によると、1500人の合格者数を維持した場合、弁護士人口は、2019年(令和元年)の4万1118人から2047年(令和29年)の6万4121人まで増加し続けると予測されている。弁護士1人あたりの国民数も2019年(令和元年)は3068人であるのに対し、2047年(令和29年)には1632人に減少すると予測されている(弁護士白書2020年版)。
既に人口減少社会に突入しているわが国において、今後、政府が平成27年に想定していたような法的需要の増加や法曹志願者の増加は期待できない。

7 そこで、当会は、政府に対し、司法試験合格者を1500人程度輩出すべきとした法曹養成推進会議の平成27年6月決定を見直し、速やかに適正な合格者数に減員することを可能とする政策を採ることを求める。

以上


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