意見表明

ヒマリオンの部屋ヒマリオンの部屋

再審法改正を求める決議

 当会は、現在の再審制度の問題点を踏まえ、国に対し、刑事訴訟法「第6編 再審」の規定に関し、以下の通り改正することを求める。

1 再審事由を緩和ないし拡大し、再審開始決定を広く認めること(刑訴法435条関連)

2 証拠開示制度を新設し、検察官に、捜査機関が保管するすべての公判未提出証拠について記載した証拠目録の作成開示を義務づけることおよび証拠の開示を義務づけること

3 再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止すること(刑訴法450条関連)

4 再審請求中に、本人が死亡した場合の承継手続きに関する法制度を創設すること

以上のとおり、決議する。

2023年(令和5年)3月1日

兵庫県弁護士会

提案の理由

1 現行再審法制の問題点

 現行の再審法制度は、刑事訴訟法が昭和24年(西暦1949年)に成立し、その際、旧刑事訴訟法の規定のうち不利益再審に関する規定を削除した以外ほぼそのまま引き継いでできたものである。わずか19条に過ぎない再審手続き規定は、裁判所の裁量を広く認める結果となり、かえって裁判体ごとに訴訟指揮に差が生じるいわゆる「再審格差」を生じさせてきた。

 加えて、再審法の「無辜の救済」の理念に反するような検察官による不服申立てが認められ、かつ、頻発していることも相俟って、再審開始決定がなされても、上級審による開始決定の取消しが繰り返され、機能不全に陥っている。

2 改正の必要性

 我が国においては、過去・現在において、いくつもの再審請求事件が存在してきた。たとえば、日野町事件や湖東記念病院事件では、再審開始請求審での裁判所の訴訟指揮如何によって重要証拠の開示に差を生じさせてきた。また、大崎事件では、(当会でも会長声明を出したように)検察官不服申立てによって、3度の再審開始決定が覆され、事件から40年以上が経過するなど長期化している。同様に、袴田事件でも、捜査機関による捏造を疑わせる古い証拠が開示されたにも拘らず、即時抗告審にて再審開始決定が取り消され、その決定が最高裁に差戻しされ、事件から50年以上経過してもなお審理の長期化が見込まれている。

 このように、現行再審法制は機能不全に陥っていると言わざるを得ず、現行再審法制度の問題点は既に顕在化しており、一刻も早い改正が必要である。

3 各論

⑴ 再審事由の緩和ないし拡大(決議1項)

 再審請求事件の多くは、刑訴法435条6号に基づいて行われ、「明らかな証拠」が再審開始の要件とされており、同要件に該当するか否かを巡って熾烈な争いが繰り広げられている。

 同要件につき、最高裁白鳥決定(最判S50.5.20刑集29-5-177)は「確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいうものと解すべきであるが、右の明らかな証拠であるかどうかは、もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠と他の全証拠と総合的に評価して判断すべきであり、この判断に際しても、再審開始のためには確定判決における事実認定つき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において、『疑わしいときは被告人の利益に』という刑事裁判における鉄則が適用されるものと解すべきである」と判示した。

 そして、財田川決定(最決S51.10.12刑集30-9-1673)は「この原則を具体的に適用するにあたっては、確定判決が認定した犯罪事実の不存在が確実であるとの心証を得ることを必要とするものではなく、確定判決における事実認定の正当性についての疑いが合理的な理由に基づくものであることを必要とし、かつ、これをもって足りると解すべきであるから、犯罪の証明が十分でないことが明らかになった場合にも右の原則があてはまるのである」と判示した。

 これら白鳥・財田川決定は、新旧証拠の総合評価という明白性の判断基準を示したといえる。

 しかし、実際には、新証拠単体の評価のみであったり、旧証拠の証拠評価を不当に高め確定判決を維持する事例など実際に白鳥・財田川決定の判断枠組みが適切に用いられているとは言えない。

 そこで、この白鳥・財田川決定を前提に、再審事由を緩和ないし拡大させて、刑訴法435条6号の「明らかな証拠」を「事実誤認があると疑うに足りる証拠」とすべきである。

⑵ 証拠開示制度の新設(決議2項)

 現行刑訴法の再審規定は、わずか19条に過ぎず、証拠開示に関する定めは設けられていない。そのため、広汎な裁判所の裁量に委ねられていると言わざるを得ない。その結果、裁判所の積極的な訴訟指揮によって確定審で未開示であった証拠が大量に開示された事件がある一方で、裁判所の消極的な訴訟指揮によって証拠開示が実現しない事件もあるなど、裁判体の訴訟指揮に差が生じるいわゆる「再審格差」を生じさせてきた。

 また、裁判所が積極的な訴訟指揮を行い、証拠開示に関する命令や勧告を行ってもなお検察官が従わない事例も存在する。あるいは、存在していて然るべきな証拠についても不存在といった回答がなされる事例もある。

 再審開始請求審において、再審開始決定がなされず、えん罪被害者の尊厳回復および真の「無辜の救済」が実現しない原因には、再審請求審における証拠開示規定の不存在が大きい。

 そこで、国は再審法を改正し証拠開示制度を新設すべきである。具体的には、検察官に対し、捜査機関が保管するすべての公判未提出証拠について記載した証拠目録の作成開示を義務づけること、および同目録記載の証拠の開示を義務づけることとすべきである。

⑶ 検察官不服申立ての禁止(決議3項)

 たとえば、大崎事件では、既に3度の再審開始の判断がなされている。しかし、そのたびに検察官の不服申立てにより、即時抗告審・特別抗告審において開始決定が取り消されてきた。これは、現行刑訴法450条にて、再審開始決定に対して検察官が即時抗告することを認めているためである。

 検察官の不服申立てがなされることで、再審開始決定が下されているにも拘らず、即時抗告審・特別抗告審のため、審理が数年単位で長期化し、未だえん罪被害者の尊厳回復がなされず、「無辜の救済」が実現されていない状況にある。

 そもそも、ひとたび再審開始決定がなされたということは、確定判決の事実認定に対して、既に合理的な疑いが生じたと判断されたということであるから、誤判を是正する必要性と確定判決を維持する必要性とを比較した場合、後者は前者に劣後していると言うべきであろう。

 また、検察官は、再審開始決定後の再審公判において、改めて確定判決の事実認定が正当であることを主張立証すれば足りるのであって、その入口である再審開始決定に対する不服申立てを認める実益は低い。

 したがって、国は、現行刑訴法450条を改正し、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止とすべきである。

⑷ 承継手続きの創設(決議4項)

 既に言及してきているが、我が国における再審請求事件は、いずれも超長期化している状況にある。そのため、名張毒ぶどう酒事件のように「えん罪被害者」である確定判決の元被告人が亡くなってしまうという事例もある。また、超長期化することによって、大崎事件や袴田事件のように、元被告人が高齢となり、中には体調を崩し寝たきりとなる元被告人も存在している。

 万が一、再審請求人である元被告人が死亡した場合、審理は終了するため、遺族等により再審請求をはじめからやり直す必要がある。

 これにより、えん罪被害者の尊厳回復が一向に実現せず、再審法の目的である真の「無辜の救済」が実現されていない。

 そこで、再審請求人である元被告人が死亡した場合でも、遺族等による再審請求手続きの承継を可能とすべきである。

4 最後に

 今こそ「えん罪被害者の尊厳を回復」し、真の「無辜の救済」の理念実現のため、刑事司法改革を目指し、再審法の速やかな改正を求める次第である。 以上

PDFファイルはこちら→

この記事をSNSでシェアする